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第二章 剣の達人は異世界でもモンスターを切りまくるようです
第15話:剣の達人は異世界でもモンスターを切りまくるようです・8
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AAの隣で、翼を生やした長身の女性が腕を組んで見下ろしている。しかし彼女の背中に生えるのは柔らかい天使の翼ではなく、骨ばった筋と飛膜でできた龍の翼だ。褐色の身体は半分近く闇に溶けて見えた。
龍翼を備えた人間。『龍変化』を翼だけ発動した龍魅はちらりとだけAAを見てから地面に着地した。
「殴るんだってよお、素人にゃあできねって。何度も殴って殴られてなあ、ようやくコツがわかってくんだあ。こいつらの方がよほど詳しいだんろ」
「なんだよ。誰だよお前は」
チンピラは龍魅にぐいとメンチを切る。龍魅の方が背が高いとか、それ以前に龍の翼が生えていることは気にしていないらしい。
そういう胆力があるのは羨ましい。小百合に欠けているのはそこだ。他の全てを一旦抜きにして、物怖じすべきでないと思えば物怖じせずに立ち向かっていけるのは一つの技術なのだろう。
もちろん龍魅も全く動じない。黙って一歩前に出るとチンピラの肩に手を置いた。ぽんと優しく置いたように見えたが、チンピラの身体が僅かに身震いする。
「なあ兄ちゃんな。そん車はよお、ちっと前から悪さしてるガキだんろ? 女あ山に連れ去ってよお、犯して捨ててなあ。そんで今もちっちぇえ嬢ちゃんいじめてよお、楽しい思いできたかあ?」
「だったら何だってんだよ。お前に関係ねえだろ」
「あるんだあ。兄ちゃんみてえな、しょうもねえチンピラが調子乗ってなあ、目障りんなったら懲らしめんといかんのよ。そいや先月よお、三号叩いたのも兄ちゃんだんろ? 困っちまうんだよなあ、こっちも色々あんのによ。ちょうどええし、ちっとくらいはええよなあ」
「何がだよ!」
チンピラが拳を繰り出した。しかし素早いジャブは龍魅には届かない。
既に龍魅の足先がチンピラの膝を蹴り飛ばしていた。鋭い蹴りが膝の正面から直撃し、可動域を超えて足がくの字に曲がる。チンピラは悲鳴を上げて地面に崩れ落ちるが、龍魅が素早く喉を掴んで持ち上げた。
「練習に使ってもよお。見とけえ小百合、別に殴らんでもいいだんろ? どこでもええから急所掴んで、潰せば終わりだあ」
そのまま無造作に首筋を握り潰す。頸動脈が潰れ、大量の血液が噴き出した。チンピラの身体が痙攣して地面に崩れ落ちる。
いきなりの蛮行を前に実行役のチンピラが雄叫びを上げ、龍魅に向かって警棒を振り上げる。
その足首を小百合は後ろから掴んだ。小百合の白く細い指は男の太い足に食い込んで離さない。なるほど確かに、無理に慣れない打撃を試みるよりはただ掴む方がよほど確実だ。
「えいっ」
思い切り握った。無限の握力がアキレス腱を握り潰し、太い脛骨が小枝のようにへし折れる。
倒れた隙に龍魅を真似て首筋も絞め潰した。男の全身はビクンと震え、口から泡を吹いて動かなくなった。
「よし」
今度は上手く出来た。血に染まった手を達成感と共に握りしめる。
「それでええ。かっこう付けずによお、触って握り潰せよ」
龍魅が鋭く息を吸い、白い閃光を吐き出した。龍の口から発された高温の熱線が死体を燃やす。
「あの……ええと、助けてもらってありがとうございます」
煙草をくゆらすように口から煙を吐く龍魅を前にして、小百合は言葉に迷う。
龍魅のおかげで窮地を脱し、『身体強化』の使い方まで教えてもらった。何となく助けられてしまったが、龍魅とて転移候補の一人だ。小百合を殺す理由はあっても助ける理由はないはずだ。
地面に座ったままで頭を下げる小百合に、龍魅はぶっきらぼうに手を振った。
「どうせわしはあんたん勝てねんだ。襲う意味もねえし、だったら虐められてる知り合い見過ごすのも気持ちわりいだんろ」
「勝てないってどういうことですか? どう考えても『龍変化』の方が……」
「あんたん能力、『身体強化』っつったか。腕力じゃあ誰にも負けねえし、誰よりも頑丈だあ。今だって熱くもねえだんろ」
言われてみれば確かにそうだ。隣でチンピラの死体が焼け焦げて香ばしい匂いを発しているが、ほとんど熱さを感じない。
試しに火に触れてみても全く同じ。感覚は少し遠くから焚火に当たっている程度、もちろん肌が燃えることもない。物理的な強度のみならず、あらゆるダメージへの耐性を備えている。これがチート能力で賜った完璧に頑丈な身体。
「とにかく負けねんだあ。勝てるかあわからんが、とにかくいっちゃん負けねえし、わしには殺せん。そういう能力だんろ」
龍魅の指摘は全く正しい。
『身体強化』はスマートに勝つ能力というよりは、ただひたすら負けない泥臭い能力だ。戦うにしてもその前提で考えた方がいい。自分では全く思い付かなかった指針。
小百合は考える。龍魅は悪い人ではない。いや、別に悪い人でもいい。とにかく闘争を躊躇わない胆力と、荒事に対処する知識を持っている。世間知らずの小百合に必要なのはそういう知り合いだ。
きっと張るべきタイミングは今だ。意を決して龍魅の目を見た。
「あの、だったら私と組みませんか? 私に勝てないなら味方にした方がいいはずです。お願いします」
「構あねえよ。どうせ三人までなら儲けもんだあ。帰るとこもねえだんろ? わしの巣があらあ、裏道通らあ着いてきな」
龍魅は小百合の手を握って引き起こした。それだけで小百合の足は自然と直立する。
アウトローの手はごつごつとして傷だらけだが、チンピラの焚火よりよほど暖かい。そのままゆっくりと手を引かれ、三歩も進む頃には歩行のコツを掴んでいた。
小百合と龍魅はその場を立ち去った。チンピラの焼死体二つと、使い古した車椅子をその場に捨てて。
龍翼を備えた人間。『龍変化』を翼だけ発動した龍魅はちらりとだけAAを見てから地面に着地した。
「殴るんだってよお、素人にゃあできねって。何度も殴って殴られてなあ、ようやくコツがわかってくんだあ。こいつらの方がよほど詳しいだんろ」
「なんだよ。誰だよお前は」
チンピラは龍魅にぐいとメンチを切る。龍魅の方が背が高いとか、それ以前に龍の翼が生えていることは気にしていないらしい。
そういう胆力があるのは羨ましい。小百合に欠けているのはそこだ。他の全てを一旦抜きにして、物怖じすべきでないと思えば物怖じせずに立ち向かっていけるのは一つの技術なのだろう。
もちろん龍魅も全く動じない。黙って一歩前に出るとチンピラの肩に手を置いた。ぽんと優しく置いたように見えたが、チンピラの身体が僅かに身震いする。
「なあ兄ちゃんな。そん車はよお、ちっと前から悪さしてるガキだんろ? 女あ山に連れ去ってよお、犯して捨ててなあ。そんで今もちっちぇえ嬢ちゃんいじめてよお、楽しい思いできたかあ?」
「だったら何だってんだよ。お前に関係ねえだろ」
「あるんだあ。兄ちゃんみてえな、しょうもねえチンピラが調子乗ってなあ、目障りんなったら懲らしめんといかんのよ。そいや先月よお、三号叩いたのも兄ちゃんだんろ? 困っちまうんだよなあ、こっちも色々あんのによ。ちょうどええし、ちっとくらいはええよなあ」
「何がだよ!」
チンピラが拳を繰り出した。しかし素早いジャブは龍魅には届かない。
既に龍魅の足先がチンピラの膝を蹴り飛ばしていた。鋭い蹴りが膝の正面から直撃し、可動域を超えて足がくの字に曲がる。チンピラは悲鳴を上げて地面に崩れ落ちるが、龍魅が素早く喉を掴んで持ち上げた。
「練習に使ってもよお。見とけえ小百合、別に殴らんでもいいだんろ? どこでもええから急所掴んで、潰せば終わりだあ」
そのまま無造作に首筋を握り潰す。頸動脈が潰れ、大量の血液が噴き出した。チンピラの身体が痙攣して地面に崩れ落ちる。
いきなりの蛮行を前に実行役のチンピラが雄叫びを上げ、龍魅に向かって警棒を振り上げる。
その足首を小百合は後ろから掴んだ。小百合の白く細い指は男の太い足に食い込んで離さない。なるほど確かに、無理に慣れない打撃を試みるよりはただ掴む方がよほど確実だ。
「えいっ」
思い切り握った。無限の握力がアキレス腱を握り潰し、太い脛骨が小枝のようにへし折れる。
倒れた隙に龍魅を真似て首筋も絞め潰した。男の全身はビクンと震え、口から泡を吹いて動かなくなった。
「よし」
今度は上手く出来た。血に染まった手を達成感と共に握りしめる。
「それでええ。かっこう付けずによお、触って握り潰せよ」
龍魅が鋭く息を吸い、白い閃光を吐き出した。龍の口から発された高温の熱線が死体を燃やす。
「あの……ええと、助けてもらってありがとうございます」
煙草をくゆらすように口から煙を吐く龍魅を前にして、小百合は言葉に迷う。
龍魅のおかげで窮地を脱し、『身体強化』の使い方まで教えてもらった。何となく助けられてしまったが、龍魅とて転移候補の一人だ。小百合を殺す理由はあっても助ける理由はないはずだ。
地面に座ったままで頭を下げる小百合に、龍魅はぶっきらぼうに手を振った。
「どうせわしはあんたん勝てねんだ。襲う意味もねえし、だったら虐められてる知り合い見過ごすのも気持ちわりいだんろ」
「勝てないってどういうことですか? どう考えても『龍変化』の方が……」
「あんたん能力、『身体強化』っつったか。腕力じゃあ誰にも負けねえし、誰よりも頑丈だあ。今だって熱くもねえだんろ」
言われてみれば確かにそうだ。隣でチンピラの死体が焼け焦げて香ばしい匂いを発しているが、ほとんど熱さを感じない。
試しに火に触れてみても全く同じ。感覚は少し遠くから焚火に当たっている程度、もちろん肌が燃えることもない。物理的な強度のみならず、あらゆるダメージへの耐性を備えている。これがチート能力で賜った完璧に頑丈な身体。
「とにかく負けねんだあ。勝てるかあわからんが、とにかくいっちゃん負けねえし、わしには殺せん。そういう能力だんろ」
龍魅の指摘は全く正しい。
『身体強化』はスマートに勝つ能力というよりは、ただひたすら負けない泥臭い能力だ。戦うにしてもその前提で考えた方がいい。自分では全く思い付かなかった指針。
小百合は考える。龍魅は悪い人ではない。いや、別に悪い人でもいい。とにかく闘争を躊躇わない胆力と、荒事に対処する知識を持っている。世間知らずの小百合に必要なのはそういう知り合いだ。
きっと張るべきタイミングは今だ。意を決して龍魅の目を見た。
「あの、だったら私と組みませんか? 私に勝てないなら味方にした方がいいはずです。お願いします」
「構あねえよ。どうせ三人までなら儲けもんだあ。帰るとこもねえだんろ? わしの巣があらあ、裏道通らあ着いてきな」
龍魅は小百合の手を握って引き起こした。それだけで小百合の足は自然と直立する。
アウトローの手はごつごつとして傷だらけだが、チンピラの焚火よりよほど暖かい。そのままゆっくりと手を引かれ、三歩も進む頃には歩行のコツを掴んでいた。
小百合と龍魅はその場を立ち去った。チンピラの焼死体二つと、使い古した車椅子をその場に捨てて。
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