放置された日記

斐川 帙

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二〇〇六年六月二十六日(月) 小橋のおばさん

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 今日は小橋のおばさんがうちに来た。うちの三軒隣に住んでいる人なんだけど、俺が小さい頃は、よくうちに来て母親と長話していた。大抵、うちに上がり込んでお茶菓子つまみながら一時間くらい近所のうわさ話に子供の話とかで延々互いに勝手に話をするみたいな感じだったな。端から見てるとお互い人の話聞かねえなと思って、ちょっといやな感じで見ていた記憶がある。
 今日は、俺がうちに来ていると聞いて、見に来たらしい。俺の小さい頃の思い出話を繰り返して、はっきり言ってうざかったが、それでも一時間くらいはいたのかな。
 でも、びっくりしたことがあった。小橋のおばさんには息子が一人いるんだけど、俺の一個下かな。その息子の奥さんが例のみちこらしい。俺は全然知らなかったんだけど、もう、大分前に結婚していたらしい。まあ、でも、もう、どうでもいいか。記憶の彼方の過去のことだ。
 昨晩の夢は、ここんとこ、毎晩、夢を見てるね、昨日の夢では、「望地の婿殿」の意味がわかったよ。俺は、望地の渋谷家に、分家らしいんだけど、婿として入ったらしい。この時代の事だから、婿として招かれたってことなんだけど、それで館をもらったようだ。ようするに渋谷一族の一員になったということじゃなくて、婿という名のお客さんと言うか居候と言うか、現代の入り婿とは根本的に違う存在なんだけど、結婚の様相が今と平安時代じゃ、全然、違っているんで、説明が難しいね。
 それで、昨日の夢では、俺の妻という女性、年齢からすると子供って言った方がいいかもしれないけど、その妻に会ったよ。
 本人は十四歳って言うんだもの。びっくりしたよ。これが現代の話だったら、犯罪だよね。もちろん、こんな若すぎる女の子じゃ、まあ、何というか、夫婦のことなんて、できるわけないわけで。参ったね。まあ、少女の遊びのお相手を演じるみたいなところか。
 でも、面白かったのは、俺の記憶の片隅に残存しているみちこのイメージに雰囲気が近いんだよね。俺が会ったみちこは女子高生だから、この女の子より少し年上なんだけど、なぜか似ているって感じだ。
 まあ、しかし、俺の潜在意識には、もう何十年も前に別れた女性への未練が、まだしつこく残っていると言う事なのかね。
 不思議なものだ。
 正直、この「俺の妻」だっていう少女に惹かれる自分がいるんだよね。失われたみちこの幻影を彼女に具現化したってことなのか。
 そう、俺の幼妻の名前は、雪姫。名前の通り、白く柔らかな肌で、よく笑う女の子だった。ちょっと、田舎臭い粗雑さも感じたけど、性格も素直そうだし、いい子だと思っている。少し話してすぐに気に入ったよ。
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