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16.椿の庭の主
しおりを挟む神様はゆっくりと膝を折り、縁側に座る。
「君はよく、椿に似ているね」
頬に触れられる手は驚くほど冷たかった。
椿とはきっと、先程見た女性だ。そしてこの戦いの原点の人。
「もっとよく見せて」
神様の顔が近づいて来る。オレの瞳の中を覗き込んでいるようだ。
「魂までそっくりだ。美しいね」
神様の顔が明るくなり、声が弾む。オレは動くことが出来ずにいた。ようやくゆっくりと指先が動き、足も動いた。
一歩下がる。
神様はそんなオレを見て、笑って立ち上がる。
「さて、願い事。叶えてあげるよ。お金が欲しいや人を殺してほしいとかは無理だよ。それからーー」
「印を返しに来た」
「なんだって」
「クソ野郎に印を返しに来たって言ってる」
神様は驚いた表情をすると、目を細めオレを睨む。
一気に辺りが寒くなった。
「神に向かって、よくもまぁそんな口が利けるね」
「いらないんだよ!こんな印があるから争いになるんだ!」
顎を掴まれた。氷のように冷たい指が肌にくい込んで痛い。
神様の目は赤く光っていた。まるで庭に咲いている椿のようだった。
「その願いは聞けない」
オレの顎から手を離す。
はっ、と神様は鼻で笑った。
「そもそも、戦いを勝手にし始めたのは君たちだ。私は認めさせろ、と言っただけなのに。愚かなのを棚にあげて」
寒くなった空気にオレの息が白くなっていく。
「今、記憶を見たが君は葉の印を持った彼と恋仲だったんだね。そのせい?くだらない」
「ぜんっぜん、くだらなくない!だって好きな人が印のせいで傷付いているんだぞ!?あんたには分からないのかよ」
雪が降り始めた。神様が庭に出て来て椿の花にキスを落とす。
「私は椿を愛しているんだ。印を消したら私が愛した痕跡が消えてしまうじゃないか」
オレは鼻で笑った。
どれだけ、神々しくてもやっていることは、とてつもなく傲慢で自分勝手な男だった。
「あんた、さっきオレと椿さんが似てるって言ったよな?もしそれが本当なら、椿さんはお前のこと嫌いだっただろーなー」
急に薄暗くなった。空を見上げると太陽がゆっくりと闇に包まれていく。
オレは神様の後ろ姿を見つめた。
ひしひしと怒りの感情が吹雪となって、景色が一変していく。
「図星かよ」
「彼女は私との印をいらない、と言っていた。懲り懲り、とも言っていたなぁ」
全ての椿の花が葉が散り始める。
オレは寒さで震えてるわけではない拳を握りしめる。
「いらないんだよ、こんなクソみたいな印。早く消せよ」
「君は私を怒らせるのが上手いようだ。印、消してあげるよ」
オレはその答えに嬉しくて笑った。
神様がにやり、笑う。
「君の帰りを待つ人達を消してからね」
「神のくせにやる事が汚いんだよ」
神様はゆっくりとした足取りでオレに近づいて目の前まで来た。
オレは逃げずに真っ直ぐ見つめる。頬に置かれた手はやはり冷たい。
「君の魂はやはり似ている。というより、椿そのものだ。欲しいな。君を私の手元に置いて置きたい」
反対の頬にも手が添えられる。顔を上に優しく向かせられる。赤い瞳が急に甘く蕩けるような光を宿していた。
顔が近づいてくる。
なぜかオレの体は動かなかった。誰かがオレの中にいる気がした。
「愛しているよ、椿」
神様はオレに口付けをした。冷たい唇は何度も角度を変え深く口付けをする。背中がチリ、と熱くなる。やっと指先が動く。神様に会ってからオレの体がおかしい。
「そこで私を見ているのだろう」
そことはどこなのだろう。
オレの体がやっと動き、神様を突き放す。雪の中にオレの体が倒れ込む。
「大丈夫、ちゃんと大事にするから」
オレの視界がぐらつき、暗くなっていく。
「その手で愛した者を傷つけさせてからね」
ーーーやめろ!
しかし、オレは声が出せなくなっていた。神様に腕を捕まれ、引き寄せられる。
「私を罵ったことを後悔するがいい」
神様が懐から鈴を出す。暗くなった空に鈴の音が響き渡る。光に包み込まれると、先程までいた場所に戻って来ていた。
父さんや朝陽や円堂が驚いた顔で固まっている。
オレの体が勝手に動いた。神様に何か言っている父さんを蹴り飛ばす。円堂の父と葉山の父も来たがオレに触れることなく吹き飛んだ。
オレは朝陽の前にいく。
ーーー朝陽、逃げろ!早く!
オレの声は届いていないようだった。朝陽の首元を持って、床に叩きつけた。
ーーああっ!いやだ!朝陽!
円堂が助けに入るが彼もまた、同じように床に叩きつけてしまう。
しかし、朝陽が立ち上がりこちらに向かって何かを言っていた。
神様の姿が目の端に入る。朝陽の近くに立った神様の手に赤い刀が現れる。
それを後ろに引く。朝陽を貫こうとしているのだろうか。
ーーー動け!オレの体、動け!!
背中が焼けるような痛みが走り、体が熱くなって聴覚に触覚が戻っていく。
「ーーーなぜ」
神様の声がした。
オレは胸を貫かれた赤い刀を見たあと神様に笑った。
「参ったかよ」
刀が引き抜かれる。オレはふらふら、と朝陽の元まで歩いていく。
朝陽は立ち上がりオレを抱きしめる。その温かさに力が抜けていく。
誰もが言葉を失い、静寂な時間が流れる。まるで雪で覆われた世界のようだった。
「あーぁー……」
膝から崩れたオレは足元に広がる赤を見た。
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