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ほうれん草祭の前日は、舞台造りの職人さん達の手伝いをした。野原の中心に毎年舞台を作っている。
私の前日準備の担当は調理担当だ。ほうれん草が入ったシチューを毎年作るのだが、二年前は野菜の皮むきをして指を切り。昨年は野菜を切り、私が切ったのだけ大き過ぎて火が通るのに時間がかかった。
今年は鍋をかき混ぜる係りになった。
うん。今年は問題なく終わりそうね。
パン屋さんが大量のパンを持って来てくれて、パンとシチューをみんなに配った。
ほうれん草祭当日。
お父様のお話が終わると祭りが始まった。
舞台の上では、楽器を演奏している人達がいる。
その舞台を囲むようにして、ほうれん草を持った人達が踊っている。
端の方には、出店も出ている。
「ほう。これがレイラール領のほうれん草祭か」
「ええ。王都は踊らないから不思議よね」
「マードック領も踊らないぞ」
「えっ! そうなの?」
「ああ」
踊るほうれん草祭をやっているのは少ないのね。
私は手のひらに乗せていたロンを肩に乗せて、踊りに参加をする事にした。
「ロン、しっかりと掴まっていてね」
私はほうれん草を持ちくるくる回った。時々ロンが落っこちていないか、肩を見たが安定してしがみついていた。
「ふふふ。楽しいわね」
「ああ、愉快だ。アネモネと踊るのは久しぶりだな」
「ネズミの姿では、難しいものね」
そういえばロイアン殿下とは、両手で数えきれない程、踊った事がある気がする。
王太子殿下とは無いし、第二王子のアーロン殿下とは、ミランダ様と仲良くしているから、お情けで数回踊っていただいた事があるわね。
なんで王子様のロンとこんなに踊った事があるのかしら……?
町の人達は、ネズミに向かって独り言を言っている私を不思議そうに見てきたが、追究してくる事はなかった。
ロンの声は小さくて、聞こえていないようだ。
夜になると、お酒が売り出されはじめる。
この国はお酒は十八歳からなので、セシルお兄様も飲んでいた。
町の人達と酒を飲んで肩を組み合っている所を見ると、ただの酔っぱらいだ。
あれの何処が、カッコいいのだろうか。
「ロン、帰りましょうか」
「まだ、終わっていないけれど、いいのか?」
「ええ、最後は飲みたい人しか残らないからいいのよ」
「そうか」
私は家族に声を掛けた。
お母様が馬車まで付き添うと言ってくれたが、すぐそこだから。と、断った。私は、馬車の方に向かって歩き出した。
何かしら……?
木の影で何かがもぞもぞと動いた。
「ロン……あれは?」
「少し近付いてみるか」
「ええ」
少し近付いてみると、男女がキスをしていた。
私は見てはいけないと思い、すぐにその場から離れれた。
「気付かれなかったかしら?」
「いや、大丈夫だろう」
「そう。良かったわ。あんなに長いキスもあるのね」
「アネモネは、知らないのか?」
「知らないわよ。ロンはした事あるの?」
「あ、ある訳ないだろう!」
ロンったら、急に慌ててどうしたのかしら?
「そう」
「アネモネはその…………のか」
「えっ、何?」
「だから、キスはした事あるのか?」
「長いやつ?」
「長いやつも、短いやつも」
「どちらも無いわ」
「そうか。ははは、一緒だな」
ロンは機嫌が良くなったようだが、ロンと一緒にされたくないと思った私は、気分が少し沈んだ。
私達は馬車に乗り先に家に帰った。
私の前日準備の担当は調理担当だ。ほうれん草が入ったシチューを毎年作るのだが、二年前は野菜の皮むきをして指を切り。昨年は野菜を切り、私が切ったのだけ大き過ぎて火が通るのに時間がかかった。
今年は鍋をかき混ぜる係りになった。
うん。今年は問題なく終わりそうね。
パン屋さんが大量のパンを持って来てくれて、パンとシチューをみんなに配った。
ほうれん草祭当日。
お父様のお話が終わると祭りが始まった。
舞台の上では、楽器を演奏している人達がいる。
その舞台を囲むようにして、ほうれん草を持った人達が踊っている。
端の方には、出店も出ている。
「ほう。これがレイラール領のほうれん草祭か」
「ええ。王都は踊らないから不思議よね」
「マードック領も踊らないぞ」
「えっ! そうなの?」
「ああ」
踊るほうれん草祭をやっているのは少ないのね。
私は手のひらに乗せていたロンを肩に乗せて、踊りに参加をする事にした。
「ロン、しっかりと掴まっていてね」
私はほうれん草を持ちくるくる回った。時々ロンが落っこちていないか、肩を見たが安定してしがみついていた。
「ふふふ。楽しいわね」
「ああ、愉快だ。アネモネと踊るのは久しぶりだな」
「ネズミの姿では、難しいものね」
そういえばロイアン殿下とは、両手で数えきれない程、踊った事がある気がする。
王太子殿下とは無いし、第二王子のアーロン殿下とは、ミランダ様と仲良くしているから、お情けで数回踊っていただいた事があるわね。
なんで王子様のロンとこんなに踊った事があるのかしら……?
町の人達は、ネズミに向かって独り言を言っている私を不思議そうに見てきたが、追究してくる事はなかった。
ロンの声は小さくて、聞こえていないようだ。
夜になると、お酒が売り出されはじめる。
この国はお酒は十八歳からなので、セシルお兄様も飲んでいた。
町の人達と酒を飲んで肩を組み合っている所を見ると、ただの酔っぱらいだ。
あれの何処が、カッコいいのだろうか。
「ロン、帰りましょうか」
「まだ、終わっていないけれど、いいのか?」
「ええ、最後は飲みたい人しか残らないからいいのよ」
「そうか」
私は家族に声を掛けた。
お母様が馬車まで付き添うと言ってくれたが、すぐそこだから。と、断った。私は、馬車の方に向かって歩き出した。
何かしら……?
木の影で何かがもぞもぞと動いた。
「ロン……あれは?」
「少し近付いてみるか」
「ええ」
少し近付いてみると、男女がキスをしていた。
私は見てはいけないと思い、すぐにその場から離れれた。
「気付かれなかったかしら?」
「いや、大丈夫だろう」
「そう。良かったわ。あんなに長いキスもあるのね」
「アネモネは、知らないのか?」
「知らないわよ。ロンはした事あるの?」
「あ、ある訳ないだろう!」
ロンったら、急に慌ててどうしたのかしら?
「そう」
「アネモネはその…………のか」
「えっ、何?」
「だから、キスはした事あるのか?」
「長いやつ?」
「長いやつも、短いやつも」
「どちらも無いわ」
「そうか。ははは、一緒だな」
ロンは機嫌が良くなったようだが、ロンと一緒にされたくないと思った私は、気分が少し沈んだ。
私達は馬車に乗り先に家に帰った。
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