稲荷詣で

斐川 帙

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六、猪隈殿

(二)

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 出かける支度が済んで、しばらく佇んでいると、あちこちの隙間から、段々、淡い光が屋敷の中に浸み込んできた。そして、どかどかと簀子を人が歩く足音が聞こえて来て、次々と半蔀が上に吊られていった。半蔀が上げられて、大きく開いたところから、まだ弱々しい外光がさっと入ってきて、一気に屋敷の中が明るくなった。しかし、まだまだ、大気は薄白く、陽光は弱々しかった。暁から曙にかかる頃合いのようだ。

 「お粥をお持ちいたしました。」と言って、いつの間にか、半者はしたものだろうか、女性が来ていて、汁粥しるがゆを乗せた円高坏まるたかつきを、障子を開けて差し入れてきた。

 半者はしたものとは下女のことである。端女はしためとも言う。

 芳野は礼を言うと、粥の入った碗を取り上げ、すばやくかきこんだ。少し冷ましてあったのか、それほど熱くはなかったが、粥は、単に水で米を煮込んだだけのもののようで、ほのかに米の甘味が感じられる他は、ご飯が浸かってる、ただのお湯のようだった。

 食べ終わると、しばらくして便意を催してきた。しかし、トイレがどこにあるかわからない。そこで、部屋から簀子まで出て行って、誰かいないか探した。すると、昨日、ここまで案内してくれた男が控えていて、「何事ですか?」と聞くので「トイレはどこですか?」と聞き返すと、男は「トイレ」が何を指すかを知らないようで、ぽかんとしていた。そこで、芳野は昔風の言葉を探して、思いついた「かわや」という言葉を発してみたら、やっとわかったようで、「御樋殿おひどののことですか。こちらです。」と西の対の北庇の東隅の一角に案内された。そこは障子で仕切られており、部屋のようになっていて、入ると、床に板が置かれていて、それをどかすと穴が開いていた。中には大壺が設置してあるのが見えて、悪臭が鼻をついたので、中身は察しがつき、敢えて、それ以上、穴の中をのぞきこむことはしなかった。傍らには紙置きが置いてあった。
 用を済ますと、芳野は「御樋殿」から出た。今度は、シャワーを浴びたくなったが、さすがに、ここにはないだろうと諦めた。
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