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7.わたしの親友と、義兄の会話
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昼休み。
購買前の行列からパンを片手に抜け出した俺は、空いている教室に戻る途中、廊下の角で誰かとぶつかりかけた。
「あぶなっ、ごめんごめん!……あれ?」
明るくて高い声。
見上げると、金髪に近い茶髪をハーフアップにまとめた女子が、俺をじっと見ている。
「え、もしかしてさー、紗耶の“義兄”って、あんた?」
……なんで知ってんだ。
「あー……まあ、そうだけど」
俺がそう返すと、女子は目を見開き、ぱあっと笑った。
「うわ、マジで? まじイケてんじゃん! 紗耶、全然そんなこと教えてくれなかったんだけど?」
テンションの高いその女子は、制服のリボンもゆるくて、ネイルも薄く色がついてる。ギャル系だ。
たぶん――いや、間違いなく、紗耶の友達だろう。
「ウチ、紗耶と中学から一緒でさー。あ、ウチは柚月。他クラスなんだけどさ、よろしくね?」
「ああ、蓮。よろしく」
「うんうん、蓮くんね、ふーん……」
名前を復唱しながら、柚月はなぜかじーっと俺を眺めてくる。
その目がちょっとだけ値踏みしてるみたいで、居心地が悪い。
「ね、ぶっちゃけ聞いていい? 紗耶とは、どこまで仲良しなの?」
「いや、義兄妹だから普通に……」
「“普通に”って言っても、さー。家で二人きりの夜とかあるわけでしょ?」
ニヤニヤしながら、肘でつついてくる柚月。ギャルっぽい軽さがむしろ重い。
「何もないよ、ほんとに」
「えー、つまんなーい。でも、紗耶ってわかりにくいとこあるから、ちゃんと見ててあげなよ? じゃねー!」
ぱたぱたと手を振りながら、柚月は去っていった。
――一方、廊下の反対側。曲がり角の陰から、顔を半分だけ出してその様子を見ていたのは、紗耶だった。
(……なんで、柚月が蓮くんと?)
知らないうちに、胸の奥がきゅっとなっていた。
放課後。
荷物をまとめながら、紗耶はふと教室の窓の外に目をやった。いつもならさっさと帰るのに、なぜか今日は腰が重い。
(柚月……蓮くんと、どんな話したんだろ)
気になって仕方がない。
――なにそれ、私ってそんなに蓮くんのこと気にしてたっけ?
そもそも、義兄になったのなんてつい最近。それも、偶然みたいなもん。
だけど──。
「おーい、紗耶ー。帰んないのー?」
ちょうど廊下を通りかかった柚月が、教室に顔を出してきた。
「あ、うん。今出るとこ」
「じゃ、先帰るねー! あ、蓮くん、けっこういい人っぽいじゃん。仲良くしなよ?」
わざとらしくウィンクして、柚月はぴょこっと手を振って去っていった。
……胸のあたりが、またズキッとした。
(ほんっと、柚月って軽いんだから。別に、蓮くんのことなんて……)
でも、言い訳みたいにそう思えば思うほど、気持ちは曇っていく。
家に帰ると、すでにリビングには芽衣と蓮がいた。
芽衣は制服を着替え、リラックスした表情でゲームのコントローラーを握っている。
蓮はその隣に座って、静かに画面を眺めていた。
「あ、おかえり、紗耶お姉ちゃん!」
「おう、おかえり」
二人の声が重なる。
なんてことない、いつもの日常。でも、今日は少しだけ違って感じた。
「……ただいま」
靴を脱ぎながら答える声が、我ながらちょっと素っ気ない。
リビングに入ると、芽衣がにこにこと笑いながら言った。
「お姉ちゃんも一緒にやる? いま蓮くんが見てくれてるんだー」
「……いい。シャワー浴びてくる」
そう言ってリビングを素通りする自分の態度に、どこか違和感があった。
少しして風呂から上がると、二人はすでにゲームを終えて、ダイニングテーブルで並んで課題をしていた。
いつもより賑やかな家。
芽衣が誰かと楽しく話してる声は、聞いてるだけで和むはずなのに。
今日は、それがなんとなく耳障りに感じた。
(……何やってんの、わたし)
部屋に戻っても、課題が手につかない。
SNSを開いても、通知を流し見して閉じてしまう。
――トントン。
不意に部屋のドアを軽くノックする音。
「ん?」
「オレだけど、入っていい?」
ドアの向こうから聞こえてきたのは、蓮の声だった。
「……別に、どうぞ」
返事をすると、蓮がそっとドアを開けて入ってきた。
「芽衣、先に寝たから。なんか、元気ないと思って」
「別に。疲れただけ」
自分でもわかる。ぶっきらぼうな声。
蓮はそんな紗耶の隣の椅子に座り、しばらく黙っていた。
その沈黙が、なぜか心地よくて、少しずつ胸のわだかまりが溶けていく。
「柚月、面白い子だな」
蓮がぼそっと言った。
「……あの子は、調子に乗るとどんどん喋るから」
「でも、なんかお前のこと、よく見てる感じしたよ」
「……へぇ」
それだけ答えると、また沈黙。
だけど、今度はいやじゃなかった。
「義兄妹とか、よくわかんねーけどさ。無理して疲れてんだったら、ちゃんと休めよ」
「……誰のせいだと思ってんのよ」
小さく笑って、そう言い返す。
すると、蓮も笑った。
「じゃ、先寝る。おやすみ、紗耶」
「……おやすみ、蓮くん」
ドアが閉まって、ひとりきりの部屋に戻る。
さっきよりずっと、呼吸が楽になった気がした。
(……なに、これ)
もしかして、あたし――ほんとに、ちょっとだけ、嫉妬してた……?
購買前の行列からパンを片手に抜け出した俺は、空いている教室に戻る途中、廊下の角で誰かとぶつかりかけた。
「あぶなっ、ごめんごめん!……あれ?」
明るくて高い声。
見上げると、金髪に近い茶髪をハーフアップにまとめた女子が、俺をじっと見ている。
「え、もしかしてさー、紗耶の“義兄”って、あんた?」
……なんで知ってんだ。
「あー……まあ、そうだけど」
俺がそう返すと、女子は目を見開き、ぱあっと笑った。
「うわ、マジで? まじイケてんじゃん! 紗耶、全然そんなこと教えてくれなかったんだけど?」
テンションの高いその女子は、制服のリボンもゆるくて、ネイルも薄く色がついてる。ギャル系だ。
たぶん――いや、間違いなく、紗耶の友達だろう。
「ウチ、紗耶と中学から一緒でさー。あ、ウチは柚月。他クラスなんだけどさ、よろしくね?」
「ああ、蓮。よろしく」
「うんうん、蓮くんね、ふーん……」
名前を復唱しながら、柚月はなぜかじーっと俺を眺めてくる。
その目がちょっとだけ値踏みしてるみたいで、居心地が悪い。
「ね、ぶっちゃけ聞いていい? 紗耶とは、どこまで仲良しなの?」
「いや、義兄妹だから普通に……」
「“普通に”って言っても、さー。家で二人きりの夜とかあるわけでしょ?」
ニヤニヤしながら、肘でつついてくる柚月。ギャルっぽい軽さがむしろ重い。
「何もないよ、ほんとに」
「えー、つまんなーい。でも、紗耶ってわかりにくいとこあるから、ちゃんと見ててあげなよ? じゃねー!」
ぱたぱたと手を振りながら、柚月は去っていった。
――一方、廊下の反対側。曲がり角の陰から、顔を半分だけ出してその様子を見ていたのは、紗耶だった。
(……なんで、柚月が蓮くんと?)
知らないうちに、胸の奥がきゅっとなっていた。
放課後。
荷物をまとめながら、紗耶はふと教室の窓の外に目をやった。いつもならさっさと帰るのに、なぜか今日は腰が重い。
(柚月……蓮くんと、どんな話したんだろ)
気になって仕方がない。
――なにそれ、私ってそんなに蓮くんのこと気にしてたっけ?
そもそも、義兄になったのなんてつい最近。それも、偶然みたいなもん。
だけど──。
「おーい、紗耶ー。帰んないのー?」
ちょうど廊下を通りかかった柚月が、教室に顔を出してきた。
「あ、うん。今出るとこ」
「じゃ、先帰るねー! あ、蓮くん、けっこういい人っぽいじゃん。仲良くしなよ?」
わざとらしくウィンクして、柚月はぴょこっと手を振って去っていった。
……胸のあたりが、またズキッとした。
(ほんっと、柚月って軽いんだから。別に、蓮くんのことなんて……)
でも、言い訳みたいにそう思えば思うほど、気持ちは曇っていく。
家に帰ると、すでにリビングには芽衣と蓮がいた。
芽衣は制服を着替え、リラックスした表情でゲームのコントローラーを握っている。
蓮はその隣に座って、静かに画面を眺めていた。
「あ、おかえり、紗耶お姉ちゃん!」
「おう、おかえり」
二人の声が重なる。
なんてことない、いつもの日常。でも、今日は少しだけ違って感じた。
「……ただいま」
靴を脱ぎながら答える声が、我ながらちょっと素っ気ない。
リビングに入ると、芽衣がにこにこと笑いながら言った。
「お姉ちゃんも一緒にやる? いま蓮くんが見てくれてるんだー」
「……いい。シャワー浴びてくる」
そう言ってリビングを素通りする自分の態度に、どこか違和感があった。
少しして風呂から上がると、二人はすでにゲームを終えて、ダイニングテーブルで並んで課題をしていた。
いつもより賑やかな家。
芽衣が誰かと楽しく話してる声は、聞いてるだけで和むはずなのに。
今日は、それがなんとなく耳障りに感じた。
(……何やってんの、わたし)
部屋に戻っても、課題が手につかない。
SNSを開いても、通知を流し見して閉じてしまう。
――トントン。
不意に部屋のドアを軽くノックする音。
「ん?」
「オレだけど、入っていい?」
ドアの向こうから聞こえてきたのは、蓮の声だった。
「……別に、どうぞ」
返事をすると、蓮がそっとドアを開けて入ってきた。
「芽衣、先に寝たから。なんか、元気ないと思って」
「別に。疲れただけ」
自分でもわかる。ぶっきらぼうな声。
蓮はそんな紗耶の隣の椅子に座り、しばらく黙っていた。
その沈黙が、なぜか心地よくて、少しずつ胸のわだかまりが溶けていく。
「柚月、面白い子だな」
蓮がぼそっと言った。
「……あの子は、調子に乗るとどんどん喋るから」
「でも、なんかお前のこと、よく見てる感じしたよ」
「……へぇ」
それだけ答えると、また沈黙。
だけど、今度はいやじゃなかった。
「義兄妹とか、よくわかんねーけどさ。無理して疲れてんだったら、ちゃんと休めよ」
「……誰のせいだと思ってんのよ」
小さく笑って、そう言い返す。
すると、蓮も笑った。
「じゃ、先寝る。おやすみ、紗耶」
「……おやすみ、蓮くん」
ドアが閉まって、ひとりきりの部屋に戻る。
さっきよりずっと、呼吸が楽になった気がした。
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