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二〇〇六年六月二十七日(火) 報復
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ここんとこ、夢の話ばっかだね。今日も夢の話。正直な話、現実世界より夢の中の世界の方が刺激的で面白い。
昨晩の夢では、おととい、夜襲をかけて見事討ち取ったわけだけど、その報復がありそうだと、もっぱらの噂で、俺の館に広重、広村親子が来て、対応策を話した。俺もよく事情がわからないのでいろいろと聞いてみたら、こないだ夜襲をかけた広元の一族の事情が少し見えてきた。俺の理解した範囲で書くと、こういう感じ。
我々の先祖、広家は、相模国高座郡の大名主であり、荒野を開墾して、多くの田地を持った。後にそれを当時の国司に寄進して、更にその国司がある親王家に寄進、それで国司の免判(租税免除)を得て、所領の一部を不輸租田(税のかからない田地)にした。(ただ、今は、どこぞの女院領になっているらしいが)。それが、今日の渋谷荘の端緒となった。奥州十二年合戦(前九年の役のこと)の折りは陸奥守、かの八幡太郎義家に従って、奥州に従軍、大きな戦功を立て、感状ももらっている。その息子、広成、広景兄弟は、弟の広景が惣領となり、渋谷荘を相伝、兄の広成は、武蔵国境に移って、荒田を開発し、谷戸を開墾し、新たに吉田荘を立てた。(でも、当初は渋谷荘の一部として扱われていたらしい)。
この時代は、兄弟、仲良く、渋谷の一族をもり立てていたが、広成が死去し、長男の広元が吉田荘を相伝すると、急に勝手な振る舞いが多くなって、兄弟である自分(広重)にも無断で所領を別の人物に寄進してしまった。もともと、この兄は腹違いで、そのせいか、自分を見下しているところがある。昔から傲岸不遜で虫が好かなかった。
寄進先は、院の側近中の側近で、大国の受領を歴任していて都では大層羽振りがよいそうで、この方に寄進しておけば、悪い事はないと事後に一方的に説明を受けた。自分は、この振る舞いには我慢できず、館まで出向いて兄に抗議したが、まともに相手にしてもらえず、兄は顔も出さずに、ただ、所用で忙しいと言って追い出されてしまった。これで自分は、もう、この兄にはついていけないと思い、惣領家の早川の御館に出入りするようなった。早川では、自分は大切にしてもらい、公文として望地に所領と屋敷をもらって、今に至っている。また、早川の御館は、相模権介でもあるので、その口利きで、税所目代という職をもらい、公領にも所領を得る事ができた。
我々の兄弟には、吉田の広元の他に、広朝という弟が武蔵河越にいるが、ここ何十年も連絡を取っていない。もともと、この弟とも腹違いなので、小さい頃からほとんど会った事がないし、どういう人間なのかもよく知らない。
広元の子供は男二人、女一人の計三人がいるが、長男の広義は、今、上洛して院の武者所に仕えているので、東国にはいない。その縁で美作守忠盛の郎等になったとも聞いている。次男の広平は三崎にある所領にいるが、もう十年以上前だが、国司目代(在京の国司の現地代理人)を通じて在京の守殿(国守のこと)に寄進、家司であった関係から関白忠通家を本家として立荘した。広平は、時々、吉田の館にも顔を出しており、田所官人でもあるため、田所目代の上総曹司義朝殿や散位頼清殿とも交流がある。この両者は、結託して大庭御厨が鎌倉郷だと称して御厨の荘域を収奪しようと目論んでおり、今、起こっている相論の中心人物で、我々も気をつけている。一番下の娘である桜姫は、武蔵河崎の秩父重家を婿に迎えていて、武蔵留守所総検校、秩父一族との交流もある。
今、警戒すべきは、三崎の広平で、噂では報復のため、軍勢を募っているらしい。近日中に事を起こしそうな気配で、こちらも十分用意すべきだ。下手をすると、上総曹司一派の介入を招かないとも限らないので、事前に鎌倉に話を通しておく必要がある。
ざっとこんな話だった。俄然、状況がきな臭くなってきたなと思ったが、ふと、広元邸を襲撃して討ち取った理由が気になったので聞いてみた。すると、広重が言うには、
兄上は、ここ何年も、周囲に我々の悪口雑言をまき散らし、あらぬ噂を振りまき、以前から止めさせたいと思っていたが、先々月くらいから、武蔵の秩父一族と通じて、我らの所領を奪おうと計っているという噂を耳にした。それで、密かに探りを入れてみると、確かに、頻繁に河崎の広平の館で婿の重家らと宴を開いている。その場で何を話しているかはわからないが、秩父の動きにも気になる点があり、先月くらいから、どうも合戦の準備をしている節が見受けられると報告が入った。そこで期先を制して、こちらから夜襲をかけたまで、と。
いや、まさしく、本格的な一族内の抗争劇だ。血で血を洗う殺し合い。で、その当事者の一方の大将が俺なのだ。
俺、突然、とんでもない状況に放り込まれたってこと?
まじですか?
この抗争で敗れたら、俺、首を切り落とされるってことだよね?こないだ、俺が、広元さん、討ち取っちゃったわけだし。敵にしてみれば、一番の仇は、俺ってことになるし。非常にまずいんじゃないの。
やばいんじゃない、俺?
