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第六章 車椅子少女は異世界でドラゴンに乗って飛び回るようです

第49話:車椅子少女は異世界でドラゴンに乗って飛び回るようです・4

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 通話が切れ、スマートフォンを穏乃に返した。

「ほら、話してみればどうってことないでしょ。妹思いじゃない姉なんてこの世にいないのよ」
「そうだね。ありがとう」
「姫裏を殺す。それがあたしたちの優先順位。で、この中で一番頭が回るのはあんたでしょ? 手札は揃えたんだから、使い方はあんたが考えなさい」
「そうだな。私はせいぜい参謀役をやるさ」

 理李は無限に余っているシェイクを啜って糖分を補給しつつ、三人にヒアリングしながら考える。
 まずは敵である姫裏について。『契約コントラクト』そのものは戦闘向きのチート能力ではないらしい。姫裏が持つ戦力は灯から継いだ『建築ビルド』、異世界帰りの体術、小型のクロスボウあたり。いずれも本人のチート能力ではないだけに却ってスキルが多岐に渡っていて隙がない。
 味方にはまず『爆発エクスプロージョン』の穏乃。直撃さえすれば確実に殺せる代物だ。姫裏も最至近距離に接近してまで『無敵インビンシブル』に便乗する対処法を取ったということは、もっと安全な他の回避手段は特に持っていないと考えていいだろう。とはいえ、既に警戒されている上に射程が短く一度きりの『爆発エクスプロージョン』をどう当てるかが最大の課題だ。
 そして『身体強化ストレングス』の小百合。物理戦闘では無敵だが、小百合自身の運動能力が高くないことがネックとなる。龍魅相手に全く通用しなかったのであれば、姫裏にダメージを入れることも期待できないだろう。ダメージ源というよりは補助役と考える方が現実的だ。
 最後に『蘇生リザレクション』の花梨。姫裏を蘇生する能力は、はっきり言って全く使い道がない。蘇生自体は強力なのに「姫裏を」という無駄な修飾が全てを台無しにしている。今は姫裏が敵なのだ。暴発しないように後ろで待っていてもらうくらいしか思いつかない。
 もっとも、戦闘での役立たなさは理李も花梨と大差ない。攻撃能力が無い割には自身にしか作用しないタイプのチート能力で、他人の補助にも使えない。

「小百合にメインで戦ってもらって、どこかで何とかして『爆発エクスプロージョン』を当てるのが一番安直ではあるが……」
「正直、あまり自信がないですね……異世界帰りの方を私が追い込めるとも思えませんし、『爆発エクスプロージョン』は常に警戒しているはずですから」
「だよなあ」

 何か追加の一手が必要だ。姫裏の裏をかいて致命打に繋げる一手が。
 とはいえ、相手は殺傷能力を備えたクロスボウを自作できる職業傭兵、こちらは一介の女子高生と女子大生たちだ。今からホームセンターで買ったりネットで調べたりできる程度の武器でどうにかなるとも思えず、頼れるのはやはりチート能力しかない。
 理李は頬を抑えた。さっき穏乃の話を聞いていて少し引っかかったことがある。

「涼は『無敵インビンシブル』が両手で同時に発動できることを知らなかったんだよな? 姫裏に手を掴まれたとき初めて気付いて驚いていたくらいだから」
「知らなかったというか、考えてなかったし意識してなかったって感じね。涼はあたしを守ることしか頭になくて、二人以上を守るつもりなんて絶対なかったから」
「なるほど。本人が前もって意識していないチート能力が発動するのであれば、まだ自分でも知らない能力を使える可能性もあるか?」
「それって修行ってこと? 漫画とかでよくある」
「努力が必要なチート能力はもはやチートではないような気もするが……まあ、聞けばわかるか。AA、質問がある」
「はい」

 相変わらず一瞬で現れたAAはブランコの上に立ち、腕を組んで四人を見下ろす。

「チート能力は訓練次第で成長したりすることがあるのか?」
「ありません。チート能力は女神が与えた時点で固定されており、以後一切変更できません」

 早くも完全否定を受ける。これで修行パートをやる線は無くなった。
 だが、諦めるにはまだ早い。涼が自分自身で意識していない能力を発動させたということは、チート能力の内容は必ずしも本人の認識と完全に対応しているわけではないということだ。つまりチート能力を成長させることは出来ないにせよ、まだ本人ですら気付いていない効力が眠っている可能性はある。

「ならチート能力の厳密な内容を定める要件が知りたい。チート能力とはいつ誰がどうやって決める?」
「皆様からの要求に基づいて女神が定めます。よって、女神に伝えた内容がチート能力の全てとなります」
「女神に伝えた内容とは、女神に話すとき心に思い描いていた内容か? それとも女神に対して発話した文字列の内容か?」
「後者です。どなたもチート能力を授けられる際、求める内容をはっきりと自分の言葉にするように要求されたはずです。その際に申告された通りのチート能力を与えます」
「やはりな。たぶん涼は『自分自身と手を繋いだ相手を無敵にする能力』みたいなことを女神に言ったんだよな?」
「そうね。涼としてはあたしと片手を繋いで発動するイメージだったとしても、言ったことを文字通りに読めば両手同時に発動できるのが自然ってことになるわね」
「目的や意図は度外視して、本当に伝えた通りの能力が与えられるわけだ。じゃあ、三人とも女神に要求したチート能力の内容を正確に教えてほしい。一語一句違えずに、伝えたままの文章で」
「『十メートル先まで巻き込む大爆発を起こす能力』。あたしは数値も伝えてる、無関係の人まで巻き込んだら嫌だから」
「『お姉ちゃんを蘇生する能力』って」
「『何よりも頑丈で強靭な身体を得る能力』です」
「うーん、皆そこまで厳密な言葉で要求しているわけではないよな。曖昧な部分は一番自然な形で解釈されるんだろう。これじゃあ読んだまま以上の能力は特に……ん?」

 そこで理李の思考が立ち止まった。
 申告内容が現在の認識からかなりズレているものがあることに気付いたからだ。本当に字句通りに取るのであれば、一番妥当な解釈はいま本人が思っている内容とは異なる。なまじ強烈な先入観があるせいで誤った理解の下で発動されている、そういうチート能力が一つだけある。
 理李と同時に本人も気付いたらしい。見開いた目を見合わせ、理李は答えを口にした。

「まさかその能力って本当はこういうことなんじゃないか? つまり……」

 これは言葉の綾で偶然の産物だ。本人でさえそのつもりで申告したわけではない。
 だが否定する理由もない。この推測が正しければ、これこそまさしく姫裏を制する隠し玉だ。
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