15 / 80
3 王都への旅立ち
第12話 ケイエ 領主の館にて 2
しおりを挟む
居室と出口を簡単に確認すると、三人は領主の妻の招きに応じて夕食の席に着いた。
用意された豪華な夕食を前に、彼らはしばらく無言で食事を口に運んだ。ニンニクを添えて焼いた地走り竜の大きな骨付き肉や、蜂蜜とクローブのソースがかかったフルードラクなど、竜肉だけでも数種類が並んだ。南部領《フロンテラ》では珍しい魚介もある。それから、糖蜜ケーキに焼き林檎にベリー・タルト。これまで里長の娘の結婚式でふるまわれた料理が一番のごちそうだったが、それよりもさらに豪華な料理の数々だった。だが、あのときの心が浮き立つような楽しい気分を思い出すと、いっそう気分が沈んだ。こんなにたくさんの料理が並ぶような、おめでたい出来事なんてひとつもない。あんな恐ろしい出来事があった日にはまったくそぐわないような気がした。
二人の青年は黙々と食べ終えたが、フィルのほうは料理に手を付けていないリアナのことが気にかかるらしく、食堂を出るまで気づかわしげな視線を送った。
それぞれ別室を用意すると言った夫人の好意を辞して、もっとも広い客間を三人で使うことになった。一人になるのは不安だったので、リアナは少しだけほっとした。ほとんど見ず知らずといっていい二人の青年だが、今の彼女にはほかに頼る人間もいないのだ。
部屋に戻りながら、リアナは食事の席に領主の姿がなかったことにようやく気がついた。オンブリアの南の国境にある領地フロンテラ。その領主の姿が館にないというのに、青年たちは気にした様子もなく宿泊するつもりでいるらしい。
そう尋ねると、フィルが疑問に答えてくれた。
「いまは、国内のほとんどの領主貴族は、タマリスに向かっていると思うよ。……まあ、一部を除いて」
フィルはちらりとデイミオンを見た。
「なぜ?」
「葬儀のために」
「葬儀のために?……」
フィルは苦笑した。「隠れ里までニュースが伝わるには、かなり時間がかかるだろうからね……」
その言い方は少しばかり言い訳めいていたので、もう少し詳しく聞きたかったが、さっさと歩いていくデイミオンについてほうに気を取られてしまった。
庭に面した廊下からは、警備に立っている兵士たちが見える。屋敷の中には竜族の兵士たちがたくさんいるようだ。その数といい、案内に立った領主が彼らをちらちらと心配そうに見ていることからも、領主の私兵ではないのかもしれない。何人かは、デイミオンと同じ紺色の長衣を着ている。
部屋に戻ると、レーデルルに餌を食べさせた。厨房に頼んで持ってきてもらったものだ。薄味に煮た魚を山羊乳に浸したものを、指ですくって少しずつ食べさせる。まだ幼竜なので、これは離乳食がわりだった。小さな口でたくさん欲しがって、ぴゅうっ、ぴゅうっ、とかわいい鳴き声をあげたりする。飼い竜の慣れた仕草に少しだけ心が落ち着くのを感じた。
それで、ようやく話を切り出すことができた。
「あの……もう大丈夫だから……、今日あったことを、ちゃんと説明して」
二人に向かって、小さいがはっきりした声でそう尋ねた。
用意された豪華な夕食を前に、彼らはしばらく無言で食事を口に運んだ。ニンニクを添えて焼いた地走り竜の大きな骨付き肉や、蜂蜜とクローブのソースがかかったフルードラクなど、竜肉だけでも数種類が並んだ。南部領《フロンテラ》では珍しい魚介もある。それから、糖蜜ケーキに焼き林檎にベリー・タルト。これまで里長の娘の結婚式でふるまわれた料理が一番のごちそうだったが、それよりもさらに豪華な料理の数々だった。だが、あのときの心が浮き立つような楽しい気分を思い出すと、いっそう気分が沈んだ。こんなにたくさんの料理が並ぶような、おめでたい出来事なんてひとつもない。あんな恐ろしい出来事があった日にはまったくそぐわないような気がした。
二人の青年は黙々と食べ終えたが、フィルのほうは料理に手を付けていないリアナのことが気にかかるらしく、食堂を出るまで気づかわしげな視線を送った。
それぞれ別室を用意すると言った夫人の好意を辞して、もっとも広い客間を三人で使うことになった。一人になるのは不安だったので、リアナは少しだけほっとした。ほとんど見ず知らずといっていい二人の青年だが、今の彼女にはほかに頼る人間もいないのだ。
部屋に戻りながら、リアナは食事の席に領主の姿がなかったことにようやく気がついた。オンブリアの南の国境にある領地フロンテラ。その領主の姿が館にないというのに、青年たちは気にした様子もなく宿泊するつもりでいるらしい。
そう尋ねると、フィルが疑問に答えてくれた。
「いまは、国内のほとんどの領主貴族は、タマリスに向かっていると思うよ。……まあ、一部を除いて」
フィルはちらりとデイミオンを見た。
「なぜ?」
「葬儀のために」
「葬儀のために?……」
フィルは苦笑した。「隠れ里までニュースが伝わるには、かなり時間がかかるだろうからね……」
その言い方は少しばかり言い訳めいていたので、もう少し詳しく聞きたかったが、さっさと歩いていくデイミオンについてほうに気を取られてしまった。
庭に面した廊下からは、警備に立っている兵士たちが見える。屋敷の中には竜族の兵士たちがたくさんいるようだ。その数といい、案内に立った領主が彼らをちらちらと心配そうに見ていることからも、領主の私兵ではないのかもしれない。何人かは、デイミオンと同じ紺色の長衣を着ている。
部屋に戻ると、レーデルルに餌を食べさせた。厨房に頼んで持ってきてもらったものだ。薄味に煮た魚を山羊乳に浸したものを、指ですくって少しずつ食べさせる。まだ幼竜なので、これは離乳食がわりだった。小さな口でたくさん欲しがって、ぴゅうっ、ぴゅうっ、とかわいい鳴き声をあげたりする。飼い竜の慣れた仕草に少しだけ心が落ち着くのを感じた。
それで、ようやく話を切り出すことができた。
「あの……もう大丈夫だから……、今日あったことを、ちゃんと説明して」
二人に向かって、小さいがはっきりした声でそう尋ねた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる