5 / 48
5. 義兄妹って、どういう距離?
しおりを挟む
翌朝、登校して教室のドアを開けた瞬間、蓮は昨日とは違う視線を感じた。
軽く会釈してくるクラスメイト。妙に静かになって、こちらの様子をうかがう女子たち。
白石姉妹と義兄妹になったという話は、どうやらクラス中に知れ渡ってしまったらしい。
席についた瞬間、背後から軽く肘でつつかれる。
「おい蓮、お前マジで紗耶たんと一緒に住んでんの? しかも妹まで?」
声をひそめてきたのは、真後ろの席の男子・木下だ。
「……まあ、そういうことになってる」
「うわマジかよ。白石姉妹ってさ、男子の中で憧れトップ2だぞ? それが一気に家族って、お前どんなラブコメ展開だよ」
「いやラブもコメもないから」
苦笑で返す蓮に、木下はふーんと呟いてから、興味津々な目を向けてきた。
「で? 家じゃどうなんだ?」
「……勉強と飯と風呂と睡眠で終わる。以上」
「夢がねぇ!」
そのやりとりを聞いていた前の席の女子たちが、小声でひそひそと何か話している。
その中の一人がふと顔を上げて、蓮と目が合った。
「あ……あの、白石芽衣ちゃんって、風間くんと仲いいんだよね? なんか優しそうって言ってたけど、実際どうなの?」
なぜか本人に聞かず、義兄に聞いてくる不思議な構図に蓮が言葉を詰まらせていると、芽衣が教室のドアからひょこっと顔を出した。
「お兄ちゃーん、ノート忘れてない? 机の上にあったよー」
「うわっ……お前、それ言うなって……」
芽衣はにこにこと蓮の席まで歩いてきて、ノートを差し出す。教室の空気が一瞬静まり返るのを、蓮は確かに感じた。
「ありがとな……」
「ふふっ。じゃ、またあとで~」
芽衣が去ったあと、女子のひとりがぽつりと呟く。
「なんか、あの子の方が兄妹っぽくない?」
「……だな」
蓮は思わずため息をついた。
放課後。教室を出ようとすると、紗耶が廊下で待っていた。
「蓮くん、ちょっと屋上寄っていかない?」
問いに特別な意味は感じさせなかったが、昨日の屋上のやりとりが思い出されて、蓮は少しだけ気恥ずかしくなった。
「まあ……いいけど」
屋上は、ちょうど夕日が校舎を照らす時間帯だった。
柵に背をあずけて、紗耶は風に髪を揺らしている。
「今日は……なんか色々騒がしくて、ごめんね」
「別に気にしてねーよ。俺も慣れてきたし」
それでも、と言いかけた紗耶は、ふいに視線をそらした。
「……義理とはいえ、わたしたち兄妹でしょ? でも、蓮くんがいて、ちょっと助かってるのも事実だから。……ありがと」
夕日で赤く染まった彼女の横顔に、蓮は返す言葉を少し迷った。
「俺も……お前らがいて、助かってる。たぶん」
「……ふふっ、なんか照れる」
二人の間に、しばらくの沈黙が落ちた。けれど、それは決して重くはなかった。
屋上での会話のあと、二人は少しだけ気まずさを残しながらも、並んで階段を下りた。
家に帰りつくと、玄関には母親からのメモが貼られていた。
「芽衣へ:夜勤入ったからごはんは温めて食べてね。蓮くんと紗耶も一緒にどうぞ。—母より」
「また夜勤か……ほんと、最近多いね」
芽衣が台所から顔を出し、エプロン姿で手を拭きながら言った。
「冷蔵庫にカレーあるよ。昨日の残り。温めなおそっか」
「俺やるよ。芽衣は先に座ってて」
蓮は自分から鍋を火にかけ、盛り付けまでこなした。紗耶は少し驚いた顔で、それでも黙って座る。食卓には、自然と三人分の皿が並ぶ。
食事が始まると、いつものように芽衣が一番よく喋った。
「ねぇねぇ、学校でさ、○○先生がすっごい早口で喋るんだよー」
「それ、昨日も言ってたぞ」
「え? そうだっけ? でも今日のはもっと速かったんだってば!」
芽衣の話に相槌を打ちながらも、蓮の視線は時折、無言でカレーを食べる紗耶に向いていた。昨日までと何かが違う気がしてならない。
食後、蓮が食器を片付けていると、紗耶がふと隣に立った。
「……洗い物、交代する。わたしもやる」
「別にいいって」
「いいの。……今日は、わたしがしたいだけ」
そう言って、スポンジを取る紗耶。蓮は少し戸惑いながらも、静かに身を引いた。
リビングでは、芽衣がソファでくつろぎながらテレビを観ている。アイスを食べながら笑っている姿は、どこか年相応で、眩しくも見えた。
ふと、背後から紗耶の声がした。
「……今日さ。クラスの子に言われたんだ。“大丈夫?”って。わたしが、蓮くんと同居してて、ストレス感じてるんじゃないかって」
「は?」
「変な噂が立ってるみたい。“風間くん、すごい気を遣ってるらしいよ”って」
蓮は軽く眉をひそめた。
「それって……俺のせいか?」
「さあ。でも、もしそうなら……今夜ちょっと、話さない?」
「話す?」
「うん。ちゃんと、“兄妹”として、ルールとか、距離感とか。……なんか、今のままだと、いろいろ誤解も生まれそうで」
蓮は頷いた。たしかに、それは必要かもしれない。
「じゃ、芽衣が寝たあとにな」
「……うん、わかった」
こうして、三人の夕食は終わった。
それぞれが、少しずつ、気持ちに変化を抱えながら——夜は、静かに更けていく。
軽く会釈してくるクラスメイト。妙に静かになって、こちらの様子をうかがう女子たち。
白石姉妹と義兄妹になったという話は、どうやらクラス中に知れ渡ってしまったらしい。
席についた瞬間、背後から軽く肘でつつかれる。
「おい蓮、お前マジで紗耶たんと一緒に住んでんの? しかも妹まで?」
声をひそめてきたのは、真後ろの席の男子・木下だ。
「……まあ、そういうことになってる」
「うわマジかよ。白石姉妹ってさ、男子の中で憧れトップ2だぞ? それが一気に家族って、お前どんなラブコメ展開だよ」
「いやラブもコメもないから」
苦笑で返す蓮に、木下はふーんと呟いてから、興味津々な目を向けてきた。
「で? 家じゃどうなんだ?」
「……勉強と飯と風呂と睡眠で終わる。以上」
「夢がねぇ!」
そのやりとりを聞いていた前の席の女子たちが、小声でひそひそと何か話している。
その中の一人がふと顔を上げて、蓮と目が合った。
「あ……あの、白石芽衣ちゃんって、風間くんと仲いいんだよね? なんか優しそうって言ってたけど、実際どうなの?」
なぜか本人に聞かず、義兄に聞いてくる不思議な構図に蓮が言葉を詰まらせていると、芽衣が教室のドアからひょこっと顔を出した。
「お兄ちゃーん、ノート忘れてない? 机の上にあったよー」
「うわっ……お前、それ言うなって……」
芽衣はにこにこと蓮の席まで歩いてきて、ノートを差し出す。教室の空気が一瞬静まり返るのを、蓮は確かに感じた。
「ありがとな……」
「ふふっ。じゃ、またあとで~」
芽衣が去ったあと、女子のひとりがぽつりと呟く。
「なんか、あの子の方が兄妹っぽくない?」
「……だな」
蓮は思わずため息をついた。
放課後。教室を出ようとすると、紗耶が廊下で待っていた。
「蓮くん、ちょっと屋上寄っていかない?」
問いに特別な意味は感じさせなかったが、昨日の屋上のやりとりが思い出されて、蓮は少しだけ気恥ずかしくなった。
「まあ……いいけど」
屋上は、ちょうど夕日が校舎を照らす時間帯だった。
柵に背をあずけて、紗耶は風に髪を揺らしている。
「今日は……なんか色々騒がしくて、ごめんね」
「別に気にしてねーよ。俺も慣れてきたし」
それでも、と言いかけた紗耶は、ふいに視線をそらした。
「……義理とはいえ、わたしたち兄妹でしょ? でも、蓮くんがいて、ちょっと助かってるのも事実だから。……ありがと」
夕日で赤く染まった彼女の横顔に、蓮は返す言葉を少し迷った。
「俺も……お前らがいて、助かってる。たぶん」
「……ふふっ、なんか照れる」
二人の間に、しばらくの沈黙が落ちた。けれど、それは決して重くはなかった。
屋上での会話のあと、二人は少しだけ気まずさを残しながらも、並んで階段を下りた。
家に帰りつくと、玄関には母親からのメモが貼られていた。
「芽衣へ:夜勤入ったからごはんは温めて食べてね。蓮くんと紗耶も一緒にどうぞ。—母より」
「また夜勤か……ほんと、最近多いね」
芽衣が台所から顔を出し、エプロン姿で手を拭きながら言った。
「冷蔵庫にカレーあるよ。昨日の残り。温めなおそっか」
「俺やるよ。芽衣は先に座ってて」
蓮は自分から鍋を火にかけ、盛り付けまでこなした。紗耶は少し驚いた顔で、それでも黙って座る。食卓には、自然と三人分の皿が並ぶ。
食事が始まると、いつものように芽衣が一番よく喋った。
「ねぇねぇ、学校でさ、○○先生がすっごい早口で喋るんだよー」
「それ、昨日も言ってたぞ」
「え? そうだっけ? でも今日のはもっと速かったんだってば!」
芽衣の話に相槌を打ちながらも、蓮の視線は時折、無言でカレーを食べる紗耶に向いていた。昨日までと何かが違う気がしてならない。
食後、蓮が食器を片付けていると、紗耶がふと隣に立った。
「……洗い物、交代する。わたしもやる」
「別にいいって」
「いいの。……今日は、わたしがしたいだけ」
そう言って、スポンジを取る紗耶。蓮は少し戸惑いながらも、静かに身を引いた。
リビングでは、芽衣がソファでくつろぎながらテレビを観ている。アイスを食べながら笑っている姿は、どこか年相応で、眩しくも見えた。
ふと、背後から紗耶の声がした。
「……今日さ。クラスの子に言われたんだ。“大丈夫?”って。わたしが、蓮くんと同居してて、ストレス感じてるんじゃないかって」
「は?」
「変な噂が立ってるみたい。“風間くん、すごい気を遣ってるらしいよ”って」
蓮は軽く眉をひそめた。
「それって……俺のせいか?」
「さあ。でも、もしそうなら……今夜ちょっと、話さない?」
「話す?」
「うん。ちゃんと、“兄妹”として、ルールとか、距離感とか。……なんか、今のままだと、いろいろ誤解も生まれそうで」
蓮は頷いた。たしかに、それは必要かもしれない。
「じゃ、芽衣が寝たあとにな」
「……うん、わかった」
こうして、三人の夕食は終わった。
それぞれが、少しずつ、気持ちに変化を抱えながら——夜は、静かに更けていく。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい
みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。
それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。
願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。
スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。
ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。
※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる