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【番外編】5.卒業祝い 後編
しおりを挟む説教が終わった2人と朝陽の部屋に戻ると映画鑑賞会が始まった。
円堂が観たいと持ってきた泣ける映画と話題の作品だった。
2人の手にはじゃんけんして勝ち取ったケーキがある。最初っからそうすれば良かったのに、と真ん中に座るオレはその様子を見ながら思った。
映画が中盤に差し掛かった頃。
隣から寝息が聞こえた。朝陽だ。
この作品を観る前にあまり恋愛映画は好きじゃないと言っていた。
実際に恋愛しているのに何を言っているんだか。隣の円堂はやはり観たいと言っただけあって真剣に見ていた。
エンドロールに入ると円堂が朝陽が寝ているのを確認してオレの耳元に話し掛けてきた。
「ねぇ、僕のお願い聞いてよ」
にこにことしているが少しイタズラも含んでいる様だった。
「それ、また最後の?」
オレも笑って返す。円堂はテーブルに置いてあった残りのショートケーキの上のイチゴをフォークで刺す。
「何、くれんの?」
「え、あげないよ。沢山食べてたでしょ」
円堂はオレの唇に苺を当てるとその部分を自分の唇に当てる。
どこか色気がある行為にオレの顔に熱が集まっていく。
「な、何やってんだよ」
「いいでしょ。これくらい。だって僕しばらく海外だよ?暖との思い出少しくらいもらってもいいでしょ」
円堂が顔を近づけてくる。
「それとももっといい思い出くれるの?」
片手に持たれた苺がゆらゆらと動く。オレは円堂にきっと試されているのかもしれない。
「くれてやってもいいけど?」
オレはにやりと笑った。
円堂が持っている苺が刺さっているフォークを取る。円堂の唇にもう一回付ける。
「え、なになに」
円堂の顔がみるみる赤くなっていく。そしてその苺を朝陽の口の中に捩じ込んだ。
急に入ってきた苺に驚いた朝陽がそれを咀嚼する。
「あーー!嘘でしょ、暖!なんで!」
「いい思い出になったろ?」
「あんまいい思い出じゃないね。記憶に残りそうだよ」
愕然と肩を落とす円堂を見てオレは笑った。
「しょーがねーなー。ほら」
ショートケーキを掬い円堂の口に持っていく。
円堂は嬉しそうに食べた。そのフォークも朝陽の口に入ったものだって気づいているのだろうか。
そう思いながら満足していると朝陽がオレを抱きしめる。
「なに、浮気してんの?」
「苺美味かったか?」
「まぁ、美味かったかも。え、なに」
理由を説明すると朝陽は円堂の頭を鷲掴みする。
円堂は朝陽の頬を摘んでいた。オレのせいでまた喧嘩を始めてしまった。
でもそれが面白くて笑っていると2人に怒られた。
夕食を食べたあと、円堂は家に帰っていった。オレは朝陽と一緒に葉山家に泊まることになった。
朝陽の部屋から見える庭には椿がある。一株だけ置かれているようだった。
オレは縁側から出て、美しく咲く椿の花に触れる。少し揺れると花が落ちないように葉っぱが支えているように見えた。
今のオレたちはこの椿の花と葉になれているだろうか。
時々、未来のことが心配になる。朝陽の仕事が始まればきっとまた忙しくて会えない日々が始まるだろう。
ただ、それでもちゃんと話し合えば大丈夫、と思ってはいるがふとそんな気持ちになる。
オレはそれほど朝陽に溺れている。
「離れたくないな」
同棲、とか提案していいのだろうか。朝陽に悪いだろうか。
ーーー朝陽さんの言葉で聞いたの?
紬の声が頭の中に木霊する。きっとオレの悪いところは一人で悩むことなのだろう。
「暖、湯冷めするぞ」
縁側からお風呂上がりの朝陽が声をかけてくれる。そんなに寒くないといってもまだ3月下旬。
部屋に戻ると朝陽に後ろから抱きしめられる。
「冷えてるじゃん」
「朝陽、あったかい」
「風呂上がりだかな」
ぎゅうぎゅうに抱きしめられる。苦しいと訴えれば少し腕の力が緩んだ。
朝陽はオレの左手を取り、手首に付けられているブレスレットを撫でる。
そしてオレの指を絡めるように手を繋ぐ。
「暖、あのさ」
「朝陽、あのさ」
オレたちの声が重なる。
朝陽はオレの首筋に顔を埋める。肌に触れる朝日の顔はとても熱かった。
「なに、暖。先に言っていいよ」
朝陽の指がオレの指を優しく撫でる。
「……あのさ、4月から仕事始まるだろ?朝陽、きっと顔がいいからモテモテになるじゃん?」
オレは肩に乗せられた朝陽の頭にそっと寄り掛かる。
「それでさ、あのさ」
「暖、ごめん待って」
その先の言葉は朝陽によって遮られてしまった。
「俺から言うから」
朝陽が立ち上がり、オレの前に座る。その顔は頬をほんのり赤くし緊張しているようだった。
「一緒に住んでみないか?」
朝陽がオレの手を取る。オレは何も答えられずにいた。
「今の所より少し大きめな部屋を探してる。ベッドはもちろん少し大きいのにして一緒に寝よう。それで……」
朝陽がオレを見て優しく微笑む。
「泣くなよ」
朝陽はオレの頬に流れた涙を指で拭いていく。
「晴さんに明日、伝えに行こう」
オレは大きく頷いた。父さんはきっと喜ぶと思うがきっと泣くだろう。涙脆いから。
母さんと紬は寂しそうな顔はするだろうが笑顔で送り出してくれるだろう。
「朝陽、オレ一人で悩むくせがあるんだ」
「うん」
「ちゃんと話すようにするから」
「うん。俺もちゃんと話すよ」
朝陽に抱きしめられ、温かい温もりに包まれたオレは支え合う椿の木を見つめた。
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