昨晩の夢では、おととい、夜襲をかけて見事討ち取ったわけだけど、その報復がありそうだと、もっぱらの噂で、俺の館に広重、広村親子が来て、対応策を話した。俺もよく事情がわからないのでいろいろと聞いてみたら、こないだ夜襲をかけた広元の一族の事情が少し見えてきた。俺の理解した範囲で書くと、こういう感じ。
我々の先祖、広家は、相模国高座郡の大名主であり、荒野を開墾して、多くの田地を持った。後にそれを当時の国司に寄進して、更にその国司がある親王家に寄進、それで国司の免判(租税免除)を得て、所領の一部を不輸租田(税のかからない田地)にした。(ただ、今は、どこぞの女院領になっているらしいが)。それが、今日の渋谷荘の端緒となった。奥州十二年合戦(前九年の役のこと)の折りは陸奥守、かの八幡太郎義家に従って、奥州に従軍、大きな戦功を立て、感状ももらっている。その息子、広成、広景兄弟は、弟の広景が惣領となり、渋谷荘を相伝、兄の広成は、武蔵国境に移って、荒田を開発し、谷戸を開墾し、新たに吉田荘を立てた。(でも、当初は渋谷荘の一部として扱われていたらしい)。
この時代は、兄弟、仲良く、渋谷の一族をもり立てていたが、広成が死去し、長男の広元が吉田荘を相伝すると、急に勝手な振る舞いが多くなって、兄弟である自分(広重)にも無断で所領を別の人物に寄進してしまった。もともと、この兄は腹違いで、そのせいか、自分を見下しているところがある。昔から傲岸不遜で虫が好かなかった。
寄進先は、院の側近中の側近で、大国の受領を歴任していて都では大層羽振りがよいそうで、この方に寄進しておけば、悪い事はないと事後に一方的に説明を受けた。自分は、この振る舞いには我慢できず、館まで出向いて兄に抗議したが、まともに相手にしてもらえず、兄は顔も出さずに、ただ、所用で忙しいと言って追い出されてしまった。これで自分は、もう、この兄にはついていけないと思い、惣領家の早川の御館に出入りするようなった。早川では、自分は大切にしてもらい、公文として望地に所領と屋敷をもらって、今に至っている。また、早川の御館は、相模権介でもあるので、その口利きで、税所目代という職をもらい、公領にも所領を得る事ができた。
我々の兄弟には、吉田の広元の他に、広朝という弟が武蔵河越にいるが、ここ何十年も連絡を取っていない。もともと、この弟とも腹違いなので、小さい頃からほとんど会った事がないし、どういう人間なのかもよく知らない。
広元の子供は男二人、女一人の計三人がいるが、長男の広義は、今、上洛して院の武者所に仕えているので、東国にはいない。その縁で美作守忠盛の郎等になったとも聞いている。次男の広平は三崎にある所領にいるが、もう十年以上前だが、国司目代(在京の国司の現地代理人)を通じて在京の守殿(国守のこと)に寄進、家司であった関係から関白忠通家を本家として立荘した。広平は、時々、吉田の館にも顔を出しており、田所官人でもあるため、田所目代の上総曹司義朝殿や散位頼清殿とも交流がある。この両者は、結託して大庭御厨が鎌倉郷だと称して御厨の荘域を収奪しようと目論んでおり、今、起こっている相論の中心人物で、我々も気をつけている。一番下の娘である桜姫は、武蔵河崎の秩父重家を婿に迎えていて、武蔵留守所総検校、秩父一族との交流もある。
今、警戒すべきは、三崎の広平で、噂では報復のため、軍勢を募っているらしい。近日中に事を起こしそうな気配で、こちらも十分用意すべきだ。下手をすると、上総曹司一派の介入を招かないとも限らないので、事前に鎌倉に話を通しておく必要がある。
ざっとこんな話だった。俄然、状況がきな臭くなってきたなと思ったが、ふと、広元邸を襲撃して討ち取った理由が気になったので聞いてみた。すると、広重が言うには、
兄上は、ここ何年も、周囲に我々の悪口雑言をまき散らし、あらぬ噂を振りまき、以前から止めさせたいと思っていたが、先々月くらいから、武蔵の秩父一族と通じて、我らの所領を奪おうと計っているという噂を耳にした。それで、密かに探りを入れてみると、確かに、頻繁に河崎の広平の館で婿の重家らと宴を開いている。その場で何を話しているかはわからないが、秩父の動きにも気になる点があり、先月くらいから、どうも合戦の準備をしている節が見受けられると報告が入った。そこで期先を制して、こちらから夜襲をかけたまで、と。
いや、まさしく、本格的な一族内の抗争劇だ。血で血を洗う殺し合い。で、その当事者の一方の大将が俺なのだ。
俺、突然、とんでもない状況に放り込まれたってこと?
まじですか?
この抗争で敗れたら、俺、首を切り落とされるってことだよね?こないだ、俺が、広元さん、討ち取っちゃったわけだし。敵にしてみれば、一番の仇は、俺ってことになるし。非常にまずいんじゃないの。
やばいんじゃない、俺?
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