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ケットシーの王様とガトーショコラ
③
しおりを挟むそれから魔女っ子さん達は衛兵さんの案内を受けながら、人目に(この場合猫目でしょうか)つかないようにこそこそと進んでいき、豪華な飾りのついた重そうなドアの前までやってきました。
衛兵さんがノックをしてから扉を開けると、ひたすらぐるぐると部屋の中を歩き回っている一際大きな体をしたケットシーがいたのでした。
体の縮んでいる魔女っ子さんからすれば見上げるほどに大きなケットシーこそ、この王国を収めている王様なのでした。
こちらへと目を向けた王様が、入ってきたのが魔女っ子さんだと気がつくと大きな声を上げながら素早く近付いてきました。
「魔女っ子さん!良かった、来てくれたんだにゃ」
案内の済んだ衛兵さんがそのまま去っていきましたが、王様はほっとしたせいで半ば泣きそうになりながら、魔女っ子さんの手を握って話しかけるのに必死で気付いていないようです。
「ご機嫌よう、王様」
魔女っ子さんは両手を掴まれたまま、優雅にお辞儀をしながら挨拶をしました。
慌てていた王様もそれを見て、はっとして手を離しました。
「う、うむ。ご機嫌よう、魔女っ子さん」
王様がえへん、と誤魔化すように咳をしてから挨拶を返しました。
魔女っ子さんは王様が落ち着いたのを確認してから、本題に入ることにしました。
「王様が何かお困りだと聞いたのですが?」
すると王様はまたもや取り乱し、毛を逆立てながら話し始めました。
「そうなんだにゃ、もうどうしたら良いのか…それもこれも全てあの爺様のせいなんだにゃ!」
どたばたと地団駄を踏む王様が指し示しているのは、部屋の奥に置いてあるソファの方角でした。
魔女っ子さんがひょいとソファを覗いてみると、そこにはごろにゃんと気持ちよさそうに丸まって眠る年寄りのケットシーがいました。
彼が大事そうに抱えているのは、ワインの瓶でした。
その中にはほんのちょっぴり飲み残しがあるだけで、お菓子の香り付けに使うのにも足りそうもありません。
爺様と呼ばれるケットシーがひと瓶丸々飲み干してしまったのでしょう、健やかな寝息を立てているのも納得です。
王様がこんなに暴れていても全く起きる気配もなく、外で見たケットシーたちと同じ顔をして寝ているものだから、魔女っ子さんは可笑しくて笑いそうになりました。
でも隣で怒っている王様に笑っているの見られては、怒りに油を注いでしまうでしょう。
なので魔女っ子さんはそっと口元を押さえて誤魔化しましたのですが、王様はそんな事はちっとも気が付かず、喚きながら事の経緯を説明してくれました。
「今日はバレンタインだから、とびきり上等なまたたびワインを用意していたのに。
この爺様ときたら、勝手に飲んじゃったんだにゃ!」
「あらまあ、奥様へのプレゼントを?」
王様の言葉を聞いて、魔女っ子さんは思わず眉を顰めながら口を開きました。
愛する者のために用意していた贈り物を横取りされてしまったのですもの、ここまで取り乱して怒るのにも納得できる理由でした。
ぽこぽこと怒り続けていた王様でしたが、今度はしくしくと涙を溢しながら話し始めます。
「このままじゃあ儂が嫌われちゃうにゃあ、せっかくのバレンタインなのに…」
ふかふかの掌に顔を埋めて、おいおいと泣いている姿はあんまりにも可哀想でした。
魔女っ子さんはどうにかしてあげなきゃと心から思って、励ましの言葉をかけました。
「泣かないで、王様。
大丈夫、代わりのプレゼントを用意すればいいのよ」
魔女っ子さんの優しい声を聞いて、王様はそっと掌から顔を上げました。
涙で濡れてせっかくの滑らかな毛並みが台無しになっていましたが、今の王様にはそんなことを気にしている余裕はありません。
しゃくりあげながら魔女っ子さんの言葉に答えるのが精一杯なのでした。
「か、代わりって言ったって、もう用意する時間はないにゃ…」
「ええ、同じものを用意するわけじゃありません。
…ところで奥様の好きなものってご存じ?」
「もちろん、またたびとお魚にゃ」
「まあ、それはケットシーの皆そうでしょう。他に何かないんですか?」
はて他には何があったっけ、と王様は愛する妻のことを頭に浮かべながら考えてみました。
記憶の中の妻が特に笑顔になった贈り物のことを思い出していくと、思い当たるものが見つかり、明るい表情で声を上げました。
「あ、あとお花とチョコレートケーキも好きだにゃ!」
魔女っ子さんはそれを聞いて、腕を組んだまま片手で顎を触りつつ、深く考え込み始めました。
なにやらぶつぶつと独り言を呟いていましたが、すぐにパッと晴れやかな笑顔を浮かべて王様を見上げました。
「そうだわ、手作りのチョコレートケーキを作りましょう!」
想定していなかった言葉に、王様は驚いて聞き返しました。
「手作りって、儂がかにゃ!?」
目を丸くしている王様に、魔女っ子さんは力強く頷きながら言葉を返します。
「そりゃあそうですよ、愛する人が手ずから作ってくれたものなら嬉しいに決まってます。」
少なくとも奥様の性格からすると喜んでくれると思いますけど、と呟けば王様も乗り気な表情に変わっていきました。
しかし何やらまだ気になる事があるのか、小さな声でもごもごと話しています。
「でも、儂は料理なんてしたことないにゃ」
「任せてください、私がお手伝いしますから」
不安そうな王様を安心させようと、魔女っ子さんは自信たっぷりの笑顔で言いました。
それならば心強いと、王様は表情を明るいものに変えて、魔女っ子さんの提案に乗ることにしました。
「うむ、それではよろしく頼むにゃ!」
王様はむん、とやる気一杯に拳を握り締めて、力強い声で返事をしたのでした。
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