王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako

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夜会の陰で

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夜会も終盤に差し掛かり、クラリスはお手洗いへ向かうため会場を抜け出した。
すると、さっきまでフリードリヒに群がっていた令嬢たちが、何やら揉めている場面に遭遇してしまった。

…うわっ。

控室へ行くには、どうしてもこの前を通らねばならない。クラリスは覚悟を決めて足を進めた。

「先程のは何? どういうおつもり?」

一人の令嬢を、計五人が取り囲んでいた。

「貴女、高々伯爵令嬢の分際で!」

取り囲まれていたのは、フリードリヒに群がる集団の少し後方にいた令嬢だ。

「貴女、それこそ爵位の高い令息を見れば誰でもよろしいのね?」
「貞操観念が知れるわね」
「殿下は昔からこの、マリネット様をお慕いしていらっしゃるのよ!」

マリネット――令嬢たちの少し後ろに控え、口元に大きな派手な扇を当てて静観している、ランズ王国の公爵令嬢だ。

…あらら、殿下がお慕いしている令嬢ね? なるほど、殿下はあぁいうタイプがお好みなのね。

クラリスはまるで他人事のように傍観していると、一人の令嬢が小声でクラリスに目を留めた。

「鉄パンツよ」

クラリスはその小声に肩を落とし、心の中で苦笑した。

……鉄パンツ。恐るべし知名度(笑)

「どうかされましたか?」

微笑むクラリスに、マリネットが口を開いた。

「これは妃殿下。お見苦しい所をお見せし、申し訳ありません。この者が立場も弁えず殿下に取り入ろうとしておりましたので、少し注意しておりましたの」

…それを言うなら貴女方もね。

その間も令嬢たちはごちゃごちゃと言い合っている。クラリスは心中で呆れつつ、口を開く。

「お止めになっては? こんなところで見苦しいですわよ?」

見苦しいという言葉に反応したのか、一人の令嬢がクラリスを睨む。

「殿下に取り入ろうとする者をお許しになるのですか?」

…はあ?

「そのような事を口にする事自体、はしたないですわよ?」

今度は“はしたない”に反応した令嬢が顔を真っ赤にする。

「お飾りの妃殿下には分かりませんわ!」

…お飾りって、本人を前に言う?

「まぁまぁ、お止めなさい。妃殿下も自ら望んで妃殿下になられたわけではないのです。この者たちは私の為に言っているのです。ここは目を瞑って差し上げては?」

マリネットの言葉に、令嬢たちはしぶしぶ背筋を伸ばし、彼女の後ろに控えた。

…えっと、公爵令嬢が取り巻きにとって主なのは分かったけれど、私はランズ王国王太子妃よね。おかしくないか?

「ごめんなさい、貴女お名前は?」

詰められていた伯爵令嬢に声をかけると、かすかな声で答えた。

「リザベル・オーファンと申します」

見る限り、まだ幼く、とてもこの令嬢たちに敵う様子はない。

「オーファン伯爵家の分際で!」

声を張る令嬢に、クラリスは静かに言い返す。

「私が問うたのです。彼女はただ殿下の近くに居ただけでしょう? それを寄って集って詰め寄るなんて」

「まぁ、なんて事。まるで私たちがイジメたかのように聞こえますわ!」

…違うでしょ?

「相違ありませんでしょう?」

「! 貴女は何も知らないからそんな事が言えるのですわ。この者は誰彼構わず色目を使う女だと有名なのです! 今度は図々しくも殿下を狙って餌食にしようとしているのを、黙って見ていろと?」

…狙ってって…。この国の令嬢はまるでハンターなのね。

「例えそうだとしても、この場でそんな事を言うなんて、場を弁えなさい。今宵は我が国のシーズン初めです。デビュタントを迎える令嬢たちも居るのですよ。おめでたい会を台無しにするのですか?」

「殿下の危機なのですよ!」

…大袈裟ね。

「妃殿下、貴女は我が国にいらして間もないのでご存知ないのは仕方ありません。ただ、殿下がこの汚れた令嬢に落とされるなど、この国の危機ですのよ」

マリネットは悲壮感を込めて訴える。

「危機だなんて。貴女方は殿下を何だと思っていらっしゃるのかしら? 盛りのついた猫じゃあるまいし」

「まあ、妃殿下は殿下を愛していらっしゃらないからそう思うのです」

「失礼ながら、貴女。公爵令嬢でしたわよね? 何を寝ぼけた事を仰っているのですか? この国の貴族に政略結婚は無いのですか? それとも、ここにいる方々は殿下の妻を、貴女とでも勘違いしているのですか?」

クラリスが首を傾げると、マリネットは扇を力任せに握り潰し、真っ赤な顔でクラリスに駆け寄る。そして頬を烈しく打った。

クラリスは大きく後ろに飛び、運悪くヒールが折れ、横の螺旋階段から転げ落ちた。

その光景を見た伯爵令嬢は、思わず悲鳴を挙げる。

その悲鳴に動揺したのはマリネットを含む令嬢たち。令嬢たちは伯爵令嬢を睨みつけ、低く告げた。

「いい? 余計な事を話したら、ただでは済まないわよ?」

そう言うと、伯爵令嬢を連れ、令嬢たちは慌ててその場を後にした。
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