3 / 17
ケットシーの王様とガトーショコラ
②
しおりを挟む魔女っ子さんは腰掛けた箒を操ると、カラスさんを追って空を飛んで行きました。
2人が森の木々の上を延々と飛び続けていくと、遠くに開けた場所があるのが見えてきました。
ぽっかりと木々が立ち消えているそこには、緑豊かな草原が広がっているのでした。
ちらほらと可愛らしい家が点在していて、住人であろうケットシーたちが気まぐれに過ごしているのが見てとれます。
今日はお天気が良いので、ほとんどのケットシーが日向ぼっこをしながらぐうぐうと眠っていました。
近くで様子を見ようとした魔女っ子さんが箒の高度を下げて近付いていっても、1匹として夢の中から起きようとする者はいません。
ぴくぴくと音に合わせて耳は動くものの、目を開いたり起きあがろうとする素振りもみせないのです。
あんまり幸せそうな顔で眠っているものですから、魔女っ子さんは吹き出しそうになるのを必死に堪えなくてはいけなくなりました。
先に行っていたカラスさんがこちらを見てなにか言いながら羽ばたいているのが見えたので、魔女っ子さんは慌てて箒を操ってその場を後にすることにしました。
「もう、まじょっこさん!いそがなきゃぁ!」
カラスさんは魔女っ子さんが追いついてきたのに気付くと、するりと箒の柄に掴まりながら文句を言いました。
「うふふ、ごめんね。でもお城はもうすぐじゃない、ほら」
魔女っ子さんの言うとおり、2人の視線の先には小さいながらも立派なお城が建っていました。
大きさでいうと人間が暮らす一軒家ほどのこじんまりとしたそれは、一見すると玩具のようでしたが、近づいてみれば石を組んで造られた頑丈な城だとわかります。
お城の周りには魔女っ子さんがよじ登れそうなほどの高さの壁が聳えていて、入り口の門には2匹のケットシーが衛兵として立っているのでした。
先ほどの住人達とは違って、鎧を着込んだ衛兵さんはびしっとした姿勢を崩さず辺りを見張っています。
けれど魔女っ子さんとカラスさんがゆっくりと門の方へ箒を飛ばして近付いてくと、それに気がついた衛兵さんは途端に相好を崩して早口で話しかけてきたのでした。
「ああ、やっと魔女っ子さんが来てくれたにゃ。
王様が心底お困りになられていますのにゃ、どうぞお早く!」
「あらまあ、どうやらよっぽどの問題が起きているみたいね。
任せてくださいな、案内をお願いしますよ」
そこで衛兵さんは門番を片割れに任せ、小走りになりながら城門の内側へと入っていきました。
魔女っ子さんは一度箒から降りると、カラスさんを箒の柄から自分の肩の上へと移動させました。
大事な箒をそこらに置いておくわけにはいかないので、片手に握りしめたまま城門をくぐっていきました。
その時城門にかけられた魔法が発動して、魔女っ子さん達の体がキラキラと光ったかと思うと、するすると吸い込まれるようにして縮んでいったのです。
どうやらこの魔法を掛けた魔女は優秀な腕をしていたようです。
着ていた洋服だとかも魔女っ子さんの大きさに合わせて縮んでいってくれたので、先ほどまでと変わりなくぴったりと身体を覆ってくれていました。
なにしろこの魔法を未熟な腕の者がかけようものなら、体以外の全てはそのままの大きさのまま取り残されてしまうと言うことを知っていたので、魔女っ子さんは内心ほっとしたのでした。
だってもしそうなればぶかぶかの洋服に埋もれた赤ん坊のような情けない姿になるだけでなく、手に持っていた筈の箒が、巨大になったかと思ったら次の瞬間には自分たちが押し潰されてしまいました、なんて悲劇が起こりかねなかったのですから。
身体を縮めていく魔法が止まったのは、魔女っ子さんの背丈がケットシーたちと同じほどになったころでした。
この魔法は腹の底がぐらぐらと揺れているような、なんとも言えない心地がするので苦手な者が多いのですが、カラスさんもそうなようで羽毛を逆立てながら文句を言うのでした。
「これへんなかんじがして、きらいだよぉ…」
情けない声で文句を言っているのを、魔女っ子さんが小さな声で嗜めます。
「文句言わないの、何かにぶつけて壊してしまわないだけ良いでしょう」
衛兵さんは早く先へ向かいたそうにしながらも、苦笑しながら話しかけてきました。
「この城に訪れる客人が体の大きさに関係なく、快適に過ごせるようにとの配慮から設置しているのですが、こればっかりは慣れて頂くしかないので…」
「ええ、むしろこちらがお礼を言うべきことですもの。
貴重な壺なんかを壊してしまったら、どう弁償したらよいものやら…」
魔女っ子さんはじとりとカラスさんを横目に見ながら言いました。
そそっかしくてよく物を落としてしまうカラスさんはぎくりとして、それ以上何も言わなくなりました。
0
あなたにおすすめの小説
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
黒地蔵
紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。
※表紙イラスト=ミカスケ様
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です*
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる