王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako

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命令と誤解

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重い瞼を開けると、見慣れた自室の光景が目に入った。クラリスはゆっくりと起き上がり、視線を向けると今度はフィリップスではなく、ピンチヒッターのテオドールがじっとこちらを見据えていた。

「全く貴女は……よく記憶を失われる」

相変わらず嫌味をぶっこむテオドールに、クラリスは不貞腐れた顔で返す。

「あら、どうも」

それを見て、テオドールは安堵したように小さく息をついた。

「そのご様子なら大丈夫そうですね。で? 何がありましたか?」

クラリスは先ほどの出来事を思い出しながらも、あっさりと答えた。

「別に何もないわよ。ただボケっとしてて階段から落っこちただけ。よくやるの、私」

テオドールは心の中で呆れつつも、口には出さず大きく息を吐いた。

……そんなはずはなかろう。よく螺旋階段から落ちていたら命がいくつあっても足りない。


「まぁ、そのうちに全貌は明らかになりますからいいですけどね。全く貴女という人は、本当に頑固なのですから」

テオドールの嫌味のオンパレードを聞いていると、部屋の扉が勢いよく開き、フリードリヒが駆け込んできた。

「大事無いのか?」

テオドールはクラリスを一瞥し、フリードリヒに向き直る。


「殿下の奥さまは非常に丈夫でいらっしゃいますから(笑)」

…テオドール! 覚えておきなさい!


「ってか、どうして我が妻はこうも狙われるのだ?」

…いやいや、狙われた訳じゃないからね?


和やかな空気が漂う中、突如として現れたのは第1王子のアルフレッドであった。

「兄上!」

驚いたフリードリヒの前に、アルフレッドはいつものように、側近を引き連れて部屋に入ってくるやいなや、その側近の後ろから捉えられた令嬢たちも入ってきた。

クラリスはあまりの急展開に一瞬戸惑うが、アルフレッドは一部始終を見ていたかのように、まるで議事録でも読むかのように事の詳細を説明し始めた。

やがてその令嬢たちの親である公爵や侯爵たちも慌てて駆けつける。役者が揃うと、アルフレッドは静かに、しかし鋭く告げた。

「良いか? 王太子妃を、故意ではないにせよ螺旋階段から突き落とし、それを目撃しながら助けもせず逃げ出した。極刑は免れぬな」



泣き崩れる令嬢と床に平伏す公爵らに、アルフレッドは冷たく続ける。

「爵位も返上だな」

クラリスは慌てて立ち上がった。

「お待ち下さい!」

「悪いが、貴女の感情で左右される事案ではありません」

「感情論ではありませんわ! 事実と異なる罰は認められません。違います! 少なくとも私は当事者です。彼女らの話は信用されなくても、私の話は信用して頂いてもよろしいのでは?」

驚き顔を上げる加害者たちを見ずに、クラリスはフリードリヒに視線を送った。

「殿下!」

フリードリヒは静かに頷く。

「兄上、聞いてみましょう」


クラリスは大きく息を吸った。


「ただの令嬢たちの痴話喧嘩に、私が首を突っ込んだだけのお話です。確かに公爵令嬢に頬を打たれました。しかし足を挫いたのは別の話。ヒールが折れたのです、慣れないヒールでしたから」



「問題はそこではありません。螺旋階段から落ちた貴女を助ける義務が、我が国の貴族にはあるのだが?」

アルフレッドの言葉に、クラリスは王太子妃としての威厳をも忘れ、地のまま説得するように言い返した。


「落ちました! ええ落ちましたとも!でもその時はまだ元気でした! 元気じゃないけど…意識はあったのです。だから助けて頂かなくても結構というか……そこで助けて頂いたら私の立場が無いというか、とにかく何ともなかったのです!」

呆気に取られる一同に畳みかけるように、クラリスは続ける。

「とにかく、何でもありません! 恥ずかしいのはこちらです! あまりに大袈裟にしないで下さい! もう王太子妃命令だと思って! ほら皆さんも立って! 座り込まないで! ね? そしてもう出て行って下さい! 本当に!」



その勢いに、アルフレッドは初めて見る生き物を見るような目でクラリスを見つめる。

フリードリヒは落ち着いて言った。

「ここまで言っているのですから、どうぞお引取り下さい」

項垂れている令嬢たちを顎で立ち上がらせ、冷たく言い放つ。

「私からも追って話がある。」

それだけ告げると、アルフレッドの側近を下がらせ、令嬢たちを部屋から退去させた。アルフレッドも苦虫を噛み潰したような表情で部屋を後にしたのであった。


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