戦国城廻り

斐川 帙

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一、山中に眠る城跡

(九)

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 藪が途切れた。沢が小さい滝になって落ちていた。下を見ると、別の沢と合流しているようだ。その先は、藪もおさまって、倒木も見られない。斜面も緩やかになって、開けた感じの杉林だ。
 つるにつかまって滝の下に下りると、のどが渇いたので、滝の水を手に掬って、不純物が混じっていないか確認してから、三度ほど、のどを潤した。この沢は源流から歩いてきているので、安心して飲める。沢によっては、上流に山小屋などがあると、その排水が流れ込んでいたりして汚染されていることもあるから油断できない。また、関東にはいないが、のどにとりついて吸血するハナビルが沢の水に紛れていることもある。
 沢の水はうまかった。杉の葉のような苦味が微かに感じられたが、のどが渇いていたので、気にはならなかった。
 両手にすくった水で汗にまみれた顔を洗った。肌の脂が手のひらに粘りついた感じがした。
 さて、と歩き出そうとした瞬間、また、あの女が立っていた。開けた杉林の向こうの草むらにすっと立って、こちらを見ている。そこは、林も途切れ、麓から上ってきた砂利道の林道が行き止まりになっているところのようだった。地図の道にようやくたどり着いたようだ。しかし、あの女は誰なんだろう。考えたくはないが、普通じゃないのはわかる。信じたくはないが、『あれ』だろうか。今まで、その手のものは見たことないが、ついに目撃することになったか。取り憑かれた訳ではないよな。考えたくない。
 まばらになった雑草の群生を踏んで杉の木立の間を抜け、林道の行き止まりに辿り着いた。そこに行き着くには、沢を飛び越えることが必要だったが、難なく飛び越えることができた。日が差して明るかった。あの女性は、いつのまにか姿を消していた。
 幻覚なのだろうか。
 女は横に立っていた。
 身の毛がよだった。びっくりして、女を睨んだ。なぜか、むかついた。
 何か言いたかったが、何も言葉が口から出なかった。しかし、女が話しかけてきた。
「私の夫を探してほしいんです。」
 女の声は、透き通るような澄んだ声で、相手を癒すような落ち着きを持っていた。
「私の夫は、アガナシジミ城に詰めていたんです。それが、江戸の遠山勢に攻められて落城しました。そのあと、行方がわからないんです。でも、討たれてはいないと思うんです。きっと、この辺りの山中をさまよっていると思うんです。」
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