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28.夏の終わりに
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夏休みも終盤に差し掛かったある晩。みんなでテレビを見ていた居間に、家に遊びに来ていた柚月の何気ない一言が発せられた。
「……なんかさ、このまま夏終わるの寂しくない?」
テレビ画面では特集番組で流しそうめんを楽しむ家族の映像が流れている。
「花火大会も行ったし、家族旅行もしたし、十分じゃないの?」と蓮が肩をすくめると、紗耶が微笑んで首を振った。
「たしかにいろいろやったけど、なんか……もうちょっと記憶に残る、変なことしたくない?」
「変なことって何?」と柚月が笑う。
「うーん……肝試しとか?」
紗耶の口からさらっと出たその一言に、芽衣がパッと顔を輝かせた。
「それいい!やろうやろう!行こうよ、今から!」
「いや今からってお前……もうすぐ九時だぞ」
「だからいいの。夜じゃないと雰囲気出ないし!」
すっかり乗り気になった三人に押し切られる形で、蓮は渋々立ち上がった。
「じゃあ、ペアはくじ引きで決めようか。せっかくだし、誰と行くかもスリルで決めたい」
紗耶が手近なメモ帳を破って4枚の紙を用意し、それぞれに名前を書く。
そして、引いたくじの結果――
「ウチ、紗耶とだ!」
「俺と……芽衣、だな」
「うぇ、そっち兄妹じゃん」と紗耶が苦笑する。
「べ、別にいいけど。私は誰でもよかったし」と芽衣がそっぽを向く。
柚月がその様子を見てニヤニヤ笑い、「お兄ちゃんと二人きりで夜の神社~♡」とからかえば、芽衣は「ちがうもん!」と赤くなって叫んだ。
神社に着いたのは九時過ぎ。住宅地から少し外れた場所にある、地元でもちょっとだけ“出る”と噂のある小さな神社だ。参道の入り口で、持参した懐中電灯を取り出す。
「ルールは簡単。この参道を抜けた先にある社の写真をスマホで撮ってきて。ちゃんと行った証拠ってことで」
紗耶がスマホを掲げて動画を撮りながら説明する。柚月はその隣で「帰ってきた時の反応、全部撮っておくね♪」と笑顔だ。
「んじゃ、先鋒は蓮くん&芽衣ペア、いってらっしゃーい」
懐中電灯を受け取った蓮と、蓮の服のすそをつかんだ芽衣が、夜の神社の参道を歩き出した。
鳥居をくぐると、外よりも急に空気がひんやりして感じられる。虫の鳴き声と、木のざわめきが耳に入ってくる。
「べ、別に怖くないし……」芽衣が強がって言う。
「それ、怖いって言ってるやつのテンプレな」
「じゃあ、手つかまれてるのはなんでですか、蓮お兄様?」
「いや、それお前がさっきからずっと……」
そんな軽口を交わしていた矢先。
「ガサッ」
社の脇にある林の方から、なにかが突然飛び出した。
「きゃあっ!」
「うおっ!」
驚いた蓮がとっさに芽衣を抱き寄せる形になり、二人してよろめき、そのまま地面に転がる。
仰向けになった蓮の胸に、芽衣がしがみつく形で覆いかぶさっていた。
「……ね、猫?」
視線の先で、野良猫が「にゃー」と一声鳴いて、軽やかに塀を飛び越えていった。
芽衣が顔を上げた。距離、十センチもない。目が合う。
「……っ」
二人とも、真っ赤になって跳ねるように起き上がった。
「な、なんでもないから!ただの猫!びっくりしただけ!」
「わ、わかってるよ……!」
蓮は咳払いをひとつして、懐中電灯を拾い、芽衣の前を歩き出した。芽衣はその背中を見つめたまま、ぽつりと小さくつぶやいた。
