花は葉を愛し、葉は花を愛す。ー恋人は00時00分、敵になりましたー

湯川岳

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7.魅了と好意

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 「いてててっ」

 オレは円堂の家にいた。

「ほら動かないで」

 頬を消毒される。痛みで後ずさるがソファの背もたれのせいで逃げることができなかった。
 最後にキズテープを貼られた。

「……来てくれて、ありがとう」

 ケーキを食べた帰り道、つけられていたオレは円堂に連絡して置いた。あわよくば途中で助けに来るかと思ったのに、円堂はわざと待っていたらしい。
 何考えているのか分からない。

「そんなに多かったの?」

 救急箱を片付けながらオレに聞いてくる。

「守るって言ってたじゃん」

「それはさ、僕が、側にいる時だけだから」

 性格が悪いと思った。
 テーブルの上に紅茶が置かれた。
 一口飲むと甘かった。

「はちみつ?」

「はちみつ紅茶って知ってる?最近、流行ってるんだよ」

「へー」

 ゆっくりと傷口に触らないように飲む。円堂がオレの横に座る。

「今日さ、朝陽に会った」

 オレは紅茶を置いた。

「……なんで、それを僕に言うの?」

 円堂の顔を見た。なんだか怒っているようだった。
 
 オレは円堂とのゲームボードの上にいる。今日も生チョコ渡して来たり、助けに来なかったのもきっとゲームメイクしているのだろう。

「いや、べつに」

「なにそれ」

 テーブルに強めに置かれた円堂の紅茶は少し零れた。
 肩を押されて円堂に押し倒される。

「葉山はゲームオーバーしたんだよ?」

「オレにとっては、まだゲームオーバーじゃない。印貰ってないから」

 怪我をしている肩を強く押され、痛みで顔を歪める。
 オレは円堂の顔を見て笑った。
 朝陽が女の子に声をかけられて、話をしていた時のひどく傷ついたオレと同じ顔をしていた。
 その時、心の中はなんで、って苦しくてオレは女の子に嫉妬していた。

「…何笑ってるの」

 気付いていないのだろう。自分の今の顔に。
 オレは円堂の襟元を持って引き寄せる。円堂は息を飲んで、体を固まらせた。耳が赤くなっていく。

「だって、あんた嫉妬してるじゃん」

「手、離して」

「……オレのこと好きになっちゃったんだろ?」

 襟元を持たれて逃げ場がない円堂は、オレの手を必死に取ろうとしていた。

「早く認めろよ。そんで早く印、くれよ」

 円堂が襟元にあるオレの手から手を離す。少し項垂れ、顔を隠す。一生懸命、何か考えているのだろう。
 そんなことを思っているとオレはキスされていた。円堂の舌がオレの口の中に入り込もうとする。オレはそれを迎え入れることはなかった。

 襟元から手を離す。

「……調子乗んないで。まだ、好きじゃないから」

 円堂は虚勢なのか、勝ち誇ったような顔で見下ろしていた。
 紅茶を持ってキッチンへ逃げるように去って行く。オレは手の甲で口を拭いた。

「往生際が悪すぎる」

 オレはため息をついた。



 
 初夏の太陽が木々の間から差し込み、流れる川はキラキラと輝いていた。

「で、これはなに?」

 結局、あの後、夜も遅かったから家に泊めてもらった。次の日は休みだからゆっくり寝ていたのに、叩き起され着替えさせられ、オレは知らない河川敷にいた。

「見れば分かるでしょ、BBQだよ」

「いや、分かるけど朝からだぞ」

「週末なんだから、デートぐらいしようよ」

 トングを渡される。すでに切られた野菜や肉を並べて行く。
 川の流れる音に肉が焼ける音、セミの鳴き声が耳に入って来る。

「……暖はさ、それぞれの印が持っている効果知ってる?」

 円堂は肉をひっくり返す。オレは知らない、と答えて紙皿にタレを入れて焼けた肉を1人食べ始めていた。

「椿の花は魅了」

 オレは食べる手を止めた。

「葉の印は身体能力向上。円の印は防御」

「オレだけなんか弱い」

「弱くないよ。だって葉と円は、花のために力を発揮しなければ力は使えないから」

 円堂がこの前、オレを助けてくれた時のことを思い出す。朝陽の拳を簡単に止めて吹き飛ばしていたことを。

「葉山はバカだよね。何も分かっていない。花のために力を使えば強くなれたのにね。だから彼らは最後に当主になってから300年経った今、弱いままなんだ。忘れてるのかもね。当主になったて味をしめちゃったから」

 オレはまた焼けた肉を食べる。

「ねぇ、聞いてるの?」

「聞いてるけど、肉が焦げるし、腹減った」

 円堂は急に腹を抱えて笑い始めた。オレはそれを見ながら焼けた野菜や肉を食べていく。
 一通り笑った円堂も肉を食べ始めて、オレたちは腹いっぱい食べた。
 食べ終わった後は川で遊んでいた。ズボンを膝の所まで上げて、水を蹴った。

「おりゃー!めっちゃ気持ちいい!」

「うわっ!ちょっと僕が濡れちゃうから!」

 嫌がるくせに円堂は笑っていた。オレも声を出して笑う。
 仲のいい友達と遊んでいるようで楽しかった。
 その後も近くを観光して、夜は花火をした。






 帰りの車の中。オレはうとうとと薄れて行きそうな意識の中、トンネルの流れていく光を見ていた。
 ぼーっと見ながら自分の魅了のことを考えていた。朝陽はオレに魅了されたから付き合っていたのかもしれない。知りたくもない真実を余計に知った気分だった。

「ちょっと寄りたいところがあるんだけどいいかな」

「うん、いいよ」

 着いた場所は高台だった。車から降りると生暖かい風が頬を撫でた。しかし目に映る景色に目が奪われる。
 街が宝石箱から出てきたようにキラキラ光っていた。

「ここの夜景、綺麗だって有名でさ一回来ててみたかったんだよね」

 一日、円堂と行動を共にしていたがやっぱりオレに惚れている気がした。
 ふとした時に見せる顔やの行動が、恋をしていた。もう、勝負はついているはずだ。

「あのさ、円堂って……うわっ!」

 急に殴りかかってきて、オレは避けて円堂の腹部を一発殴る。

「いったー…げほっ。無理、たんま」

 円堂は片手を上げる。

「はー、やっぱだめか。降参だよ」

 悔しそうに悲しそうに笑っていた。
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