魔女っ子さんと素敵なお菓子

塚井 真穂

文字の大きさ
2 / 17
ケットシーの王様とガトーショコラ

しおりを挟む

 
 これから私が語るお話は、人間が立ち入ったことのない深い森の奥に暮らしている魔女っ子さんとその隣人達についての物語です。
 
 魔女っ子さんは今年12歳になったばかりの女の子。

 人間からするとまだ子供に見えるでしょうが、魔女は幼い内から独り立ちするものですから、魔女っ子さんは小さくとも一人前の魔女なのでした。

 森の住人たちも誰もが彼女を頼りにしていて、困ったことがあるとすぐに駆け込んでくるのです。

 あら、噂をすればほら、誰かがやってきたようですよ。


       ♢♦︎♢♦︎♢




 「たいへん!たいへん!」


 天気の良い午後の事です、魔女っ子さんは暖かな日差しの誘惑に負けて、庭の木の根本で昼寝をしていたところでした。

 幸せな心地で微睡んでいた魔女っ子さんの耳に、つん裂くような大声が飛び込んできたのです。

 しかし昨日遅くまで夜更かししていた魔女っ子さんは今更目を開く気になれず、ううんと唸るだけで起きようとしません。


 「おきてよぉ、まじょっこさん!」

 「痛い!起きるからやめてちょうだいカラスさん!」


 痺れをきらしたカラスがガアガアと喚きながら、魔女っ子さんの髪の毛を咥えて引っ張りました。

 頭皮が引き攣る痛みに、魔女っ子さんは渋々といった様子で起き上がります。

 危うく巣材にされそうになった髪の毛ですが、それは見事な赤毛でした。

 赤毛の魔女には強い魔力が宿るとされているので、魔女っ子さんはこの髪の毛をいっとう自慢に思っているのでした。


 「もう、それで一体何事なの?おつかいは?」


 魔女っ子さんは乱れた髪の毛を手で漉くと器用に編み込み直しながら、カラスさんに尋ねました。

 このカラスさんは魔女っ子さんの使い魔で、今日は買い物をしてくるよう頼んであったのです。

 持たせたはずの籠は空っぽのまま、地面に放り捨てられています。


 「ねこのおうさまがぁ、まじょっこさんをよんでくれってぇ!だいしきゅう!」


 カラスさんは興奮した様子で落ち着きなく羽を動かしながら、一生懸命話しました。

 けれども肝心のお使いの事については頭からすっぽ抜けているようでしたので、魔女っ子さんはじっとりした目でカラスさんを見つめました。


 「ふうん、それで、おつかいは?」


 魔女っ子さんがひとつひとつ区切るように発音しながら改めて尋ねると、ようやっと主人の表情に気づいたようでカラスさんがびしりと固まりました。


 「え、ええとぉ…
  わすれてたぁ、ごめんなさい…」


 うろうろと視線を泳がしながら、カラスさんは正直に答えました。

 カラスさんは頭の良い鳥ですが、同時に多くの事はできません。

 大方誰かに頼まれごとをして、それで頭がいっぱいになってしまったのでしょう。

 幸いお使い自体は特別急いでいるものではなかったので、それ以上責めることはせず、話を続けることにしました。


 「はあ…まあいいわ、それで猫の王様ですって?」


 ふうむ、と魔女っ子さんは考えました。

 この森にはたくさんの不思議な生き物が暮らしています、それこそおとぎ話の中でしかみたことのない者ばかりです。

 カラスさんに行くよう頼んだのはまどろみの谷と呼ばれる場所でしたが、すぐ近くにケットシーが暮らしていたはずです。
 きっと彼らに頼まれたのでしょう。


 ケットシーとは、猫の姿をした妖精のことです。

 彼らは自分達だけで作った王国でえ暮らしているものですが、中には人間の世界で普通の猫に混ざっている者もいるそうです。

 何はともあれ自分を呼んでいる者がいるのですから、魔女っ子さんは抑えきれなかった欠伸をひとつしてから、立ち上がってこう言いました。


「ふわぁ…もうちょっと眠っていたかったけど、呼ばれてるんじゃ仕方ないわね。
 カラスさん、案内してちょうだいな」

 「はぁい、こっちだよぉ!」


 魔女っ子さんが家の壁に立てかけておいた箒へひょいと指を振ると、それはふわふわと浮きながらこちらへ飛んできました。

 ちょうど腰あたりの位置に浮かぶ箒に軽やかに腰掛けると、そよ風と共にその姿がするすると舞い上がっていきます。

 意気揚々と空を飛んでいるカラスと同じ高さまでやってくると、箒は指示しなくても滑らかに動き出しました。

 小さくても魔女っ子さんは一人前の魔女ですので、箒くらい息をするように自由自在に操れるのです。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

黒地蔵

紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

処理中です...