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第三章 疲れ果てた社畜OLは異世界でゆったりスローライフを送るようです
第25話:疲れ果てた社畜OLは異世界でゆったりスローライフを送るようです・5
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龍魅はスマートフォンの画面をちらと見ると、そのまま小百合に渡してきた。
「涼さんですか?」
discordチャットには「君と協力したい。とりあえず通話できると嬉しい」とある。発しているのは見慣れたAAの天使の翼アイコンではない。涼という漢字一文字のアイコンだ。
龍魅と涼は知り合いだったのだろうかと一瞬考え、すぐに正しい答えに思い至る。
思えばAAがサーバーを立てた時点で全員のアカウントは勝手に共有されているのだ。その気になればAAサーバーではなく個人チャットで連絡を取ることもできる。考えてみれば単純な話だが、今までさっぱり気付かなかった。
「こいつどう思う」
「話くらいは聞いてもいいと思います。共闘をする流れ自体は自然ですし」
「あんたん代わりに連絡してくれんか。わしはそういうんは得意じゃあねえ」
「了解しました」
龍魅は再び寝転び、小百合は軽く身震いする。
龍魅が自身に来た連絡への返信を小百合に任せる意味は大きい。単に交渉役を任されただけではなく、龍魅は小百合と組んでいることが他の転移候補に露見してもいい、ここは共に戦うことを外向きにも開示して問題ないと思っているのだ。
小百合は自分のスマートフォンから涼と龍魅を入れたグループを作って通話をかける。数秒ですぐに涼が入ってきた。
「やあ、応じてくれてどうもありがとう。君から通話がかかってくるということは、小百合くんは龍魅くんと組んでいるという認識でいいかな?」
「はい。いま隣に龍魅さんがいます」
「了解した。正直に言ってその組み合わせはかなり意外だが、何にせよ一人でいるよりは仲間を組むのが自然な流れだよね」
「ええまあ、私としても意外だと思ってはいます。そちらは穏乃さんと組まれているのですよね?」
「そうだね。龍魅くんは一匹狼と想定していたから三人目として勧誘するつもりだったけど、まあ二人でも問題ないさ。改めて君たちと協力したい」
「私たちが組むとなると、二足す二でもう四人です。合わせて三枠を超えてしまう以上、協力は難しいと思いますが」
「ところがそうでもないんだ。協力というのは何も皆で揃って転移を目指すだけじゃない。僕たち四人のうちで誰が転移するかはとりあえず棚上げしておいて、他の転移候補を蹴落とすためだけに手を組むことはできるはずだ。どんな形であれ、僕たち四人以外が減る分にはお互いにウィンウィンだろう? 合理的に行こうよ」
「なるほど、確かにそうですね。部分的な協力であれば可能かもしれません」
「話が早くて助かるよ。それで今回の協力内容としては、こちらは情報を出すから君たちには戦力を出してほしいということになるかな」
「具体的にはどういうことでしょうか?」
「率直に言えば、君たちに『建築』の灯くんを襲撃してほしい。実はもう灯くんの居場所を掴んでいて、偵察を兼ねて訪問を済ませているんだ。その結果、僕たちのチート能力では倒せそうにないことがわかった。そこで君たちのような戦闘向きのチート能力者に代わりに倒してほしいんだ。袋からの隠し撮りだけど、一応動画も送っておこう」
チャット上で地図と動画が送られてきた。動画は縁が少し黒くぼやけていて画質があまり良くない。
鬱蒼と茂った森に囲まれ、表面が鉄板のプレートで覆われた見るからに堅牢な要塞だ。画面内に動きはなく、周囲で葉が揺れている以外は静止画と大差ない。しかし再生から三十秒も経たないうちに画面がブラックアウトしてしまった。
「カメラは僕たちが立ち去ってすぐに破壊されたようだ。たぶん飛び道具か何かだろう。そういう武器を備えた要塞を『建築』で作って立て籠っているんだ」
「これは確かに要塞ですね。山奥にあるのも頷けます」
「元々そこにあった廃工場を転用しているようだ。チート能力を使っているだけあって防御は相当に堅い。灯くん自身もかなり警戒していて、とても気軽に中に入れるという感じではなかったよ」
「灯さんは一人なんですか?」
「一人で籠城しているとは言っていたが、本当かどうかはわからない。これは勘だが、あの実利に聡い灯くんが未だに単独のまま態度を保留しているのは少し不自然なようにも感じる。もう仲間を決めているか、仲間選びには極度に慎重なのか、自分のチート能力に相当な自信があるか。いずれにしても何か理由はあると思った方がいいだろうね」
「こうして裏で通話をすれば見えない場所で組むことはできますしね。もし既に仲間がいるのだとしたら誰だと思いますか?」
「パーティー会場では霰くんや霙くんと一緒だったようだが、何とも言えないな。きっちり籠城するほど戦略的な灯くんがわざわざ子供を仲間にするともあまり思えないしね。誰にしても君たちならどうにかなるだろう。幸運を祈る」
「ええ。お互いに」
「涼さんですか?」
discordチャットには「君と協力したい。とりあえず通話できると嬉しい」とある。発しているのは見慣れたAAの天使の翼アイコンではない。涼という漢字一文字のアイコンだ。
龍魅と涼は知り合いだったのだろうかと一瞬考え、すぐに正しい答えに思い至る。
思えばAAがサーバーを立てた時点で全員のアカウントは勝手に共有されているのだ。その気になればAAサーバーではなく個人チャットで連絡を取ることもできる。考えてみれば単純な話だが、今までさっぱり気付かなかった。
「こいつどう思う」
「話くらいは聞いてもいいと思います。共闘をする流れ自体は自然ですし」
「あんたん代わりに連絡してくれんか。わしはそういうんは得意じゃあねえ」
「了解しました」
龍魅は再び寝転び、小百合は軽く身震いする。
龍魅が自身に来た連絡への返信を小百合に任せる意味は大きい。単に交渉役を任されただけではなく、龍魅は小百合と組んでいることが他の転移候補に露見してもいい、ここは共に戦うことを外向きにも開示して問題ないと思っているのだ。
小百合は自分のスマートフォンから涼と龍魅を入れたグループを作って通話をかける。数秒ですぐに涼が入ってきた。
「やあ、応じてくれてどうもありがとう。君から通話がかかってくるということは、小百合くんは龍魅くんと組んでいるという認識でいいかな?」
「はい。いま隣に龍魅さんがいます」
「了解した。正直に言ってその組み合わせはかなり意外だが、何にせよ一人でいるよりは仲間を組むのが自然な流れだよね」
「ええまあ、私としても意外だと思ってはいます。そちらは穏乃さんと組まれているのですよね?」
「そうだね。龍魅くんは一匹狼と想定していたから三人目として勧誘するつもりだったけど、まあ二人でも問題ないさ。改めて君たちと協力したい」
「私たちが組むとなると、二足す二でもう四人です。合わせて三枠を超えてしまう以上、協力は難しいと思いますが」
「ところがそうでもないんだ。協力というのは何も皆で揃って転移を目指すだけじゃない。僕たち四人のうちで誰が転移するかはとりあえず棚上げしておいて、他の転移候補を蹴落とすためだけに手を組むことはできるはずだ。どんな形であれ、僕たち四人以外が減る分にはお互いにウィンウィンだろう? 合理的に行こうよ」
「なるほど、確かにそうですね。部分的な協力であれば可能かもしれません」
「話が早くて助かるよ。それで今回の協力内容としては、こちらは情報を出すから君たちには戦力を出してほしいということになるかな」
「具体的にはどういうことでしょうか?」
「率直に言えば、君たちに『建築』の灯くんを襲撃してほしい。実はもう灯くんの居場所を掴んでいて、偵察を兼ねて訪問を済ませているんだ。その結果、僕たちのチート能力では倒せそうにないことがわかった。そこで君たちのような戦闘向きのチート能力者に代わりに倒してほしいんだ。袋からの隠し撮りだけど、一応動画も送っておこう」
チャット上で地図と動画が送られてきた。動画は縁が少し黒くぼやけていて画質があまり良くない。
鬱蒼と茂った森に囲まれ、表面が鉄板のプレートで覆われた見るからに堅牢な要塞だ。画面内に動きはなく、周囲で葉が揺れている以外は静止画と大差ない。しかし再生から三十秒も経たないうちに画面がブラックアウトしてしまった。
「カメラは僕たちが立ち去ってすぐに破壊されたようだ。たぶん飛び道具か何かだろう。そういう武器を備えた要塞を『建築』で作って立て籠っているんだ」
「これは確かに要塞ですね。山奥にあるのも頷けます」
「元々そこにあった廃工場を転用しているようだ。チート能力を使っているだけあって防御は相当に堅い。灯くん自身もかなり警戒していて、とても気軽に中に入れるという感じではなかったよ」
「灯さんは一人なんですか?」
「一人で籠城しているとは言っていたが、本当かどうかはわからない。これは勘だが、あの実利に聡い灯くんが未だに単独のまま態度を保留しているのは少し不自然なようにも感じる。もう仲間を決めているか、仲間選びには極度に慎重なのか、自分のチート能力に相当な自信があるか。いずれにしても何か理由はあると思った方がいいだろうね」
「こうして裏で通話をすれば見えない場所で組むことはできますしね。もし既に仲間がいるのだとしたら誰だと思いますか?」
「パーティー会場では霰くんや霙くんと一緒だったようだが、何とも言えないな。きっちり籠城するほど戦略的な灯くんがわざわざ子供を仲間にするともあまり思えないしね。誰にしても君たちならどうにかなるだろう。幸運を祈る」
「ええ。お互いに」
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