16 / 25
15.因縁の過去
しおりを挟む数日後、オレは再び葉山の家にいた。
オレの前を黒い袴を来た男達が歩く。とても静かだった。布が擦れる音がやけに大きく聞こえる。
屋敷の広い廊下を歩きながら、この間まで辛かった日々を思い出す。突然、好きな人と敵となり絶望し、それでも前に進んだこと。新しい印の持ち主と出会い、友達になれたこと。そして、最後の戦いで、好きな人が自分で長年の縛りから抜け出せたこと。
そして、オレもまた、全てを背負い神に立ち向かおうとしている。
廊下を抜けると渡り廊下が現れる。横には池があり、鯉が泳いでいた。道向こうから歩いて来た使用人の女性達が立ち止まり、オレを見て頭を下げた。
襖を開けられ、オレは中に足を入れる。
その部屋に入り、オレは固まってしまった。白い袴が置かれ、白い羽織には銀糸で描かれた椿があった。真夏なのに、まるで雪の中に椿があるように見えた。とても綺麗だった。
姿見に映るオレは数人の男性によって白い袴に着替えさせられて行く。
よく見ると刺客達の姿に似ていた。彼らもある意味、被害者だ。本来の仕事にやっと戻れたのか、気まずそうだがテキパキと仕事をこなしていく。
今日は、当主、として最初で最後の行事が行われる。
無益な争いをさせ、被害者ばかり出す神様と顔を合わせる日だ。
着替え終わり、別の部屋に案内される。襖を開くと広い部屋には黒い袴に黒い羽織を着た父さん達がいた。背中にはひとつになった印が描かれていた。
「綺麗だよ、暖」
「似合ってる」
円堂と朝陽が微笑んで、オレの元に来てくれた。
「なんか恥ずかしいけどね。ありがとう。朝陽達も似合ってるよ」
円堂達も黒い袴に黒い羽織を羽織っていた。父さんと同じように印が背中に入っている。
オレだけ白い袴で、とても目立っていた。
「ほら、しゃきっとしなさい。お前はこれから当主として最初で最後の役目を今からやるんだから」
背中をばしんっと父さんに叩かれる。
「ってか、もっと早くこんな仰々しいやつだって教えてくれれば良かったんだよ」
父さんは気楽にやれ、としか教えてくれなかった。それにどうして葉山の家でやるのかと聞いた時も。
「広いから」
と、しか言っていなかった。
オレはため息をつく。
「それにしても毎回、よくもまぁ屋敷を提供できるな」
円堂の父親と朝陽の父親がやって来る。
「まぁ、私たちの家は広いですからね。どっかの一軒家でやるより風情があるでしょ」
朝陽の父親がそう言うと父さんは笑っていた。
鈴の音が部屋に鳴り響く。一瞬にして静寂になる。黒い着物を来た母さんが襖を開けて入って来る。
やはり、その背にも印が描かれていた。
手には何か箱を持っている。
父さんに腕を引かれ、前に行く。その後ろを葉山家と円堂家が後に続く。部屋にはいつの間にかその三家しかいなかった。
オレは小上がりに上がる。床の軋む音と袴の擦れる音が部屋に響く。
父さんに座るよう促され、正座をする。
オレの前に箱が置かれる。父さんは真剣な顔でオレを見た。
「これを開けると丸い水晶がある。それを手に取ると神様がお前を呼ぶから声に向かって歩くんだ」
「わかった」
「じゃぁ、行ってこい」
父さんは小上がりから降り、円堂達の横に座る。
朝陽と目が合った。朝陽はゆっくり頷く。オレは箱に手をかける。開けると赤い布に包まれた小さな水晶玉が入っていた。それを手に取るとくらり、と目眩がした。手から落ちた水晶がコロコロとオレの後ろへと転がって行く。
目眩がひどくなっていく。手を着く。
「暖!」
朝陽の声が聞こえると同時にオレの視界は真っ暗になった。
目を開けるとそこは真っ暗だった。
「こっちだよ」
声が聞こえた。それはまるで雪のようなふわり、と溶けてしまいそうな声だった。
その声に向かって歩く。光が見えたと思ったらそこは崖の上だった。
「なんだ、これっ」
眼下に広がるのは甲冑をまとった武士達が戦っていた。大きな声が風と共にやってくる。三つの旗があった。椿の花、椿の花、そして円。
「こんな時からやってんのかよ」
鳥がバサバサと飛んでくる。それを避けると場所が変わっていた。
ニ人侍が刀を構えていた。その傍らには血を流した円の印を背中に描かれていた。死んでいた。過去のことだと分かっていても吐き気が襲う。
刀が振り上げられ、オレは目を閉じる。
次に目を開けると洋装を来た三人組が話し合っているようだった。
場面が変わると葉の印を手に描かれた人は女性を抱いて泣いていた。その手には真っ赤な刀が握られていた。その横で話し合っていた椿の花と円の印を持った男がその様子を呆然と眺めていた。
風が吹き、目を閉じる。
次に目を開ければ、椿の花が咲き誇る庭にいた。そこは葉山家に似ていた。雪がしんしんと降っている。なぜか寒くなかった。
「可愛い子だね」
雪のような白い髪をした着物を着た男性が赤子を抱いていた。
その横には優しい顔をした女性が微笑んでいた。
雪が吹雪に変わる。オレの視界を遮った。
次に目を開けると、また先程の椿が咲き誇る庭だった。
雪は降っていない。オレは庭から家の中をを覗く。
先程見た白い髪をした男性がいた。オレは直感で彼が神様だと思った。
神様はゆっくりとこちらを見た。そして、立ち上がり近づいて来る。オレは動くことが出来なかった。
余りの美しさと神々しさに飲まれてしまっていた。
雪が降っていないのに、そこには降っているようだった。
「よく、来たね」
先ほど聞こえた、ふわり、と溶けてしまいそうな雪のような声が聞こえた。
0
あなたにおすすめの小説
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる