26 / 48
26.ギャルと偶然の帰り道
しおりを挟む
夏休みも折り返しを過ぎたある午後。
蓮は駅前の大型書店に来ていた。
三好にもらった問題集の著者が出している別シリーズが気になっていて、それを見に来たのだ。ついでに勉強用のノートと、芽衣に頼まれていた文具も買った。最近じゃ、自分の用事以外にも自然と“誰かのため”の買い物が増えている。少し前の自分からは想像がつかない変化だった。
買い物袋を手に駅前の広場を抜けて帰路につこうとしたとき――
「うわ、蓮くーん!? まじで!? 超偶然じゃん!」
少し甲高い、でも聞き覚えのある声に、蓮は思わず振り返る。
そこには、柚月と、その両脇にいる見知らぬギャル二人組がいた。
「……柚月?」
「そうそー! てか、今日何してたの?」
「本屋行ってただけだけど」
柚月が蓮の手提げ袋をちらりと見る。
「えー、マジで本買ってるじゃん! えらっ」
そんな会話の隙間から、柚月の友人らしき一人が、こそこそと柚月の耳元に囁く。
「ねぇ、あの人ってさ……義兄妹の……」
「……そ、そうだよー。うん、そう」
蓮の耳にも届く声で、それが聞こえてしまった。
もう一人のギャルが口を開いた。
「え、ウケる。マジで紗耶ちゃんと芽衣ちゃんと住んでる人なんだ?」
「え、てか蓮くんって、ふつーにイケてない? なんか意外~! 義妹に美人二人とか、人生勝ち組じゃん!」
「やーめーてー! そーゆーこと本人の前で言わないの!」
柚月が慌てて二人の友達を小突くと、蓮の顔にはうっすらと苦笑いが浮かんでいた。
照れもあったが、それ以上に、“もう義兄妹のことは、だいぶ広まってるんだな”という事実を改めて実感する。
「じゃ、じゃあさ! ここで解散ね! また連絡するし!」
柚月は二人の友人にそう言い放つと、彼女たちは「あいよー」「またねー」と言い残し、あっさり去っていった。
蓮と柚月だけが残される。
「……びっくりした? ごめんね~、うちの友達、ちょっと口軽くて」
「いや、別に慣れてるし」
蓮が苦笑すると、柚月もつられるように笑ってみせた。
「ちょっと歩こっか。家すぐ帰るのもったいないしさ」
二人で並んで歩く道は、駅前から少し外れた川沿いの遊歩道。
蝉の声と、微かに吹く風が気持ちいい。人通りも少なく、話しやすい空気が流れていた。
「さっきの子たち、クラスの?」
「うん、中学からの友達。ギャルっぽいけど、根は真面目だよー。たぶん」
「……たぶんかよ」
そんな軽いやりとりのあと、しばらく沈黙が続く。
けれどそれは、気まずい類のものではなかった。柚月がふと口を開く。
「蓮くんってさ……紗耶と芽衣ちゃんと、うまくやってる?」
「なんだよ急に」
「いやー、なんかさ。最近、芽衣ちゃんの様子がちょっと変わった気がして」
「……変わった?」
「うん、なんかちょっと……張り切りすぎてるっていうか。気負ってるっていうか」
蓮は一瞬返す言葉を探して、口を閉じた。
――そういえば、旅行中の芽衣も、ちょっとそんな風だったかもしれない。
「ま、深く考えなくていいけどね? ウチ、ただの外野だし」
そう言って笑った柚月の顔は、どこか寂しそうだった。
「でもさ、あんたも結構モテるよねー。美人姉妹と住んで、しかも今じゃ女友達まで増えて」
「……女友達って誰だよ」
「三好ちゃんとか~。今日のウチも、女友達枠かな?」
「お前は、紗耶の友達だろ?」
「なにそれ。じゃあさ、たまには“柚月”として、ウチとも遊んでよ。義兄妹の友達じゃなく、個人としてさ」
不意に真っ直ぐな目で言われて、蓮は少しだけ視線を逸らした。
「……今日は充分、遊んだだろ」
「これは遊びじゃなくて、ただの散歩!」
「じゃあ、次は“遊び”にするか」
その一言に、柚月は少し驚いたように目を丸くして、それからゆっくり笑った。
「うん。約束、ね」
帰り際、駅前で別れた柚月は「またLINEする~」と手を振って、街に溶けていった。
蓮はその背中を見送ってから、家へ向かって歩き出す。
玄関に差しかかると、ちょうど芽衣が部屋着姿で廊下から出てきた。
「あれ、蓮くん、どこ行ってたの?」
「……ちょっと、本屋」
「ふーん……」
それだけ言って、芽衣はリビングの方へ歩いていった。
その背中が、ほんの少しだけ、いつもより静かに見えた。
柚月が家に帰ると、すぐにスマホを手に取ってLINEを開いた。
グループチャットに向けて軽い文面を送る。
「今日さー、偶然蓮くんに会っちゃった♡ しかも久しぶりに二人でちょっと歩いたの。うふふ~」
すぐに既読がつく。紗耶からの返信だった。
「そ、そんなことあったの……?」
紗耶の言葉には、ほんの少しの動揺と、隠せないヤキモチが混じっているように感じられた。
柚月はニヤリと笑いながら返信を返す。
「ふふっ、意外とウチの方がお兄ちゃんと仲いいかもね?」
それに対して紗耶は少し言葉を濁した。
「そうかな……でも、私も蓮くんのこと、ちゃんと見てるから」
その短いやりとりの中で、二人の間にほんの少しの火花が走るような気がした。想像以上に彼女たちの心には複雑な感情が渦巻いているのかもしれない。
柚月はスマホを置き、軽くため息をついた。
(さて、これからどう転ぶか、楽しみだね)と心の中でつぶやきながら。
蓮は駅前の大型書店に来ていた。
三好にもらった問題集の著者が出している別シリーズが気になっていて、それを見に来たのだ。ついでに勉強用のノートと、芽衣に頼まれていた文具も買った。最近じゃ、自分の用事以外にも自然と“誰かのため”の買い物が増えている。少し前の自分からは想像がつかない変化だった。
買い物袋を手に駅前の広場を抜けて帰路につこうとしたとき――
「うわ、蓮くーん!? まじで!? 超偶然じゃん!」
少し甲高い、でも聞き覚えのある声に、蓮は思わず振り返る。
そこには、柚月と、その両脇にいる見知らぬギャル二人組がいた。
「……柚月?」
「そうそー! てか、今日何してたの?」
「本屋行ってただけだけど」
柚月が蓮の手提げ袋をちらりと見る。
「えー、マジで本買ってるじゃん! えらっ」
そんな会話の隙間から、柚月の友人らしき一人が、こそこそと柚月の耳元に囁く。
「ねぇ、あの人ってさ……義兄妹の……」
「……そ、そうだよー。うん、そう」
蓮の耳にも届く声で、それが聞こえてしまった。
もう一人のギャルが口を開いた。
「え、ウケる。マジで紗耶ちゃんと芽衣ちゃんと住んでる人なんだ?」
「え、てか蓮くんって、ふつーにイケてない? なんか意外~! 義妹に美人二人とか、人生勝ち組じゃん!」
「やーめーてー! そーゆーこと本人の前で言わないの!」
柚月が慌てて二人の友達を小突くと、蓮の顔にはうっすらと苦笑いが浮かんでいた。
照れもあったが、それ以上に、“もう義兄妹のことは、だいぶ広まってるんだな”という事実を改めて実感する。
「じゃ、じゃあさ! ここで解散ね! また連絡するし!」
柚月は二人の友人にそう言い放つと、彼女たちは「あいよー」「またねー」と言い残し、あっさり去っていった。
蓮と柚月だけが残される。
「……びっくりした? ごめんね~、うちの友達、ちょっと口軽くて」
「いや、別に慣れてるし」
蓮が苦笑すると、柚月もつられるように笑ってみせた。
「ちょっと歩こっか。家すぐ帰るのもったいないしさ」
二人で並んで歩く道は、駅前から少し外れた川沿いの遊歩道。
蝉の声と、微かに吹く風が気持ちいい。人通りも少なく、話しやすい空気が流れていた。
「さっきの子たち、クラスの?」
「うん、中学からの友達。ギャルっぽいけど、根は真面目だよー。たぶん」
「……たぶんかよ」
そんな軽いやりとりのあと、しばらく沈黙が続く。
けれどそれは、気まずい類のものではなかった。柚月がふと口を開く。
「蓮くんってさ……紗耶と芽衣ちゃんと、うまくやってる?」
「なんだよ急に」
「いやー、なんかさ。最近、芽衣ちゃんの様子がちょっと変わった気がして」
「……変わった?」
「うん、なんかちょっと……張り切りすぎてるっていうか。気負ってるっていうか」
蓮は一瞬返す言葉を探して、口を閉じた。
――そういえば、旅行中の芽衣も、ちょっとそんな風だったかもしれない。
「ま、深く考えなくていいけどね? ウチ、ただの外野だし」
そう言って笑った柚月の顔は、どこか寂しそうだった。
「でもさ、あんたも結構モテるよねー。美人姉妹と住んで、しかも今じゃ女友達まで増えて」
「……女友達って誰だよ」
「三好ちゃんとか~。今日のウチも、女友達枠かな?」
「お前は、紗耶の友達だろ?」
「なにそれ。じゃあさ、たまには“柚月”として、ウチとも遊んでよ。義兄妹の友達じゃなく、個人としてさ」
不意に真っ直ぐな目で言われて、蓮は少しだけ視線を逸らした。
「……今日は充分、遊んだだろ」
「これは遊びじゃなくて、ただの散歩!」
「じゃあ、次は“遊び”にするか」
その一言に、柚月は少し驚いたように目を丸くして、それからゆっくり笑った。
「うん。約束、ね」
帰り際、駅前で別れた柚月は「またLINEする~」と手を振って、街に溶けていった。
蓮はその背中を見送ってから、家へ向かって歩き出す。
玄関に差しかかると、ちょうど芽衣が部屋着姿で廊下から出てきた。
「あれ、蓮くん、どこ行ってたの?」
「……ちょっと、本屋」
「ふーん……」
それだけ言って、芽衣はリビングの方へ歩いていった。
その背中が、ほんの少しだけ、いつもより静かに見えた。
柚月が家に帰ると、すぐにスマホを手に取ってLINEを開いた。
グループチャットに向けて軽い文面を送る。
「今日さー、偶然蓮くんに会っちゃった♡ しかも久しぶりに二人でちょっと歩いたの。うふふ~」
すぐに既読がつく。紗耶からの返信だった。
「そ、そんなことあったの……?」
紗耶の言葉には、ほんの少しの動揺と、隠せないヤキモチが混じっているように感じられた。
柚月はニヤリと笑いながら返信を返す。
「ふふっ、意外とウチの方がお兄ちゃんと仲いいかもね?」
それに対して紗耶は少し言葉を濁した。
「そうかな……でも、私も蓮くんのこと、ちゃんと見てるから」
その短いやりとりの中で、二人の間にほんの少しの火花が走るような気がした。想像以上に彼女たちの心には複雑な感情が渦巻いているのかもしれない。
柚月はスマホを置き、軽くため息をついた。
(さて、これからどう転ぶか、楽しみだね)と心の中でつぶやきながら。
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる