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5 王都タマリス
第28話 授業、開始 1
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「――はい、そこでいったん立ち止まっていただきます……祭祀のそれぞれが礼をしましたら、今度は祭壇のほうへとお進みください」
五公会から数日後のこと。朝の光が、天井付近の丸いガラス窓からまっすぐに差し込み、広間をまぶしいほどに満たしていた。教師役サラートの穏やかな声に合わせて、リアナはあちらへ動き、こちらで儀礼用の品物を受け取り、また別の方向へ動く、といった練習を繰り返している。近々行われる予定だという戴冠式の予行練習だった。
たぶん退屈だろうな、と予想はしていたが、想像を超えてくるこの退屈さ。
儀礼の練習ばかりさせられているせいで、つい成人の儀のことを思い出してしまい、リアナの気持ちは沈んだ。本当なら、里で成人の儀を済ませるはずだった。憧れの〈乗り手〉だったことは驚くほどあっけなく判明してしまい、竜乗りとしての訓練を受けられていたかどうかも、今となっては知ることができない。
自分は竜乗りとライダーの違いすらほとんど分かっていなかったのだ。素質がわかって王都で竜騎手の訓練をするだけだったのならどんなに心が弾むだろう。だが今では、そのライダーになりたいのかどうか、以前ほどは確信が持てなくなっている。
平凡な田舎娘だったはずの自分の未来は、晩秋の深い霧のように先が見えなくなってしまっているのだ。
(わたしが、王だなんて――)
五公会の決定により、リアナは正式に、王太子という立場を得ることになった。
目的のために仕方なかったし、自分なりに考えたうえでの行動だが、今後のことを思うと憂鬱になってしまう。
母親が王だ、ということさえ初耳だったのだ。そのあたりも含めて養父に問いただしたいが、当の本人は行方不明ときている。正直、為政者としての教育など受けたこともない田舎娘の自分に、王など荷が重すぎる。
「大神官が王権を受諾するか尋ねますので、殿下はそれを受けて、宣誓をなさることになります」
リアナは上の空で聞いている。
(せめて、誰か相談できる人がいればいいのに……)
ふと気がつくと、デイミオンが扉の近くに立っていた。サラートが近づいてあれこれ話しかけている。
「ああ、閣下。ちょうどよかった。いろいろご相談したいことがあったのです」
「儀礼は覚えていただいているか?」
「はい。順調です。覚えがはやくていらっしゃいますよ」
「各国の公使とその配偶者の情報も覚えていただかねばならん。オンブリアの領主貴族は言うまでもない。先生にはご尽力いただくことになるが……」
「仕事のうちですから。なんとか、間に合うようにいたしますよ……閲兵式典はいつ行いますか?」
「通例どおり、戴冠式の翌日だ」
「パレードの順路はもう決まっているのですか?」
「検討中だ。警備にかかわるので、先生にも直前までお伝えできないことになるが、了承いただきたい」
「それは……むろん、承知しておりますよ」
青年と教師は打ち合わせのような会話をしている。デイミオンは旅の間とは違う、より貴族らしい衣装を身に着けていた。瞳と同じ濃紺の長衣《ルクヴァ》に、金の装飾が鮮やかな幅広の革ベルト。目にも鮮やかな貴公子ぶりだが、内面は王子様とはほど遠いといまでは知っている。傍若無人で人の話を聞かなくて、野心家で。
おまけに、冷血な策略家でもある。
五公会では、エンガス卿と組んでリアナを退位させにかかった男だ。対するリアナもエサル卿と組んだわけだから、まあ、おあいこと言えるかもしれないけれど。
それにしても、この城に入ってからというもの、デイミオンは前にも増してよそよそしくなった。無口で考えが読めないところもあったけれど、旅の間に少しは打ちとけたと思ったのに。そう思っているのはリアナだけで、やっぱり、政治的な駒の一つとしか思われていないんだろうか。
デイミオンは短い打ち合わせを終えると、リアナなどまったく目に入っていないように、長衣をひるがえして去っていった。
五公会から数日後のこと。朝の光が、天井付近の丸いガラス窓からまっすぐに差し込み、広間をまぶしいほどに満たしていた。教師役サラートの穏やかな声に合わせて、リアナはあちらへ動き、こちらで儀礼用の品物を受け取り、また別の方向へ動く、といった練習を繰り返している。近々行われる予定だという戴冠式の予行練習だった。
たぶん退屈だろうな、と予想はしていたが、想像を超えてくるこの退屈さ。
儀礼の練習ばかりさせられているせいで、つい成人の儀のことを思い出してしまい、リアナの気持ちは沈んだ。本当なら、里で成人の儀を済ませるはずだった。憧れの〈乗り手〉だったことは驚くほどあっけなく判明してしまい、竜乗りとしての訓練を受けられていたかどうかも、今となっては知ることができない。
自分は竜乗りとライダーの違いすらほとんど分かっていなかったのだ。素質がわかって王都で竜騎手の訓練をするだけだったのならどんなに心が弾むだろう。だが今では、そのライダーになりたいのかどうか、以前ほどは確信が持てなくなっている。
平凡な田舎娘だったはずの自分の未来は、晩秋の深い霧のように先が見えなくなってしまっているのだ。
(わたしが、王だなんて――)
五公会の決定により、リアナは正式に、王太子という立場を得ることになった。
目的のために仕方なかったし、自分なりに考えたうえでの行動だが、今後のことを思うと憂鬱になってしまう。
母親が王だ、ということさえ初耳だったのだ。そのあたりも含めて養父に問いただしたいが、当の本人は行方不明ときている。正直、為政者としての教育など受けたこともない田舎娘の自分に、王など荷が重すぎる。
「大神官が王権を受諾するか尋ねますので、殿下はそれを受けて、宣誓をなさることになります」
リアナは上の空で聞いている。
(せめて、誰か相談できる人がいればいいのに……)
ふと気がつくと、デイミオンが扉の近くに立っていた。サラートが近づいてあれこれ話しかけている。
「ああ、閣下。ちょうどよかった。いろいろご相談したいことがあったのです」
「儀礼は覚えていただいているか?」
「はい。順調です。覚えがはやくていらっしゃいますよ」
「各国の公使とその配偶者の情報も覚えていただかねばならん。オンブリアの領主貴族は言うまでもない。先生にはご尽力いただくことになるが……」
「仕事のうちですから。なんとか、間に合うようにいたしますよ……閲兵式典はいつ行いますか?」
「通例どおり、戴冠式の翌日だ」
「パレードの順路はもう決まっているのですか?」
「検討中だ。警備にかかわるので、先生にも直前までお伝えできないことになるが、了承いただきたい」
「それは……むろん、承知しておりますよ」
青年と教師は打ち合わせのような会話をしている。デイミオンは旅の間とは違う、より貴族らしい衣装を身に着けていた。瞳と同じ濃紺の長衣《ルクヴァ》に、金の装飾が鮮やかな幅広の革ベルト。目にも鮮やかな貴公子ぶりだが、内面は王子様とはほど遠いといまでは知っている。傍若無人で人の話を聞かなくて、野心家で。
おまけに、冷血な策略家でもある。
五公会では、エンガス卿と組んでリアナを退位させにかかった男だ。対するリアナもエサル卿と組んだわけだから、まあ、おあいこと言えるかもしれないけれど。
それにしても、この城に入ってからというもの、デイミオンは前にも増してよそよそしくなった。無口で考えが読めないところもあったけれど、旅の間に少しは打ちとけたと思ったのに。そう思っているのはリアナだけで、やっぱり、政治的な駒の一つとしか思われていないんだろうか。
デイミオンは短い打ち合わせを終えると、リアナなどまったく目に入っていないように、長衣をひるがえして去っていった。
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