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三、稲佐の浜
十月、出雲大社参拝を兼ねて山陰を旅したこと、その道中2(鳥取滞在二日目) (3)
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昇ってみると、やはり、かなり険しい上り道である。四十五度以上の斜度はあるんじゃないかと思えるほど急な上りの山道を約一時間かけて登り切った。途中何度も休憩したせいで、三十分ほどで着くと言われている距離を二倍かけてしまった。しかし、山頂からの眺めは絶景であった。千代川、湖山池、鳥取砂丘、日本海、鳥取市街、全てがパノラマのように眼下に展開し、遙か遠くまで眺望できた。
山頂には石垣で築かれた郭が二つほどあった。本丸と二の丸だそうである。建物が何も残っていないが、天守櫓跡の石垣があった。跡地の中央は矩形のくぼみになっていて、櫓に地階があったのかも知れない。今は、雑草が追い茂り、その旺盛な繁殖力に埋もれるようにコスモスが咲いていた。
コスモスに秋茜が止まった。
汗が水のように滴る体を、涼風に冷やして、秋茜が一匹、飛びまわる光景に、秋を気づかされた。十月だった。この世に生を受けてから何度目の秋だろうか。ふと、そんなことを考えた。小さいときのことを思い出した。実家の周りは雑木林だった。丁度、台地の裾の谷戸の奥に家があったので、台地の上は開発が進んで宅地化が著しかったが、台地の斜面は雑木林が豊富に残っていた。そのため、秋になると赤とんぼの群れが草地の上を舞い飛んでいた。秋の初めの頃、残暑が続くときなどは、窓を開け放した家の中をオニヤンマが通り抜け、ヒグラシが雑木林で鳴いていた。その重層的な鳴き声の合唱は、文字通り、蝉時雨だった。そう言えば、父親は早くに亡くしていたので、記憶にある秋の風景には父親の存在感が欠落している。今、考えると、欠落なのだが、その当時は、それが自然だった。今でも欠落とは感じない。でも、欠落と感じていないことが、自分という人間の出来具合に重要な意味を持っているのではないだろうか、とそんなことに思いが及んだ。そこで考える事をやめにした。「くだらない。」
昔は、こういう一人で物思いに耽るときは、やけに人恋しくなり、女の子が傍に欲しくなったものだが、今はそんな感情は微塵も生じない。一人にすっかり慣れきってしまったようだ。自然と苦笑が出る。
山を下りる事にした。
そう言えば、なぎが去ったのは半年前のことだった。不思議な子だった。もう、会えないのだろうな。
ホテルに戻ったのは、五時だった。途中で食事を取っていたので、疲れていた俺は、シャワーを浴びて、そのまま、寝る事にした。大分、早い就寝だ。夜中に目が覚めなきゃいいが。
山頂には石垣で築かれた郭が二つほどあった。本丸と二の丸だそうである。建物が何も残っていないが、天守櫓跡の石垣があった。跡地の中央は矩形のくぼみになっていて、櫓に地階があったのかも知れない。今は、雑草が追い茂り、その旺盛な繁殖力に埋もれるようにコスモスが咲いていた。
コスモスに秋茜が止まった。
汗が水のように滴る体を、涼風に冷やして、秋茜が一匹、飛びまわる光景に、秋を気づかされた。十月だった。この世に生を受けてから何度目の秋だろうか。ふと、そんなことを考えた。小さいときのことを思い出した。実家の周りは雑木林だった。丁度、台地の裾の谷戸の奥に家があったので、台地の上は開発が進んで宅地化が著しかったが、台地の斜面は雑木林が豊富に残っていた。そのため、秋になると赤とんぼの群れが草地の上を舞い飛んでいた。秋の初めの頃、残暑が続くときなどは、窓を開け放した家の中をオニヤンマが通り抜け、ヒグラシが雑木林で鳴いていた。その重層的な鳴き声の合唱は、文字通り、蝉時雨だった。そう言えば、父親は早くに亡くしていたので、記憶にある秋の風景には父親の存在感が欠落している。今、考えると、欠落なのだが、その当時は、それが自然だった。今でも欠落とは感じない。でも、欠落と感じていないことが、自分という人間の出来具合に重要な意味を持っているのではないだろうか、とそんなことに思いが及んだ。そこで考える事をやめにした。「くだらない。」
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