ゲーミング自殺、16連射アルマゲドン

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第12章 よくわかる古典魔法

第68話:よくわかる古典魔法・7

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「……魔眼も効きません。……魔眼とは魔力を目に充填したものに過ぎません……黄泉泥の前ではあらゆる魔法は例外なく無効です……」
「これは魔眼ではない。私の目が光っているのは魔力の奔流とかそういう感じのやつではなく、励起状態にある原子が遷移して光を放射しているからだ。お前はポンピングとかカスケードとか言われても訳がわからないだろうが、光の精霊とか幻覚術ではなく、光それ自体が殺傷力を持つことがある」

 瞳が一際強く輝いた。
 一瞬、広場全体が真っ赤に染め上がる。そしてすぐに一筋の光へと収束する。門から吐き出された黄泉泥が光に覆い被さるが、黒い液体を貫通して閃光が直進する。

「超高出力レーザーだ。運動を停止させられる質量を持たないし、生命力や精霊術を用いる魔法でもない」

 レーザーが光の速さでレンラーラの首を焼き切った。
 驚く間もなく胴体と生首が切り離される。生首が黄泉泥の沼に落ち、遅れて肢体が崩れ落ちる。

「あいやー、汝はいつからターミネーターになったのね?」
「右目が使い物にならなくなったから、適当な世界で摘出して戦闘用義眼に差し替えた。サイバーパンク世界ではよくあることだ」

 眼帯をかけ直し、間の抜けた顔をしている二人に向き直る。

「そんなことより次はお前たちの番だぜ。対策はいくつも考えてきた。早く始めよう」
「いやいや、もうゲームセットあるな」
「そーだよ。これはレンラーラちゃんの戦いだからね」
「は、お前たちは戦わないのか? 『お前を殺す』とか言ってたろうが」
「代弁だって言わなかったっけ。彼方の気持ちを代弁してあげただけで、私はそんなのどーでもいーよ」
「我も面白そうだから唆しただけあるな。汝に勝っても別に儲かるわけじゃなし」
「このカスどもが……」

 毒づいたところで何が変わるわけでもない。
 二人はゲームの参加者というよりは乱入者だし、何より貫存在トランセンドであるこの二人には世界が滅ぶとか滅ばないとかいう終末器の脅しではモチベーションが生じない。気分屋たちがもう飽きたと言っているのであれば延長戦は望めない。
 気付けば彼方の右腕から湧き出した蛆虫がすぐ隣に灰火の姿を形作っていた。趙もポータルを経由して屋上にまで移動してくる。さっきまで殺し合っていたというのに、この距離ですらこの二人の気配はなんともふにゃっとしている。敵意どころか戦意の類すら一切感じない。

「おおー、これは壮観あるなー」

 レンラーラが死亡したことで能力が解除され、異界と化していた広場が現世に戻っていく。呪いを祓って日が昇る。
 闇に包まれた広場が徐々に明るくなり、光を当てられた黄泉泥は空中へと霧散して急速に消滅していく。広場を覆って張られた氷壁が光を反射して瞬いた。気付けば冥府と現世を繋いでいた正門も禍々しさを失って元に戻っていた。

「なんかあれだね、スタッフロール流れそーだね」
「確かに名シーンを回想するムービーとかが流れていそうな感じはある。小窓で」
「我の登場シーンは外せないあるなー」
「検討しておく」

 彼方は二人の背中を屋上から突き落として自分も飛び降りた。趙も灰火もそれぞれの能力で地上に転移し、彼方もその隣に着地する。

「敵は全滅しているが終末器は押さなければならない。それが勝利条件である以上、それをしなければゲームに勝ったことにはならない」
「押したければ押すがよろし。我も灰火もそれを止める理由はないのね」
「そーだね。もしレンラーラちゃんが勝ったら寄生先を乗り換えよーかなとか思ってたけど、死んだらどーもこーもないよね」
「まあ、レンラーラ一人ではこの水準まで到達できなかっただろうことは認めるよ。そういう意味ではお前たち二人がゲームを盛り上げたことに対して借りがないわけではない」
「それってあとあと我のピンチに汝が助けに来るフラグあるか?」
「調子に乗るな。この私が延長戦を諦めただけで清算には十分すぎる」

 やいやいと三人姦しく正門に向かって歩いていく。ゲーム大会が終わって打ち上げ会場に向かうときのように。
 昨日の敵は今日の友というわけでもないが、ゲームが終われば過度に敵対する必要もない。彼方はこう見えて試合後の交友はそれなりに大事にする方だった。ゲームで戦っている時点で趣味を同じくする同好の士ではあるのだ。特に熟練した相手との感想戦では貴重な知見が得られることも多い。

「君らから見てレンラーラが勝利する可能性はあったか?」
「いやー、かなり厳しいあるな。能力自体はそうとう強いが、効果が特殊ゆえ使い方次第すぎるのね。もうちょい手頃な敵と戦って経験積んだ方がよかったな」
「私も大筋で同じ意見だ。あの手の能力が防御に徹したくなる気持ちはよく分かるが、もう少し積極的な即死能力として扱う手札もあった方がいい」
「そのくらいじゃどーにもならないんじゃないかな。だって彼方には奥の手があといくつあったっけ。まだ魔神機マジンギすら出してないし、塵霊王から奪った送返カエオクリだってあと三回くらいは使えるはずだよね。戦略絞って舐めプするような人間だったかな、彼方は」
「どれもリスクはある。使わないに越したことはない」
「リスクってしばらく筋肉痛になるとかそーいうレベルでしょ。ジュリエットと戦ったとき背負ってたのはそんなリスクじゃなかったはずだよ」
「仕方ないだろう。敵が弱いんだから」
「あ、本音出た」
「そうだよ、敵が弱いんだ。だいたいこうやって敵を育てるのだってこれが初めてじゃない。今回は相当上手く行った方だ。並外れた才能がある者たちを何人も見つけて、そのうち一人は世界を超える能力を発現し、遊び半分とはいえ貫存在が二人も手を貸した。でもそれくらいじゃあ全然足りない。私に掠りもしない!」
「流石にもーわかってるでしょ。彼方みたいなつよつよゲーマーと戦えるのは同じように世界を戦いながら渡り歩いた貫存在だけで、それには簡単にはエンカウントできないってことをさ」
「それでも世界を一つずつ遡って、地道に育てて地道に滅ぼしていくしかないんだ。真なる強敵とのエンカウントを願いながら」

 すっかり元に戻った正門をくぐり抜け、彼方はそこでようやく気付いた。
 世界がもう滅びていることに。
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