戦国城廻り

斐川 帙

文字の大きさ
8 / 31
一、山中に眠る城跡

(八)

しおりを挟む
 まずいな、幻覚でも見たか。朝食をきちんと食べてこなかったからだろうか。
 いやな感じを引きずって、再び、藪を掻き分け、下草を踏みしだき、濡れた腐葉土に足を取られながら、急斜面をよじ登った。
 やがて、きれいに下草が刈られた杉林に出た。斜面の斜度は、一気に増した。四十度近くには達しているだろうか、ちょっと、まっすぐ上るのは厳しそうな斜度だ。杉の幹につかまりながら、じぐざぐに上っていく。それでも、山腹の斜面はきつくて、たびたびずり落ちて、上るのは骨が折れた。
 尾根筋が見えた。熊よけの鈴の音が聞こえた。誰かが尾根筋を縦走しているらしい。気配から二人程度のようだ。
 この辺りの低山帯は、人里に近いせいか、地図に道が記載されていなくても、ピークとピークの間の尾根筋には大抵、踏み跡がある。尾根に取り付いてしまえば、後はなんとかなるというものだ。尾根筋の踏み跡を辿れば、どこかのピークにたどり着き、そうすれば、下山ルートの標示が刺さっていたりするものだ。
 なんとか尾根筋に立った。案の定、はっきりしたルートが左右に延びていた。左手は登り道になっていて先にはピークがありそうだ。しかし、今回は山頂を目指すのではない。この鞍部あんぶを越えて向こう側へ降りるのだ。
 尾根の向こう側を覗き込むが、当然のように道どころか踏み跡も見当たらない。あるのは杉林の急斜面だ。地図を見ると、道は、この斜面の谷あいになった右側の尾根の山腹を巻くように下に下りている。しかし、そんな道は全く見えない。完全に消失したルートだった。だが、ここを下りないと、次の山越えに入れない。かなりの遠回りになるのだ。
 地図の等高線を頼りに以前にあっただろう喪失されたルートを想像しながら斜面を下りることにした。地図の等高線の曲がり具合を見ると、下には沢がありそうだ。沢伝いに下りて行けば、どこかに出られるだろう。
 果たして、水が湧出し、わずかな湿りが、微かな流れとなって、やがて、沢となった。ところが、沢がその姿をはっきりとさせるに従って、その両岸は深い藪に埋もれるようになった。これを突っ切るのは少々骨が折れそうだった。今回は難題に次ぐ難題に見舞われるルートを取ったみたいだ。後悔しても遅いが、もう、行けるところまで行く外ないだろう。
 藪に苦しむところに今度は倒木が現れた。ひどいルートだ。倒木はくぐるか、またぐかするが、リュックが枝にひっかかったりしていらいらさせられる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...