「……びっくりしたけど、蓮くんが一緒でよかった」
数分後、写真を撮って戻ってきた二人を、参道の入り口で待ち構えていた紗耶と柚月が出迎える。
「おかえり~。時間かかったね~?」
「顔赤いんだけど、芽衣ちゃん。もしかしてお化けより怖い何かがいた?」
「う、うるさいっ!」
柚月がカメラ越しにニヤニヤ笑い、紗耶も面白そうに笑っている。
「……猫が出たんだよ。飛び出してきてびっくりしただけ」
蓮が苦い顔で言うと、柚月は「あー、それはそれでびっくりするね」と笑った。
その後、紗耶と柚月の番になったが、二人は驚くほどあっさり帰ってきた。
「うちら最強だからね~」と柚月はピースして、紗耶は「猫も逃げ出したかも」と冗談を飛ばす。
芽衣はまだ頬を赤らめたまま、それを聞き流していた。
帰り道、紗耶と柚月は前を歩き、蓮と芽衣は少し後ろを歩く。
芽衣がそっと蓮の袖をつまんで、小さな声で言った。
「……ねえ、またこういうの、したいな」
蓮は少し考え込んでから、ぽつりと答える。
「……まあ、たまには悪くないかもな」
芽衣はうれしそうに笑い、つないだままの袖を、少しだけ力を込めて握った。
家に戻ると、4人は居間のソファにゆったりと腰を下ろした。
蓮は少し照れくさそうに芽衣を見て、芽衣もまた、ほんのり赤みを帯びた頬で笑い返す。
柚月は「なんか今日、みんなちょっと変わった感じしない?」と軽くからかいながら、紗耶も「そうね、肝試しのせいか、距離が縮まった気がする」と頷いた。
芽衣は小さな声で「お兄ちゃんと一緒にいると、怖くても安心できるよ」とぽつりと言うと、蓮は照れ笑いをしながら「俺もだよ」と返した。
その時、柚月がスマホを取り出し、「今日の動画、あとで送っとくね。みんなのリアクション、面白すぎた!」と笑顔を見せる。
夜が深まる中、そんなささやかな時間が、4人の絆をそっと強くしていった。
「……なんかさ、このまま夏終わるの寂しくない?」
テレビ画面では特集番組で流しそうめんを楽しむ家族の映像が流れている。
「花火大会も行ったし、家族旅行もしたし、十分じゃないの?」と蓮が肩をすくめると、紗耶が微笑んで首を振った。
「たしかにいろいろやったけど、なんか……もうちょっと記憶に残る、変なことしたくない?」
「変なことって何?」と柚月が笑う。
「うーん……肝試しとか?」
紗耶の口からさらっと出たその一言に、芽衣がパッと顔を輝かせた。
「それいい!やろうやろう!行こうよ、今から!」
「いや今からってお前……もうすぐ九時だぞ」
「だからいいの。夜じゃないと雰囲気出ないし!」
すっかり乗り気になった三人に押し切られる形で、蓮は渋々立ち上がった。
「じゃあ、ペアはくじ引きで決めようか。せっかくだし、誰と行くかもスリルで決めたい」
紗耶が手近なメモ帳を破って4枚の紙を用意し、それぞれに名前を書く。
そして、引いたくじの結果――
「ウチ、紗耶とだ!」
「俺と……芽衣、だな」
「うぇ、そっち兄妹じゃん」と紗耶が苦笑する。
「べ、別にいいけど。私は誰でもよかったし」と芽衣がそっぽを向く。
柚月がその様子を見てニヤニヤ笑い、「お兄ちゃんと二人きりで夜の神社~♡」とからかえば、芽衣は「ちがうもん!」と赤くなって叫んだ。
神社に着いたのは九時過ぎ。住宅地から少し外れた場所にある、地元でもちょっとだけ“出る”と噂のある小さな神社だ。参道の入り口で、持参した懐中電灯を取り出す。
「ルールは簡単。この参道を抜けた先にある社の写真をスマホで撮ってきて。ちゃんと行った証拠ってことで」
紗耶がスマホを掲げて動画を撮りながら説明する。柚月はその隣で「帰ってきた時の反応、全部撮っておくね♪」と笑顔だ。
「んじゃ、先鋒は蓮くん&芽衣ペア、いってらっしゃーい」
懐中電灯を受け取った蓮と、蓮の服のすそをつかんだ芽衣が、夜の神社の参道を歩き出した。
鳥居をくぐると、外よりも急に空気がひんやりして感じられる。虫の鳴き声と、木のざわめきが耳に入ってくる。
「べ、別に怖くないし……」芽衣が強がって言う。
「それ、怖いって言ってるやつのテンプレな」
「じゃあ、手つかまれてるのはなんでですか、蓮お兄様?」
「いや、それお前がさっきからずっと……」
そんな軽口を交わしていた矢先。
「ガサッ」
社の脇にある林の方から、なにかが突然飛び出した。
「きゃあっ!」
「うおっ!」
驚いた蓮がとっさに芽衣を抱き寄せる形になり、二人してよろめき、そのまま地面に転がる。
仰向けになった蓮の胸に、芽衣がしがみつく形で覆いかぶさっていた。
「……ね、猫?」
視線の先で、野良猫が「にゃー」と一声鳴いて、軽やかに塀を飛び越えていった。
芽衣が顔を上げた。距離、十センチもない。目が合う。
「……っ」
二人とも、真っ赤になって跳ねるように起き上がった。
「な、なんでもないから!ただの猫!びっくりしただけ!」
「わ、わかってるよ……!」
蓮は咳払いをひとつして、懐中電灯を拾い、芽衣の前を歩き出した。芽衣はその背中を見つめたまま、ぽつりと小さくつぶやいた。
「……びっくりしたけど、蓮くんが一緒でよかった」
数分後、写真を撮って戻ってきた二人を、参道の入り口で待ち構えていた紗耶と柚月が出迎える。
「おかえり~。時間かかったね~?」
「顔赤いんだけど、芽衣ちゃん。もしかしてお化けより怖い何かがいた?」
「う、うるさいっ!」
柚月がカメラ越しにニヤニヤ笑い、紗耶も面白そうに笑っている。
「……猫が出たんだよ。飛び出してきてびっくりしただけ」
蓮が苦い顔で言うと、柚月は「あー、それはそれでびっくりするね」と笑った。
その後、紗耶と柚月の番になったが、二人は驚くほどあっさり帰ってきた。
「うちら最強だからね~」と柚月はピースして、紗耶は「猫も逃げ出したかも」と冗談を飛ばす。
芽衣はまだ頬を赤らめたまま、それを聞き流していた。
帰り道、紗耶と柚月は前を歩き、蓮と芽衣は少し後ろを歩く。
芽衣がそっと蓮の袖をつまんで、小さな声で言った。
「……ねえ、またこういうの、したいな」
蓮は少し考え込んでから、ぽつりと答える。
「……まあ、たまには悪くないかもな」
芽衣はうれしそうに笑い、つないだままの袖を、少しだけ力を込めて握った。
家に戻ると、4人は居間のソファにゆったりと腰を下ろした。
蓮は少し照れくさそうに芽衣を見て、芽衣もまた、ほんのり赤みを帯びた頬で笑い返す。
柚月は「なんか今日、みんなちょっと変わった感じしない?」と軽くからかいながら、紗耶も「そうね、肝試しのせいか、距離が縮まった気がする」と頷いた。
芽衣は小さな声で「お兄ちゃんと一緒にいると、怖くても安心できるよ」とぽつりと言うと、蓮は照れ笑いをしながら「俺もだよ」と返した。
その時、柚月がスマホを取り出し、「今日の動画、あとで送っとくね。みんなのリアクション、面白すぎた!」と笑顔を見せる。
夜が深まる中、そんなささやかな時間が、4人の絆をそっと強くしていった。
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