魔女っ子さんと素敵なお菓子

塚井 真穂

文字の大きさ
4 / 17
ケットシーの王様とガトーショコラ

しおりを挟む

 それから魔女っ子さん達は衛兵さんの案内を受けながら、人目に(この場合猫目でしょうか)つかないようにこそこそと進んでいき、豪華な飾りのついた重そうなドアの前までやってきました。


 衛兵さんがノックをしてから扉を開けると、ひたすらぐるぐると部屋の中を歩き回っている一際大きな体をしたケットシーがいたのでした。

 体の縮んでいる魔女っ子さんからすれば見上げるほどに大きなケットシーこそ、この王国を収めている王様なのでした。

 こちらへと目を向けた王様が、入ってきたのが魔女っ子さんだと気がつくと大きな声を上げながら素早く近付いてきました。


 「魔女っ子さん!良かった、来てくれたんだにゃ」


 案内の済んだ衛兵さんがそのまま去っていきましたが、王様はほっとしたせいで半ば泣きそうになりながら、魔女っ子さんの手を握って話しかけるのに必死で気付いていないようです。


 「ご機嫌よう、王様」


 魔女っ子さんは両手を掴まれたまま、優雅にお辞儀をしながら挨拶をしました。

 慌てていた王様もそれを見て、はっとして手を離しました。


 「う、うむ。ご機嫌よう、魔女っ子さん」
 

 王様がえへん、と誤魔化すように咳をしてから挨拶を返しました。

 魔女っ子さんは王様が落ち着いたのを確認してから、本題に入ることにしました。


 「王様が何かお困りだと聞いたのですが?」


 すると王様はまたもや取り乱し、毛を逆立てながら話し始めました。


 「そうなんだにゃ、もうどうしたら良いのか…それもこれも全てあの爺様のせいなんだにゃ!」


 どたばたと地団駄を踏む王様が指し示しているのは、部屋の奥に置いてあるソファの方角でした。

 魔女っ子さんがひょいとソファを覗いてみると、そこにはごろにゃんと気持ちよさそうに丸まって眠る年寄りのケットシーがいました。

 彼が大事そうに抱えているのは、ワインの瓶でした。

 その中にはほんのちょっぴり飲み残しがあるだけで、お菓子の香り付けに使うのにも足りそうもありません。

 爺様と呼ばれるケットシーがひと瓶丸々飲み干してしまったのでしょう、健やかな寝息を立てているのも納得です。

 王様がこんなに暴れていても全く起きる気配もなく、外で見たケットシーたちと同じ顔をして寝ているものだから、魔女っ子さんは可笑しくて笑いそうになりました。

 でも隣で怒っている王様に笑っているの見られては、怒りに油を注いでしまうでしょう。

 なので魔女っ子さんはそっと口元を押さえて誤魔化しましたのですが、王様はそんな事はちっとも気が付かず、喚きながら事の経緯を説明してくれました。


 「今日はバレンタインだから、とびきり上等なまたたびワインを用意していたのに。
 この爺様ときたら、勝手に飲んじゃったんだにゃ!」

 「あらまあ、奥様へのプレゼントを?」


 王様の言葉を聞いて、魔女っ子さんは思わず眉を顰めながら口を開きました。

 愛する者のために用意していた贈り物を横取りされてしまったのですもの、ここまで取り乱して怒るのにも納得できる理由でした。

 ぽこぽこと怒り続けていた王様でしたが、今度はしくしくと涙を溢しながら話し始めます。


 「このままじゃあ儂が嫌われちゃうにゃあ、せっかくのバレンタインなのに…」


 ふかふかの掌に顔を埋めて、おいおいと泣いている姿はあんまりにも可哀想でした。

 魔女っ子さんはどうにかしてあげなきゃと心から思って、励ましの言葉をかけました。


 「泣かないで、王様。
  大丈夫、代わりのプレゼントを用意すればいいのよ」


 魔女っ子さんの優しい声を聞いて、王様はそっと掌から顔を上げました。

 涙で濡れてせっかくの滑らかな毛並みが台無しになっていましたが、今の王様にはそんなことを気にしている余裕はありません。

 しゃくりあげながら魔女っ子さんの言葉に答えるのが精一杯なのでした。


 「か、代わりって言ったって、もう用意する時間はないにゃ…」

 「ええ、同じものを用意するわけじゃありません。
 …ところで奥様の好きなものってご存じ?」

 「もちろん、またたびとお魚にゃ」

 「まあ、それはケットシーの皆そうでしょう。他に何かないんですか?」


 はて他には何があったっけ、と王様は愛する妻のことを頭に浮かべながら考えてみました。

 記憶の中の妻が特に笑顔になった贈り物のことを思い出していくと、思い当たるものが見つかり、明るい表情で声を上げました。


 「あ、あとお花とチョコレートケーキも好きだにゃ!」


 魔女っ子さんはそれを聞いて、腕を組んだまま片手で顎を触りつつ、深く考え込み始めました。

 なにやらぶつぶつと独り言を呟いていましたが、すぐにパッと晴れやかな笑顔を浮かべて王様を見上げました。


 「そうだわ、手作りのチョコレートケーキを作りましょう!」


 想定していなかった言葉に、王様は驚いて聞き返しました。


 「手作りって、儂がかにゃ!?」


 目を丸くしている王様に、魔女っ子さんは力強く頷きながら言葉を返します。


 「そりゃあそうですよ、愛する人が手ずから作ってくれたものなら嬉しいに決まってます。」

 少なくとも奥様の性格からすると喜んでくれると思いますけど、と呟けば王様も乗り気な表情に変わっていきました。

 しかし何やらまだ気になる事があるのか、小さな声でもごもごと話しています。
 
 「でも、儂は料理なんてしたことないにゃ」

 「任せてください、私がお手伝いしますから」


 不安そうな王様を安心させようと、魔女っ子さんは自信たっぷりの笑顔で言いました。

 それならば心強いと、王様は表情を明るいものに変えて、魔女っ子さんの提案に乗ることにしました。


 「うむ、それではよろしく頼むにゃ!」


 王様はむん、とやる気一杯に拳を握り締めて、力強い声で返事をしたのでした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

黒地蔵

紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

処理中です...