戦国城廻り

斐川 帙

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一、山中に眠る城跡

(七)

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 渡りきって、ほっとして、後ろを振り返った。結構な急斜面だ。狭い谷あいに藪が生い茂ってその合間を沢の急流が顔をのぞかせている。前を見上げると、まだまだ先がありそうである。もちろん斜面は急だ。両側の尾根筋は途中、巨岩が顔を見せていたりして、取り付けそうにない。やはり、この沢筋を上るしかなさそうだ。しかし、また、こんな感じの丸太橋が行く手に現れたらと思うと欝になる。
 気を取り直して、沢の岸のわずかな隙間を辿って斜面を登り始めた。
 左手の沢の対岸にわずかな平場が見えた。細い丸太が四隅に刺さって倒れている。かって、それらは柱だったような感じの倒れ方だ。ブルーシートのようなものが覆いかぶさっているのが見えた。植林作業で使用した作業小屋の跡なのだろうか。
 斜面をよじ登るのを再開。藪をかき分け、繁茂する下草を踏みつけ、滑りやすい腐葉土に足を取られながら、上を目指す。ふと、視界のふちに何かが見えた。人影のような気がした。さっきの小屋の跡だ。見てみた。さっきの女性が座っていた。こっちを見ている。長い黒髪を背中に美しく落としているのが見えた。若干、細面で、こっちを見る切れ長の目には、やさしい印象を受けた。
 足が止まった。体が動かない。動かそうと思えば動かせそうだが、動きたくなかった。
 どうしたらいいのかわからない。
 このまま、じっとしていても、いたずらに時間が過ぎるだけで、目的地までの予想される所要時間を考えると、ここで留まっているわけにはいかなかった。
 怖いが、見なかったことにしよう。
 そう心に決めて、視線を前に向けた。女は目の前に立っていた。
 斜面から転げ落ちそうになった。
 なんで、いるんだ?
 女は、私をじっと見ていた。しかし、瞳には何の表情も伺えなかった。だが、無表情という感じもしなかった。不思議な視線だ。これに似たものをどこかで見たことがある気がした。
 そうだ、キティちゃんだ。キティちゃんは、笑ってもいないし泣いてもいないし怒ってもいない。見れば見るほど無表情に見える。しかし、全体から受ける雰囲気はほんわかとした微笑だ。目の前の女性は、このキティちゃんと同じ雰囲気を醸していた。
 しかし、思い至ったのがキティちゃんか、と思うと、眼前に現出している不可解な現象とのギャップに可笑しさを覚えて苦笑した。
 女性は、しかし、消えていた。
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