つばき

斐川 帙

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三、同棲

(五)

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 席に戻ると、まだ、昼休みは終わっていなかったが、午前中にコーディングを終えたモジュールの動作確認をするため、簡単なテストプログラムを作る事にした。動作確認が必要な主要処理を全て通るようパラメータのパターンを考え、その全てのパターンでモジュールを繰り返し起動するプログラムである。今回のものは、帳票ファイルを出力するだけで画面がないので、動作確認も専用のプログラムを作れば、比較的簡単に多くのパターンを試せる。早速作り始めたが、その前にメールの確認をするのを忘れていた事に気づいた。メーラーを見ると、十五通溜まっている。一つずつ内容を読んでみるが、どれも自分の担当部分と関係ないサブシステムのテストに関するものだった。テストは来週から始めるらしい。今日は金曜なので、最終確認をチーム内で行っているようだった。そのサブシステムの機能がどのようなもので、他のシステムとどう連携していて構成はどうなっているかなどは、一切、悟は知らない。自分と関係ないところなど、関わりたくもないし、だから知りたくもなかった。ただ、そのサブシステムが、開発の最終段階に来ていることだけは理解できた。そのテストが終われば、システム全体のテストが始まり、そしてリリースとなる。しかし、そのときには、悟はここにいない。悟の手がけているのは、システム全体から見れば、端のまた端の一部分だけなのであるから。
 メールの山の中に、仕事と関係ないメールが混じっている事に気づいた。それは、悟に仕事を依頼している会社の関係者だけに配信されていた。読むと、今月付で退職するメンバーの送別会の案内だった。日時と場所は、今夜の十九時、品川になっている。先週末に参加確認のメールが来ていたことを思い出した。悟は、社員ではないので、返事も出さず無視していたのだが、参加する事にされているのだろうかと不安になった。そこに戸部が話しかけてきた。
 「飲み会のメールがきているんだけど、福島さん、行きます?」
 「いやあ、どうしようかなあ。私の所にもメールが来ているんだよね。参加する事になってるのかなあ?」
 参加する気なんてさらさらないのに、そうはっきり言うのもはばかられるので、曖昧に言葉を濁したつもりだったが、口ぶりからは明かに本心がばればれの言い方だった。戸部は、少し表情を曇らして、
 「参加の返事は出したんですか?」と聞いてきた。語調には、参加しない事を非難する響きが感じ取れた。その響きを感じ取った悟は、関係ないから無視していたとは言いづらくて、黙った。戸部は、仕事に戻った。
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