目が合うたび、恋が始まっていた

perari

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翌日、俊介はまた病院へ行った。
スマホには航平からメッセージが届いていた。
「少しは良くなったか?」
俊介は「もう治りました」と返す。
「それなら良かった。これからはもっと暖かくしてな。」
「うんうん。」
たったそれだけのやり取りだった。
けれどその冬の朝の光景を、俊介はその後もたびたび思い出すことになる。
半ば眠ったままの目を開けたとき、航平がベッドの隣に座っていたこと。
そして笑いながら肉を食べていた、あの穏やかな横顔。
どんな場面でも、航平は決して気後れしない。
あの人の持つ大らかさは、ただそこにいるだけで空気を明るくする。
——そして、あの一瞬に胸を貫いた激しいときめき。
忘れようとしても、どうしても忘れられなかった。
まるで、暗闇の中をひとり歩いていて、ふと見上げた空に澄んだ月を見つけたような。
その光が、自分だけをやさしく照らしてくれるような——
そんな静かな幸福が、心の奥に残っていた。
その年、俊介はひたすら勉強に打ち込んでいた。
就職活動もせず、大学の授業もほとんどなくなったため、
中学生に数学を教える塾講師のバイトを始め、
あとは以前からの家庭教師。
それ以外の時間はすべて大学院入試の勉強にあてていた。
その冬、俊介の祖母が亡くなった。
もともと体が弱く、長年薬を飲み続けていた人だった。
この二年はさらに病が進み、俊介が伯母の家に帰るたび、
祖母はいつも彼の手を握り、昔話をゆっくりと語った。
年を取ると、思い出すことが多くなるのだろう。
祖母はよく、俊介の父の話をした。
俊介には、もうその記憶が薄れていた。
あまりに幼いころのことで、顔も声もおぼろげだった。
葬儀が終わると、俊介は伯母の家を出た。
荷物は多くない。高校卒業のときに教科書はすべて売ってしまい、
服も大学に入ってから少しずつ持ち出していた。
伯母と伯父は「卒業したらまた戻ってきていいよ。ここはお前の家だから」と言ってくれた。
けれど俊介には、それが優しい社交辞令だと分かっていた。
もう戻る理由はない。
高校を出てからというもの、あの家に泊まることはほとんどなかった。
俊介は文系から理系に転じ、金融を専攻して大学院を目指した。
同じく院試を受ける西村と、よく一緒に勉強した。
図書館やカフェを行き来する毎日。
西村は目が見えないため、耳と手の感覚だけで学んでいた。
「俊介……なんか、頭がもういっぱいで、動かない。」
「少し休もう。なんか食べに行く?」
「何食べるかな……ラーメンとか?」
「いいね。俺が奢る。パスタでもラーメンでも。」
「じゃ、ラーメンで。あとおにぎりも欲しい。」
俊介は笑ってうなずき、自分の荷物をまとめると、西村の荷物も手伝って片づけた。
西村はリュックを開けたまま抱え、俊介が丁寧に本を詰めていくのを待っている。
「この前さ、兄貴がどこかで買ってきたラムチョップ、めっちゃ旨かった。今度一緒に行こうぜ。」
「行く。俺、最近ずっと野菜ばっかでさ。次は肉だな。」
「肉だ肉!」と、西村は笑いながら何度もうなずいた。
そのとき、西村のスマホが鳴った。
「今どこだ!」
電話の向こうから仁野の大きな声がした。
「勉強中。努力してるよ。」
「真面目か!いいから出てこい。飯行くぞ。みんな帰ってきてる。」
「みんな?」
「そりゃそうだ。弦生以外な。」
「……ああ。」
西村は短く答えた。
「早く場所送れ。迎えに行く。」
「何食べるの?」
「親父が新しく出した店。」
「肉、ある?」
「あるに決まってんだろ!まさか菜食主義になったのか?貧乏で肉も食えなくなったか?」
「じゃ、頼む。俺と俊介、今から行く。」
電話を切ると、西村は俊介に向き直った。
「行こう、俊介。肉、食いに。」
俊介は瞬きをして、「仁野?」と確認した。
「そう。みんな帰ってきたらしい。」
「……みんな?」
「弦生以外、全員。」と、西村は小さく息をついた。
俊介はしばらく黙って、それから西村のリュックのファスナーを閉めた。
「じゃあ、行こう。」
——一年ぶりに、俊介は航平と再会する。

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