リアナ1 王冠の竜騎手と心臓のない英雄

西フロイデ

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5 王都タマリス

第30話 エピファニー 2

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「そんなわけでいま、この神殿にいる黄の竜騎手ライダーのなかで、もっとも高位にあるのが、〈知恵の門番〉である僕」
 まぁ〈知恵の門番〉なんて書庫番をかっこよく言っただけだし、政治的権限のない閑職だけどね、と付けくわえる。
「だから、王位を継ぐ君になんとか接触したかった。青の神官たちと違って、僕たちとしては、しがらみのない君に王になってほしいんだ」
「もしかして、大神官の立場、狙ってる?」
 リアナは直球で聞いた。期待するのは勝手だが、現状では彼女が王位に就いたにしても大した実権は持てないうえ、デイミオンから虎視眈々と王権を狙われることになる。青の神官が気に食わないにしても、黄の文官たちを援助できるかと言われると簡単な話ではないはずだ。
「くれるならありがたくいただくけど、現状ではそこまで期待してないよ」
 ファニーは彼女の意図を正確に汲んだらしい答えを返した。
「ただ、僕たちが持つ知識や技術は、必ず君の治世の役に立つはずだ。それをおぼえておいてくれれば、今はそれでいいさ」
 それならば、協力関係を築くことができそうだ。
「教えてもらったこと、役立ったわ。あの神官たち、儀式で何をするのかほとんど教えてくれなかったから」
「陰湿だねぇ」
 〈継承の儀〉で何が起こるか、彼女は何をすべきなのか、ファニーが事前に教えてくれたおかげで、儀式を無事に終えることができたのだ。
「実は、僕も知識として知っているだけで、見たことはないんだよね。よかったら、どんなものだったか教えてよ」
 ファニーの求めにうなずき、リアナは簡単に振りかえった。

  ♢♦♢  

 しばらく待ったような気がしたが、実際にはほんの数分のことかもしれない。ふいに、衣擦れのようなぱさっという音がした。振り向く間もなく、ぱさっ、ぱさっ、と音は増え、あっという間に部屋を満たすほど重なり合った。
(羽ばたきだ)リアナは思った。(なんの――)
 それは一瞬にしてあらわれた。色の洪水が目の前に迫ってくる。思わず目を閉じ、あわててまた開く。
(――蝶!?)
 赤、黄、黒に青の縞、金と紫――
 現実にはありえないほど鮮やかな色をした蝶の群れが、風のようにリアナを襲った。

 害はないのか、と思った瞬間、ちくりと刺すような感覚があった。「何――」
 一匹の蝶が手の甲に止まり、口吻を刺していた。払いのけようとしたときにはすでに飛びたっている。
 石の台のうえにひらりと降り立つ。
 一度、二度、ゆっくりと羽ばたく。緑青の色だ。
 羽ばたきをやめると、乾いた土のように、ぼろりと崩れ落ちる。
 石の台の上に、光る虫のようなものがいくつも這っている。

 視界が暗転した。

「どう――」
 一瞬、自分の目が見えなくなったのかと思った。だが、目を閉じるよりも暗い。真昼から急に夜になったかのような、現実世界にはあり得ない暗さに包まれる。完全な闇ではないことがわかったのは、石の台のうえの虫が光り続けているからだった。細長くくねった記号のような、青白く光る虫。
 固く張った弓のような、ピン、という音がいくつか漏れ、それを合図にしたかのように、今度は部屋全体がうねった虫に包まれた。
(虫――いや、ちがう?)
 上から下へ、滝のように流れ落ちているのは虫ではない――文字だ。リアナの見たことのない、記号のような謎の文字。見たこともない、明るい緑色に燃える文字が、はげしい雨のように流れ落ちていく。
(もっとよく見て――)
 近寄ろうとしたところで、始まったときと同じく唐突に、は止んだ。
 そして、見知らぬ呪文のようなささめきが聞こえたかと思うと、門は突然開いた。

 
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