7 / 25
6.モンブランの味
しおりを挟むイヤホンをしながらゲームをしている集団、スマホ片手に会話が弾んでいる様子の女子達。
大学の食堂は今日も賑わっていた。
オレは優希と向かい合って講義の話をしていた。
「あれ、めっちゃむずいよな」
ハンバーグ定食を話している優希の言葉にオレは唐揚げ定食を食べながら頷く。
「でさー……」
急に優希がオレの頭上を見る。
背中にずしり、と重みを感じる。ふわり、とシトラスのいい香りがした。
上から長い腕が伸びてきた。おぼんの中に置かれたのはコンビニの生チョコだった。
円堂はオレを餌付けしにかかっているのだろうか。
「これ、あげるよ」
頭上を見上げる前に重りが消えて行く。咄嗟にオレは腕を掴み、引き寄せた。
「わ、危ないから」
円堂がバランスを崩しオレにぶつかる。
「口開けて」
困惑した表情の円堂は口を開ける。オレはその口にからあげを一つ入れる。
「……チョコのお礼」
円堂は目を丸くして固まった。オレがふって笑えば顔を逸らして逃げるように足早に食堂を出ていった。
「なんだ、あいつ」
オレは残った最後のからあげを口に含む。
「なぁ、今の円堂先輩だろ。知り合いなのかよ」
「なに、あいつ有名なの?」
「頭いいし、ほら身長めっちゃでかいから影で女子から人気なんだよ」
「へー……」
オレはもらった生チョコに手をかけ、一つ口に入れた。
とっても柔らかくて、甘くて口の中の体温でトロリとあっという間に溶けた。
「うまいな、これ。優希も食べる?」
オレは優希に生チョコが入った容器を差し出した。
オレはカフェにいた。
大好きなモンブランを注文し、一人の時間を味わっていた。
半分食べて窓の外を眺める。行き交う人達が波のように流れて行く。
前にこのカフェを見つけた時も朝陽と一緒に外を眺めながら話をしていた。
他愛もない話をして盛り上がって、指先が触れ合えば見つめあって、オレたちのなかで甘い何かが流れていた。
オレはモンブランをまた食べ始めた。マロンクリームが大好きだ。甘すぎず舌触りが良くてなめらかだから。
視線を感じた。
窓の外を見ると目が合う。朝陽だった。スマホ片手に耳にはワイヤレスイヤホンが付けられていた。
朝陽は何も見なかったようにオレから視線を外した。
オレの手がピクリ、と動く。
「早く食べて、帰らなきゃ」
無意識に小さく呟いていた。その声は震えていた。心は荒波に襲われている。頑張って平常心を保とうと努力する。しかし、手は震えてしまう。
自分が突き放した結果なのに、苦しかった。
こと、と何かが置かれる音がした。
顔を上げれば朝陽がいた。
「なに、してるの」
「別に、俺も食べたくなった」
朝陽の皿にはオレと同じモンブランがあった。
静かな時間が流れる。窓の外はゆっくり暗くなっていく。静かだった店内も少し賑やかになっていった。
「そろそろ、帰るわ」
朝陽はすっと、立ち上がるとイヤホンをしながらオレを見下ろす。
「早く食べろよ」
それだけ言い残して、店内を出て行く。オレは自分の皿を見た。まだモンブランは残っていた。
ようやくオレは手をつける。
ほんの少しだけ乾いてしまったが口に含んだモンブランはとびっきり美味しかった。
「やっぱ好きだなぁ」
オレはモンブランを食べながら笑った。
店を出る頃には辺りは暗くなっていた。公園の街灯はチカチカと点滅している。周りには虫が飛び交っていた。
オレはカバンを下ろす。
「久しぶりじゃん」
後ろを振り返ると10人くらいの葉山の刺客がいた。さっきまで美味しいモンブランを食べて幸せな気持ちだった。
今はもうそれを塗り替えられた怒りをオレの心は宿していた。
刺客の中に棒を持った奴がいる。
「そんなに一緒にいて欲しくないのかよ」
オレは刺客に立ち向かって倒していく。受け止め切れない棒がオレの肩を殴りつける。身を捩り刺客の顔に拳を入れる。
同時に反対方向から顔を殴られた。目の前がちかちかする。口の中が切れたのか鉄の味がする。
「ふざけんなよ」
吐き出した血は暗い地面に黒い花を咲かす。
オレはなりふり構わず、獣のように刺客達を倒していく。
腕を捕まれ蹴られ、吹き飛ばされても諦めなかった。
頭に強い衝撃が来る。振り返り蹴りあげれば棒が地面に音を立てて落ちる。
「だるい!」
無我夢中で倒していった。
地面に座り込む頃には刺客は全員倒れていた。
「疲れた」
ポケットに入れていたスマホが振動する。メッセージが来ていた。
画面が顔を照らす。
《駐車場にいるよ》
円堂からだった。なぜ、ここにいるのか分からない。オレはため息をつく。
「……助けに来いよ」
体のあちこちが痛い。ふらり、とオレは立ち上がりカバンを持って駐車場に向かってオレは歩き出した。
チカチカしていたはずの街灯は、役目を思い出したのかしっかり夜道を明るく照らしていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる