席には限りがございます!  ~トラックに轢かれてチート能力を手に入れた私たちは異世界転移を目指して殺し合います~

LW

文字の大きさ
18 / 68
第二章 剣の達人は異世界でもモンスターを切りまくるようです

第16話:剣の達人は異世界でもモンスターを切りまくるようです・9

しおりを挟む
【4/1 05:30】

「あなたたち女神やAAとは、僕たち人類にとってのいわゆる『神』なのかな? 普遍人類宗教における“GOD”?」
「いいえ。我々は異世界を管理する存在に過ぎません。全知全能全善の神とは異なります」
「しかし転移の折には僕たちを天国に送っただろう? それは最後の審判や輪廻転生を管轄していることを意味しないかな?」
「いいえ。便宜のため、我々が居住する異世界の一つを天国と呼称しているにすぎません」
「ならば地獄は? 僕たちを天界や異世界に送るように、罪人を地獄に送ったりは?」
「地獄と形容されるにふさわしい異世界はあるにせよ、地獄という概念そのものが実在するのかは我々の知るところではありません」
「ふむ、どうにも理解しがたいな。容易に理解できてしまうことが却って理解しがたい。あなたたちは神ではないにせよ、上位存在ではあることは間違いないんだ。明らかに人智を超える権能を持っている。しかしそれにしては地に足が着いているというか、肝心なところで世界認識が普通すぎる」

 涼は顎を抑えて窓の外を仰ぎ見た。日の出の光に目を眇める。
 タワーマンションの三十階から見る夜明けの御原市は神々しい。地上を歩いていても雑然とした地方都市だが、ほんの百メートル上から見るだけで全ての情報が意味を持って整列されているように感じる。上位存在から見た世界もこんな風に美しく見えるのだろうか。
 このタワーマンションは十五年ほど前に建設されたものだ。当時は御原市をベッドタウンとして再開発する計画があったが、業者の選定や立ち退きの補償で揉めているうちに景気の良い時代は流れてしまった。結局は首都圏へのアクセスも大して確立されないまま、駅前で浮くこのマンションだけを残して計画は凍結された。首都圏から人が流れてこない以上、わざわざこんなタワーマンションに住むのは都落ちしてきた成金崩れか金を余らせた地元の変人くらいのもので、涼と穏乃は後者に該当する。
 穏乃は大きなソファーで寝息を立てている。昨晩はグラウンドから逃走し、二人でシャワーを浴びてそのままソファーで寝てしまった。涼の方が先に目を覚ますのはいつものことで、AAと問答しているうちに太陽が昇る時間になっていた。
 AAは軽く足を組んだ状態でフローリングの上に浮遊している。最初は直立していたが、話が長引き始めてから姿勢を崩したあたり、疲労や飽きのような感覚はあるのかもしれない。

「人類の知性の限界とは、畢竟、自分がどこから来てどこに行くのかを知らないことだと思うんだ。あなたたちはそれが部分的には異世界であることを知っているだろう?」
「はい」
「しかしその認識は不自然なまでに限定的だ。厳しい条件をクリアしたら物理的な移動先があるというだけで、そもそも死という営みがどのようなものなのかという問いを慎重に避けているようにさえ見えるよ」
「それは我々の関与するところではありません。現実的な処遇と形而上の理解は別の事柄です」
「面白い切り口だね。君が言っているのはつまりこういうことだろうか? 例えば畜産家は家畜の生殺与奪を一手に握っており、首を刎ねることも、餌を与えて生き永らえさせることも自在だ。ある意味において、畜産家は家畜の死の一切を管理していると言えるだろう。しかしだからといって、畜産家は生命の誇りや魂の価値を把握しているわけでは全くない」
「仰る通りです」
「人間的だ。あまりにも」

 AAは手元のタブレットをタップしながら質問に答えていた。そのたびに傍らのガラステーブルに置かれた涼のスマートフォンから通知音が響く。
 それはdiscordアプリからの通知であり、AAが管理者であるAAサーバーが更新されたことを意味している。チャット画面には「異世界の一つを天国と呼称している」「いわゆる地獄の概念はAAの管轄外である」など、涼との会話内容が箇条書きの形で次々に書き込まれていく。
 これはAAが少し前から始めた「サービス」だ。異世界転移に係る不手際処理の責任者として、AAは転移候補の疑問を解消する義務がある。その際、重複する質問に答える手間と転移候補間での情報格差を防ぐため、回答記録にdiscordを利用することにしたのだ。
 AAとの会話によってAAから生じた情報は、転移候補全員が強制加入しているAAサーバーで共有される。なお、AAサーバーはAA以外書き込み不可である。

「ではもう少し卑近な質問をしてもいいかな。あなたがいつでもどこでも現れて質問に答えてくれるのは天使としての権能かい?」
「そうです。概念翼による高速移動、存在濃度の増減、聴域展開による質問探知などは天使にとっては皆様が歩いたり走ったりするのと何ら変わりありません」
「なるほど、つまり種族的な差異ということだね。翼を持ち、存在様式が異なり、そして人間の声を聞き届ける。そこは天使のイメージ通りだ。ただ、このdiscord共有能力だけはそんな感じはしないけども」

 話している間にもAAがタブレットをタップし、「概念翼による高速移動は天使としての体質」とAAサーバーに書き込まれる。
 共有情報はAAが指先でいちいちテキスト入力しているわけではない。タブレットを一度タップするだけで全ての入力と送信が完了している。これはタブレットを通じたサーバーへの強制介入操作なのだ。

「これはチート能力の一つです。天使の権能ではありません。今回の一件に際し、私が必要を判断して女神に申請しました。能力名は『操作マニュピレート』、機械や機構全般を任意に操作する能力です」
「チート能力は天使にも付与できるのか。僕たち人類にとっては人生全てを変える銀の弾丸だが、君たちにとっては便利なモジュール程度のものに過ぎない?」
「はい。皆様と違って換装も可能ですし、私自身が願いを持つ必要もありません。とはいえチート能力自体には必ず対応する願いが紐付くため、元々は『操作マニュピレート』を願った人間から回収したものを流用している形ではありますが」
「とても興味深い。僕たちは多大な苦労によって獲得するものが、上位存在においては官僚的な手続きに置き換わるわけだ」

 AAと話している間に、いよいよ昇ってきた朝日が部屋の奥にまで光を届かせ始めていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。 そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。 夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。 それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになるのでご安心ください。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

TS? 入れ替わり? いいえ、女の身体に男の俺と女の俺が存在しています! ~俺の身体は冷蔵庫に保管中~

ハムえっぐ
ファンタジー
ある朝、目を覚ますと、鏡に映った自分はなんとセーラー服の美少女! 「なんだこれ? 昨日の俺どこいった?」と混乱する俺。 それもそのはず、右手がマシンガンに変形してるし! 驚きつつ部屋を見回すと、勉強机もベッドも昨日と変わらず安堵。 でも、胸がプルプル、スカートがヒラヒラ、男の俺が女の俺になった現実に、完全にパニック。自己確認のついでに冷蔵庫を開けたら、自分の男の肉体が冷蔵中! 頭の中で「女の俺」がささやく。 「あの肉体にマシンガン撃てば、君が私から出られるかもよ?」って。 「え、俺が俺を撃つって? それで俺、再び男になれるの?」と考えつつも、「とにかく、この異常事態から脱出しなきゃ!」と決意。 さあ、俺がどうやってこのカオスから脱出するのか、そしてなぜ冷蔵庫に男の俺がいるのか、女子高生になった俺の戦いがここに始まる!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

処理中です...