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第七章 根暗陰キャは異世界で友達を増やしたいようです

第56話:根暗陰キャは異世界で友達を増やしたいようです・3

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【4/3 19:58】

「AA、質問がある」
「はい」
「もう期限の時刻も近い。『四月四日零時にトラックに轢かれて死ぬ』という異世界転移の条件について細かい点を正確に確認しておきたい」
「承りました」
「まず時刻についてだ。トラックに轢かれるのが零時零分零秒ジャストでなければならないということは無いだろう。正確にはどのくらいマージンがある?」
「前後に五分ずつ、合計十分です。よって厳密に言えば、四月三日二十三時五十五分から四月四日零時五分までとなります」
「つまり『四月三日二十三時五十五分以降にトラックに轢かれて死亡したかどうか』を四月四日零時五分にチェックし、故に少なくともその時点では死亡している必要があるという認識で正しいか?」
「その通りです」
「付与されているチート能力が消滅するのも四月四日零時五分か?」
「はい。異世界転移しないことが確定した時点でチート能力は失効します。ただし以前にも回答した通り、チート能力の内容や対象に応じて影響が残存することは有り得ます」
「そのタイミングで女神の祝福によって人類の上限まで強化されている基礎ステータスも元に戻る?」
「そうです」
「では『トラック』の厳密な定義は? 車種や型番で判定しているのか?」
「現地での常識的な判定によります。仮に日本人全員にアンケートを取ってみたとして、九割方が『これは間違いなくトラックである』と同意するようなオブジェクトがトラックです。概ね後部に積載スペースを持つ輸送用の自動車両を指し、原型を留めた範囲での破損や改造は構いませんが、一般的な通念から著しく逸脱する外見のものは含まれません。ミニチュアや張りぼてのような見かけだけのものも不可です」
「『轢かれて死ぬ』とは具体的にどういう状況を指す?」
「トラックとの衝突が直接の死因になることを意味します」
「衝突の仕方は区別するか? 例えばフロントパネルに跳ね飛ばされるのは可だが、車輪に轢かれるのは不可というような区別はあるか?」
「区別しません。物理的な接触による死亡であれば詳細は問いませんが、トラックとの接触が死因である必要はあります。例えばトラックの車体に触りながら切腹しても当然『轢かれて死んだ』とは見做されません」
「条件については承知した。あと質問ではないが頼みたいことがある」
「可能な範囲でお伺いします」
「全員から見える場所に確実に正確な時計を出しておいてくれないか? 時刻を見間違えて轢かれ損なんてのもバカバカしいからな」
「承知しました。文明の時を正しく刻むことも天使の役割です」

 AAが夜空に高く浮かび上がり、大きく翼を広げた。
 黒い空に巨大な光る時計盤が浮かぶ。ワイヤーフレームのような金線で空に描かれており、秒針が一つ動くごとに僅かに金粉が散る。この金時計と手元のスマートフォンはいずれも夜の八時三分を示していた。

「天使の権能の一つ、万天時計バンテントケイです。転移候補の皆様はいつどこにいても見ることができ、一切のズレがないことを保証します」
「助かる。最後に一つ質問したい」
「どうぞ」
「異世界転移した者が現世に留まった者と接触する手段は存在するか?」
「ありません。行き来できないことはもちろん、物資や情報を送ることもできません。そうでなければわざわざ世界を分けて管理する意味がありませんから」
「そうだろうな。だからこそ、この場にも意味があるんだ。花梨、あとは頼む」
「はい!」

 木製のベンチに座っていた花梨が立ち上がった。理李と入れ替わりで階段の上に立ち、オレンジジュースが並々と入った紙コップを持つ手を大きく突き上げた。

「皆さん、グラスの準備はよろしいですかー」
「まあ」

 理李が面倒臭そうにコーラが入った紙コップを揺らした。

「大丈夫です」

 小百合が几帳面に両手で麦茶が入った紙コップを持ち上げた。

「うん」

 霰が淡々とグレープジュースが入った紙コップを頭上に翳した。

「応」

 切華が鋭い動作で炭酸水が入った紙コップを突き上げた。

「はい」

 撫子が楽しそうに桃の天然水が入った紙コップを回した。

「えーっと、何喋るか考えてなかったけど、まあその、ちょっと殺伐としてきたかもしれないけど、今くらいは無礼講? みたいな感じで。ていうかすぐ殺し合うとは思うんだけど、それは別にいいから、変なわだかまりとか誤解だけは残したくなくて、お互いに」
「長い」
「この出会いに乾杯!」

 叫ぶ花梨の音頭に合わせて皆が紙コップを軽くぶつけた。
 ここは市内の河川敷だ。太陽は既に沈み、ジョギングコースに点在する街灯が心細げに道を照らしている。堤防上には県外に通じる太い国道が走り、運送用の大型トラックがハイペースで行き交っていた。
 暗い中でキャンプファイヤーの炎がよく目立つ。ここだけが周囲の闇から切り離され、転移候補の六人しかこの世にいないような錯覚に囚われる。それこそ一つの異世界であるかのように。
 ステンレス製の大型バーベキュー台に持ち寄った食材を片っ端から乗せていく。花梨たちもスーパーでかなり大量に買い込んだつもりだったが、切華たちが持ち込んだものは桁違いの量だった。キャスター付きのクーラーボックスをいくつも引いて現れたときは心底驚いた。
 撫子と並んで食材を焼きながら花梨が口火を切った。

「誘ってくれてありがとう。私も皆で話す機会が欲しいって思ってたんだ」
「こちらこそ。どうせいつかどこかに集まる必要はあったものね。『契約コントラクト』を使えばお互いに罠を仕掛けたりしてない保証にもなるし」
「いつから契約用のファイルを持ってたの?」
「昨日の夜、姫裏ちゃんにちょっと恩を売る機会があってその見返りにね。使うタイミングが来るかどうかは半々ってところだったけれど」

 撫子から突然送られてきた「一時休戦契約.pdf」は姫裏が櫻家での一食の見返りとして作成したものだ。
 姫裏の『契約コントラクト』は絶対遵守の契約を作成する能力だが、必ずしも姫裏自身を契約者に含む必要はない。姫裏自身が作成した書面を通せば他人同士を仲介することもできる。今は「一時休戦契約.pdf」に全員が合意したことにより、姫裏の死後も残存する『契約コントラクト』が効力を発動している。
 「一時休戦契約.pdf」は記載した日時と場所においてあらゆる攻撃を禁じる契約書面であり、この河川敷では二十三時三十分まで何人も攻撃ができない。これによってバーベキューで歓談する一時休戦の場が設けられたというわけだ。

「でもわざわざお姉ちゃんが作ったファイルを使わなくても、『模倣コピー』で『契約コントラクト』を発動すれば良かったんじゃない?」
「……私は姫裏ちゃんほど誠実な性格じゃないからね。私がやっても信用しにくいでしょ」
「まあ確かに」
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