戦国城廻り

斐川 帙

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一、山中に眠る城跡

(十三)

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 しかし、次の矢が頬をかすめ、そんなのんきな気分は一瞬にして吹き飛んだ。そして、次から次と矢が飛んできた。咄嗟とっさに、山頂にうずくまって、下から噴出する矢をかわした。女もうずくまっていた。
 私には、この状況が理解できなかった。何が起こっているのか。何で、矢が飛んでくるのだろうか?
 しかし、状況は、逼迫ひっぱくしていた。今度は、背後、つまり、われわれが上ってきた尾根伝いに、人間がよじ登ってきた。見ると、男は、陣笠を頭に乗せ、右手には槍を握って、体には具足ぐそくを装着している。
「足軽?」
 男は、一人ではなかった。次から次へと、ここから見えたのは、三人の頭だったが、まだ、後ろに何人も控えていそうだった。
 先頭の男が槍を突き出した。長さは三メートルほどの短い槍だったが、危うくのどを突かれる所だった。私は、咄嗟に突き出された槍を踏みつけると、先頭の男の顔を思いっきり蹴り上げた。男は、後ろの木の幹に後頭部をぶつけ、うめき声を上げた。私は、すかさず、槍を奪い取ると、胸の辺りを槍先で全力で突き押して、下に落とそうとした。しかし、槍先はぐにゅりという感触とともに男の胸元に深く差し込まれ、男は絶叫して、ずり落ちて行った。刺さった槍も一緒に引きずられ、私も落ちそうになったが、すんでのところで手を放したので、踏みとどまれた。しかし、すぐに次の男の槍が繰り出された。私はよけたが、その拍子で足を滑らせ、落ちそうになって、近くの木につかまった。
「まじかよ?」
 女は、木の陰に隠れて様子を伺っている。
 何で、殺し合いが始まっているんだ?
 私には、わけがわからないまま、しかし、このままでは、串刺しになりそうなので、必死に、防戦しながら、この絶体絶命の窮地を脱する手立てを考えていた。だが、こんな狭隘な山頂の平場で背後は岩の絶壁、左右は急斜面、逃げ道は槍が終始突き出される前方しかない状況で、もはや、この場から逃げられそうにはないと思えた。
 矢が飛んできた。前からは槍が突き出された。
 左右の急斜面を覗き見ると、左側の斜面には人の気配が感じられない。どうも、三方だけ囲まれているらしい。覚悟を決めた。左の急斜面に飛び降りて、わざと転げ落ちた。途中、枯れ枝がわき腹に刺さるのを感じた。痛みは感じなかった。しばらくして、樹木にぶつかって止まった。このまま、じっとしていたら、襲われるので、すぐに立ち上がって、斜面を駆け下りた。後ろを見たが、誰も追ってくる者はなかった。しかし、まだ、油断はできない。麓の集落に着くまでむやみと杉林の急斜面を駆け下りた。時々、つまづいて、転げ落ちた。しかし、とどまることはできない。立ち上がって、すぐに駆け下りた。
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