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第10話「反撃の狼煙、集められた証拠」
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現実の世界で、玲花はゆっくりと目を開けた。
見慣れない豪華な天蓋。自分の手には、温かい誰かの感触が残っている。視線をそちらへ向けると、寝台の脇に突っ伏すようにして眠る瑛心の姿があった。彼女の手を、彼は眠っている間もずっと握りしめていてくれたらしい。
その顔には深い疲労の色が浮かんでいたが、以前のような苦悩の影は消え、どこか穏やかささえ感じられた。
(……帰って、きたんだ)
夢の中での出来事が、鮮明に蘇る。私たちは、ついに真相にたどり着いたのだ。
玲花が少し身じろぎをすると、その気配に気づいたのか瑛心の瞼がゆっくりと持ち上がった。そして、目が覚めている玲花の姿を認めると、その黒曜石の瞳を驚きに見開いた。
「玲花……!気がついたのか!」
彼は勢いよく体を起こし、玲花の顔を覗き込んだ。その声には隠しきれない安堵と喜びが滲んでいる。
「はい、陛下……。ご心配を、おかけしました」
「馬鹿者……。どれだけ、肝を冷したと……」
言いながら、瑛心は玲花をそっと抱きしめた。その腕には力がこもっている。大切なものを失う恐怖から、ようやく解放されたかのように。
温かい彼の胸に顔をうずめながら、玲花は自分の無事を、そして彼の無事を実感していた。
しばらくして、瑛心は名残惜しそうに体を離すと、真剣な表情で玲花に向き直った。
「体は、大丈夫なのか」
「はい。もう、痛みもありません。御医様が、よく看病してくださったと」
「そうか……よかった」
心の底から安堵のため息をついた瑛心は、すぐに皇帝の顔つきに戻った。
「玲花。夢の中でのこと、覚えているな」
「はい。皇太后様の、鳳凰の紋……」
「そうだ。あれが決定的な証拠になる。だが、夢で見たというだけではあの女狐を追い詰めることはできん。現実世界での、揺るぎない物証が必要だ」
瑛心の瞳が、鋭い光をたたえる。反撃の準備は既に始まっているのだ。
「高順!」
瑛心が呼ぶと、控えていた高順がすぐさま部屋に入ってきた。彼は、目覚めた玲花の姿を見てわずかに安堵の表情を浮かべた。
「玲花殿、ご無事で何よりです」
「高順様……」
「高順、計画は進んでいるか」
「はっ。陛下の指示通り、密偵を放っております。皇太后の一族が、先帝陛下の暗殺時期と前後して不自然な金の動きを見せていることを突き止めました。また、あの侍女が隠し持っていた毒も、皇太后の一族の領地でしか採れない特殊な植物から精製されたものであることが判明しております」
次々と報告される有力な情報。玲花が眠っている間に、瑛心と高順は着々と外堀を埋めていたのだ。
「よし。だが、まだ足りん。連中が言い逃れできぬ、決定的な一撃が欲しい」
瑛心は腕を組み、思案する。
その時、玲花がおずおずと口を開いた。
「あの……陛下」
「どうした、玲花」
「その……皇太后様を、おびき出すことはできないでしょうか」
「おびき出す?」
「はい。私が目覚めたことを知れば、皇太后様はきっと焦るはずです。私が何かを知っているのではないかと。そして、口封じのために必ずもう一度、何か仕掛けてくると思うのです」
玲花の提案に、瑛心は眉をひそめた。
「お前を囮に使うと申すか。ならん。二度と危険な目に遭わせるわけにはいかない」
「ですが、これが一番確実な方法です」
玲花は、まっすぐに瑛心を見つめた。その瞳には、かつてのお針子の頃の気弱さはもうない。皇帝の隣に立つ者としての強い意志が宿っていた。
「もう、守られてばかりは嫌なんです。私も、陛下と、一緒に戦いたい。この国の未来のために。そして……あなたのために」
その真摯な言葉に、瑛心は心を打たれた。彼女は、もうか弱いだけの少女ではない。自分の運命を、そして愛する人の運命を自らの手で切り拓こうとしている。
瑛心は、しばらく黙って玲花の顔を見つめていたが、やがて大きく息を吐くと、決意を固めた表情で頷いた。
「……分かった。だが、条件がある。決して無茶はするな。お前の身に何かあれば、この計画も、俺の命も、意味をなさなくなる。いいな?」
「はい……!」
「高順、聞こえたな。玲花の身辺警護を完璧にしろ。影の者を複数つけ、片時も目を離すな」
「御意」
こうして、皇太后を罠にかけるための最後の作戦が始まった。
まず、玲花が意識を取り戻したという情報が後宮に大々的に流された。さらに、「毒の後遺症で記憶が混乱しており、時折、先帝陛下の暗殺に関するうわごとを口走る」という偽の情報も意図的に漏らされた。
案の定、その報せはすぐに皇太后の耳に入った。
「……あの小娘、生き延びた上に余計なことまで喋っているというの?」
皇太后は、苛立たしげに扇子を閉じた。記憶が混乱している、というのは怪しい。だが、万が一あの夜のことを何か覚えていれば厄介だ。完全に息の根を止めておくべきだった。
焦りが、彼女の判断を鈍らせる。
「こうなれば、直接手を下すまでよ」
皇太后は、最も信頼する暗殺者を呼び寄せ、玲花の暗殺を命じた。
全ては、瑛心の筋書き通りに進んでいた。玲花という光を守るため、そして長年の闇に終止符を打つため、皇帝は静かに、しかし確実に巨大な悪意を追い詰めていく。
決戦の時は、すぐそこまで迫っていた。
見慣れない豪華な天蓋。自分の手には、温かい誰かの感触が残っている。視線をそちらへ向けると、寝台の脇に突っ伏すようにして眠る瑛心の姿があった。彼女の手を、彼は眠っている間もずっと握りしめていてくれたらしい。
その顔には深い疲労の色が浮かんでいたが、以前のような苦悩の影は消え、どこか穏やかささえ感じられた。
(……帰って、きたんだ)
夢の中での出来事が、鮮明に蘇る。私たちは、ついに真相にたどり着いたのだ。
玲花が少し身じろぎをすると、その気配に気づいたのか瑛心の瞼がゆっくりと持ち上がった。そして、目が覚めている玲花の姿を認めると、その黒曜石の瞳を驚きに見開いた。
「玲花……!気がついたのか!」
彼は勢いよく体を起こし、玲花の顔を覗き込んだ。その声には隠しきれない安堵と喜びが滲んでいる。
「はい、陛下……。ご心配を、おかけしました」
「馬鹿者……。どれだけ、肝を冷したと……」
言いながら、瑛心は玲花をそっと抱きしめた。その腕には力がこもっている。大切なものを失う恐怖から、ようやく解放されたかのように。
温かい彼の胸に顔をうずめながら、玲花は自分の無事を、そして彼の無事を実感していた。
しばらくして、瑛心は名残惜しそうに体を離すと、真剣な表情で玲花に向き直った。
「体は、大丈夫なのか」
「はい。もう、痛みもありません。御医様が、よく看病してくださったと」
「そうか……よかった」
心の底から安堵のため息をついた瑛心は、すぐに皇帝の顔つきに戻った。
「玲花。夢の中でのこと、覚えているな」
「はい。皇太后様の、鳳凰の紋……」
「そうだ。あれが決定的な証拠になる。だが、夢で見たというだけではあの女狐を追い詰めることはできん。現実世界での、揺るぎない物証が必要だ」
瑛心の瞳が、鋭い光をたたえる。反撃の準備は既に始まっているのだ。
「高順!」
瑛心が呼ぶと、控えていた高順がすぐさま部屋に入ってきた。彼は、目覚めた玲花の姿を見てわずかに安堵の表情を浮かべた。
「玲花殿、ご無事で何よりです」
「高順様……」
「高順、計画は進んでいるか」
「はっ。陛下の指示通り、密偵を放っております。皇太后の一族が、先帝陛下の暗殺時期と前後して不自然な金の動きを見せていることを突き止めました。また、あの侍女が隠し持っていた毒も、皇太后の一族の領地でしか採れない特殊な植物から精製されたものであることが判明しております」
次々と報告される有力な情報。玲花が眠っている間に、瑛心と高順は着々と外堀を埋めていたのだ。
「よし。だが、まだ足りん。連中が言い逃れできぬ、決定的な一撃が欲しい」
瑛心は腕を組み、思案する。
その時、玲花がおずおずと口を開いた。
「あの……陛下」
「どうした、玲花」
「その……皇太后様を、おびき出すことはできないでしょうか」
「おびき出す?」
「はい。私が目覚めたことを知れば、皇太后様はきっと焦るはずです。私が何かを知っているのではないかと。そして、口封じのために必ずもう一度、何か仕掛けてくると思うのです」
玲花の提案に、瑛心は眉をひそめた。
「お前を囮に使うと申すか。ならん。二度と危険な目に遭わせるわけにはいかない」
「ですが、これが一番確実な方法です」
玲花は、まっすぐに瑛心を見つめた。その瞳には、かつてのお針子の頃の気弱さはもうない。皇帝の隣に立つ者としての強い意志が宿っていた。
「もう、守られてばかりは嫌なんです。私も、陛下と、一緒に戦いたい。この国の未来のために。そして……あなたのために」
その真摯な言葉に、瑛心は心を打たれた。彼女は、もうか弱いだけの少女ではない。自分の運命を、そして愛する人の運命を自らの手で切り拓こうとしている。
瑛心は、しばらく黙って玲花の顔を見つめていたが、やがて大きく息を吐くと、決意を固めた表情で頷いた。
「……分かった。だが、条件がある。決して無茶はするな。お前の身に何かあれば、この計画も、俺の命も、意味をなさなくなる。いいな?」
「はい……!」
「高順、聞こえたな。玲花の身辺警護を完璧にしろ。影の者を複数つけ、片時も目を離すな」
「御意」
こうして、皇太后を罠にかけるための最後の作戦が始まった。
まず、玲花が意識を取り戻したという情報が後宮に大々的に流された。さらに、「毒の後遺症で記憶が混乱しており、時折、先帝陛下の暗殺に関するうわごとを口走る」という偽の情報も意図的に漏らされた。
案の定、その報せはすぐに皇太后の耳に入った。
「……あの小娘、生き延びた上に余計なことまで喋っているというの?」
皇太后は、苛立たしげに扇子を閉じた。記憶が混乱している、というのは怪しい。だが、万が一あの夜のことを何か覚えていれば厄介だ。完全に息の根を止めておくべきだった。
焦りが、彼女の判断を鈍らせる。
「こうなれば、直接手を下すまでよ」
皇太后は、最も信頼する暗殺者を呼び寄せ、玲花の暗殺を命じた。
全ては、瑛心の筋書き通りに進んでいた。玲花という光を守るため、そして長年の闇に終止符を打つため、皇帝は静かに、しかし確実に巨大な悪意を追い詰めていく。
決戦の時は、すぐそこまで迫っていた。
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