14 / 16
1.僕の父は国王ではなかった(アレックス視点)
しおりを挟む
アレックスは幼少の頃は活発で聡明な子どもだった。
「兄上! 今日の稽古の後は母上の部屋に一緒に行かない? 今王都で人気のショコラが手に入ったって、今朝母上が言っていたんだ」
「いや。僕はいいよ。僕が行ったら王妃様を嫌な気持ちにさせるから」
「母上は兄上とも話したいって言ってるよ。そんな事ないって」
クロヴィスは困った顔をした。
クロヴィスは自分達親子はここに居てはいけないと言い、王妃の視界に入らないように過ごしている事をアレックスは知っている。
しかし、王妃はクロヴィスの事を嫌っていない。どうやって接して良いのか戸惑ってはいるようだが。
「アレックス。クロヴィス。遅いぞ!」
遠くから声を張り上げたのは、叔父のジョージだ。
急いでジョージの所へ向う二人。
アレックスとクロヴィスの叔父は、王の弟で騎士団長だ。そして、アレックスとクロヴィスの剣の稽古をつけてくれている。
「「遅くなってすみません」」
「未来の王になる者は時間の管理も大切だ」
「「はい」」
ジョージはクロヴィスの方を向いて言った。
自分が王太子になると思っているアレックスは納得がいかない。
父親の国王ですら、王妃の子どもだからアレックスを王太子にすると言ってるのに、叔父のジョージはクロヴィスが王太子になると思っているのだ。
それにジョージは、クロヴィスよりもアレックスに対して少しだけ厳しい。
アレックスは時々自分は叔父に嫌われているのでは? と思う事もあった。
アレックスが十三歳になった年の豊穣祭の日。
昼間の式典が終わり、夜は王宮で舞踏会が開かれた。
アレックスは気心知れた友人達と会話を楽しんだ後、クロヴィスの事が気に掛かったので探す事にした。
人混みに紛れてクロヴィスに心無い言葉をぶつける輩は何処にでもいるものだ。
クロヴィスを探していたアレックスだが、視界に入ったのは叔父のジョージだった。
愛しい人を見つめるような眼差しで誰かを見ている。
叔父上にもとうとう春が来たのか?
三十代半ばの叔父は、まだ未婚で独身だ。それなりにモテているように見えるのだが、全て断っているようだ。
アレックスはニヤリと笑ってジョージの想い人を探す。
ん? あれは母上? いや。母上の友人のバラーラ夫人か? どっちにしたって人妻。ダメだろ叔父上。
アレックスがジョージと王妃達をちらちらと見ていると、王妃がジョージの視線に気づいた。
それは一瞬。ほんの一瞬だった。
ジョージの視線に気づいた王妃は口元を緩ませた。
えっ、嘘だろ。母上、不倫はダメだって。国王の妻が不倫って…………。
だから、母上は兄上に優しいのか。だって、母上が好きなのは父上じゃなくて叔父上なのだから。
僕が生まれてきたのは奇跡だな。だって、父上と母上はお互いに別の人が好きなのだから。………………まてよ。叔父上は兄上が王になるべきだと思っている。誰もが次の王は僕がなると思っているのに。
頭の中がその事でいっぱいになったアレックスは、次の日にジョージの部屋を訪ねた。
「アレックスか。珍しいな。稽古の事か?」
「…………」
「アレックス? 何かあったのか?」
「叔父上は僕が嫌いだから、厳しくするの?」
「そんな訳ないだろう? アレックスに立派に育って欲しいからだ」
ジョージは困った顔をしてアレックスを見た。
「兄上よりも立派に育って欲しい?」
「ん? まあ、そうだな」
「王になって欲しいのは兄上なのに? 僕の方が兄上よりも立派に育って欲しいの?」
「アレックス……話が見えないのだが。私は二人共立派に育って欲しいと思っているよ」
ジョージは優しい眼差しで、アレックスを見た。
「…………叔父上は父上?」
「な、にを。何を言っている」
「だから、叔父上は僕の父上?」
ジョージの目が泳いでいる。
アレックスは真実を悟った。
「やはりそうなのか」
「誰が。誰がそんな事を言ったのだ!」
すごい剣幕でアレックスに詰め寄るジョージ。
「昨日の式典で叔父上と母上を見ていたら気づいた」
アレックスの言葉を聞いて、ソファに沈み込むように座ったジョージ。
「兄上! 今日の稽古の後は母上の部屋に一緒に行かない? 今王都で人気のショコラが手に入ったって、今朝母上が言っていたんだ」
「いや。僕はいいよ。僕が行ったら王妃様を嫌な気持ちにさせるから」
「母上は兄上とも話したいって言ってるよ。そんな事ないって」
クロヴィスは困った顔をした。
クロヴィスは自分達親子はここに居てはいけないと言い、王妃の視界に入らないように過ごしている事をアレックスは知っている。
しかし、王妃はクロヴィスの事を嫌っていない。どうやって接して良いのか戸惑ってはいるようだが。
「アレックス。クロヴィス。遅いぞ!」
遠くから声を張り上げたのは、叔父のジョージだ。
急いでジョージの所へ向う二人。
アレックスとクロヴィスの叔父は、王の弟で騎士団長だ。そして、アレックスとクロヴィスの剣の稽古をつけてくれている。
「「遅くなってすみません」」
「未来の王になる者は時間の管理も大切だ」
「「はい」」
ジョージはクロヴィスの方を向いて言った。
自分が王太子になると思っているアレックスは納得がいかない。
父親の国王ですら、王妃の子どもだからアレックスを王太子にすると言ってるのに、叔父のジョージはクロヴィスが王太子になると思っているのだ。
それにジョージは、クロヴィスよりもアレックスに対して少しだけ厳しい。
アレックスは時々自分は叔父に嫌われているのでは? と思う事もあった。
アレックスが十三歳になった年の豊穣祭の日。
昼間の式典が終わり、夜は王宮で舞踏会が開かれた。
アレックスは気心知れた友人達と会話を楽しんだ後、クロヴィスの事が気に掛かったので探す事にした。
人混みに紛れてクロヴィスに心無い言葉をぶつける輩は何処にでもいるものだ。
クロヴィスを探していたアレックスだが、視界に入ったのは叔父のジョージだった。
愛しい人を見つめるような眼差しで誰かを見ている。
叔父上にもとうとう春が来たのか?
三十代半ばの叔父は、まだ未婚で独身だ。それなりにモテているように見えるのだが、全て断っているようだ。
アレックスはニヤリと笑ってジョージの想い人を探す。
ん? あれは母上? いや。母上の友人のバラーラ夫人か? どっちにしたって人妻。ダメだろ叔父上。
アレックスがジョージと王妃達をちらちらと見ていると、王妃がジョージの視線に気づいた。
それは一瞬。ほんの一瞬だった。
ジョージの視線に気づいた王妃は口元を緩ませた。
えっ、嘘だろ。母上、不倫はダメだって。国王の妻が不倫って…………。
だから、母上は兄上に優しいのか。だって、母上が好きなのは父上じゃなくて叔父上なのだから。
僕が生まれてきたのは奇跡だな。だって、父上と母上はお互いに別の人が好きなのだから。………………まてよ。叔父上は兄上が王になるべきだと思っている。誰もが次の王は僕がなると思っているのに。
頭の中がその事でいっぱいになったアレックスは、次の日にジョージの部屋を訪ねた。
「アレックスか。珍しいな。稽古の事か?」
「…………」
「アレックス? 何かあったのか?」
「叔父上は僕が嫌いだから、厳しくするの?」
「そんな訳ないだろう? アレックスに立派に育って欲しいからだ」
ジョージは困った顔をしてアレックスを見た。
「兄上よりも立派に育って欲しい?」
「ん? まあ、そうだな」
「王になって欲しいのは兄上なのに? 僕の方が兄上よりも立派に育って欲しいの?」
「アレックス……話が見えないのだが。私は二人共立派に育って欲しいと思っているよ」
ジョージは優しい眼差しで、アレックスを見た。
「…………叔父上は父上?」
「な、にを。何を言っている」
「だから、叔父上は僕の父上?」
ジョージの目が泳いでいる。
アレックスは真実を悟った。
「やはりそうなのか」
「誰が。誰がそんな事を言ったのだ!」
すごい剣幕でアレックスに詰め寄るジョージ。
「昨日の式典で叔父上と母上を見ていたら気づいた」
アレックスの言葉を聞いて、ソファに沈み込むように座ったジョージ。
12
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
似合わない2人が見つけた幸せ
木蓮
恋愛
レックスには美しい自分に似合わない婚約者がいる。自分のプライドを傷つけ続ける婚約者に苛立つレックスの前に、ある日理想の姿をした美しい令嬢ミレイが現れる。彼女はレックスに甘くささやく「私のために最高のドレスを作って欲しい」と。
*1日1話、18時更新です。
身代わりーダイヤモンドのように
Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。
恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。
お互い好きあっていたが破れた恋の話。
一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)
『白い結婚』が好条件だったから即断即決するしかないよね!
三谷朱花
恋愛
私、エヴァはずっともう親がいないものだと思っていた。亡くなった母方の祖父母に育てられていたからだ。だけど、年頃になった私を迎えに来たのは、ピョルリング伯爵だった。どうやら私はピョルリング伯爵の庶子らしい。そしてどうやら、政治の道具になるために、王都に連れていかれるらしい。そして、連れていかれた先には、年若いタッペル公爵がいた。どうやら、タッペル公爵は結婚したい理由があるらしい。タッペル公爵の出した条件に、私はすぐに飛びついた。だって、とてもいい条件だったから!
最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜
腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。
「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。
エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。
【完結】「お前を愛することはない」と言われましたが借金返済の為にクズな旦那様に嫁ぎました
華抹茶
恋愛
度重なる不運により領地が大打撃を受け、復興するも被害が大きすぎて家は多額の借金を作ってしまい没落寸前まで追い込まれた。そんな時その借金を肩代わりするために申し込まれた縁談を受けることに。
「私はお前を愛することはない。これは契約結婚だ」
「…かしこまりました」
初めての顔合わせの日、開口一番そう言われて私はニコラーク伯爵家へと嫁ぐことになった。
そしてわずか1週間後、結婚式なんて挙げることもなく籍だけを入れて、私―アメリア・リンジーは身一つで伯爵家へと移った。
※なろうさんでも公開しています。
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…
藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。
契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。
そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。
設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全9話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる