39 / 85
アルフレッドへの王妃の思い
しおりを挟む
広間に、しんとした静寂が戻る。
王妃は騒がしい王太子御一行を見送り、あとに続くヨハネスとアルフレッドの後ろ姿を視線で追った。そして、アルフレッドをそっと呼び止める。
『アル…』
その声は、思いのほか広間に響き渡った。
アルフレッドは足を止め、ゆっくりと振り返る。王妃に向かって歩みを進めるその姿は、どこか緊張を孕んでいた。
『アル、ごめんなさいね』
元来、表情の少ないアルフレッドは、わずかに首を傾げる。
王妃は深く息を吐き、静かに言葉を紡いだ。
『本当は、もっと早く決着をつけるべきだったのに』
アルフレッドは短く、しかし確かに答えた。
『いえ、絶妙なタイミングだったかと存じます』
王妃は小さく息を吐き、さらに一歩近づく。
『先程は、ひとつだけ言わなかったことがあるの。
でも、貴方には伝えたくて…』
アルフレッドは言葉を待つように静かに見つめる。
『我が国の最愛の息子――私の息子アルフレッドを、事もあろうか踏み台にしようとは言語道断。
でも、そこには触れなかったから…』
アルフレッドは珍しく口角をわずかに上げ、柔らかな声で答える。
『私を慮ってくださったのでしょう。わかっております』
王妃は安堵の微笑みを浮かべる。
『アル、私は確かに貴方やヨハネスを産んではいない。
けれど、王太子妃として、貴方たちを息子のように接してきたつもりよ。
寧ろ、フリードリヒは私との時間が少なかったから、私は貴方たちとの時間の方が長かったはず』
アルフレッドは懐かしむように目を細める。
『そうでしたね。義母上は、分け隔てなく私たちを大切にしてくださいました』
王妃は柔らかく微笑みながら、静かに続ける。
『今回、たまたまフリードリヒとその妃の問題であったけれど、これがもし貴方であっても、私は同じことをしたわ』
『そうでしょうね』
二人は小さく笑い合う。
王妃は視線を広間の奥に向け、そしてアルフレッドに告げた。
『では、そろそろ…余り長居をしていると、フリードリヒが拗ねてしまいます故』
アルフレッドは微笑み、軽く頭を下げる。王妃も小さく頷いた。
アルフレッドの背中を見送りながら、王妃は静かに声をかける。
『アル、統率者になる気持ちは、決して捨ててはいけませんよ』
驚きの色を浮かべて振り返るアルフレッドに、王妃は柔らかく、しかし重みのある口調で続けた。
『何も、陰謀を企てろと言っているのではありません。
王子である以上、いつ統率者となってもおかしくはないのです。
その時に慌てず対応できる力を、今のうちに養いなさい』
『それは、結果的にフリードリヒのためにもなるのよ。
王子たるもの、この緊張感は皆、持ち合わせていなくてはならない。
いいわね?』
義母として、そしてランズ王国王妃としての言葉は、静かにアルフレッドの胸に届く。
アルフレッドは最上級の礼を取り、静かに広間を後にした。
王妃はその背を見送りながら、心の中でそっと祈るように息をついた。
―どうか、貴方の力で、そして心で、この国を守り抜いてほしい、と。
王妃は騒がしい王太子御一行を見送り、あとに続くヨハネスとアルフレッドの後ろ姿を視線で追った。そして、アルフレッドをそっと呼び止める。
『アル…』
その声は、思いのほか広間に響き渡った。
アルフレッドは足を止め、ゆっくりと振り返る。王妃に向かって歩みを進めるその姿は、どこか緊張を孕んでいた。
『アル、ごめんなさいね』
元来、表情の少ないアルフレッドは、わずかに首を傾げる。
王妃は深く息を吐き、静かに言葉を紡いだ。
『本当は、もっと早く決着をつけるべきだったのに』
アルフレッドは短く、しかし確かに答えた。
『いえ、絶妙なタイミングだったかと存じます』
王妃は小さく息を吐き、さらに一歩近づく。
『先程は、ひとつだけ言わなかったことがあるの。
でも、貴方には伝えたくて…』
アルフレッドは言葉を待つように静かに見つめる。
『我が国の最愛の息子――私の息子アルフレッドを、事もあろうか踏み台にしようとは言語道断。
でも、そこには触れなかったから…』
アルフレッドは珍しく口角をわずかに上げ、柔らかな声で答える。
『私を慮ってくださったのでしょう。わかっております』
王妃は安堵の微笑みを浮かべる。
『アル、私は確かに貴方やヨハネスを産んではいない。
けれど、王太子妃として、貴方たちを息子のように接してきたつもりよ。
寧ろ、フリードリヒは私との時間が少なかったから、私は貴方たちとの時間の方が長かったはず』
アルフレッドは懐かしむように目を細める。
『そうでしたね。義母上は、分け隔てなく私たちを大切にしてくださいました』
王妃は柔らかく微笑みながら、静かに続ける。
『今回、たまたまフリードリヒとその妃の問題であったけれど、これがもし貴方であっても、私は同じことをしたわ』
『そうでしょうね』
二人は小さく笑い合う。
王妃は視線を広間の奥に向け、そしてアルフレッドに告げた。
『では、そろそろ…余り長居をしていると、フリードリヒが拗ねてしまいます故』
アルフレッドは微笑み、軽く頭を下げる。王妃も小さく頷いた。
アルフレッドの背中を見送りながら、王妃は静かに声をかける。
『アル、統率者になる気持ちは、決して捨ててはいけませんよ』
驚きの色を浮かべて振り返るアルフレッドに、王妃は柔らかく、しかし重みのある口調で続けた。
『何も、陰謀を企てろと言っているのではありません。
王子である以上、いつ統率者となってもおかしくはないのです。
その時に慌てず対応できる力を、今のうちに養いなさい』
『それは、結果的にフリードリヒのためにもなるのよ。
王子たるもの、この緊張感は皆、持ち合わせていなくてはならない。
いいわね?』
義母として、そしてランズ王国王妃としての言葉は、静かにアルフレッドの胸に届く。
アルフレッドは最上級の礼を取り、静かに広間を後にした。
王妃はその背を見送りながら、心の中でそっと祈るように息をついた。
―どうか、貴方の力で、そして心で、この国を守り抜いてほしい、と。
5
あなたにおすすめの小説
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
[完結]私を巻き込まないで下さい
シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。
魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。
でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。
その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。
ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。
え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。
平凡で普通の生活がしたいの。
私を巻き込まないで下さい!
恋愛要素は、中盤以降から出てきます
9月28日 本編完結
10月4日 番外編完結
長い間、お付き合い頂きありがとうございました。
ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない
咲桜りおな
恋愛
愛する夫(王太子)から愛される事もなく結婚間もなく悲運の死を迎える元公爵令嬢のモデリーン。
自分が何度も同じ人生をやり直している事に気付くも、やり直す度に上手くいかない人生にうんざりしてしまう。
どうせなら王太子と出会わない人生を送りたい……そう願って眠りに就くと、王太子との婚約前に時は巻き戻った。
それと同時にこの世界が乙女ゲームの中で、自分が悪役令嬢へ転生していた事も知る。
嫌われる運命なら王太子と婚約せず、ヒロインである自分の妹が結婚して幸せになればいい。
悪役令嬢として生きるなんてまっぴら。自分は自分の道を行く!
そう決めて五度目の人生をやり直し始めるモデリーンの物語。
『やりたくないからやらないだけ 〜自分のために働かない選択をした元貴族令嬢の静かな失踪〜』
鷹 綾
恋愛
「やりたくないから、やらないだけですわ」
婚約破棄をきっかけに、
貴族としての役割も、評価も、期待も、すべてが“面倒”になった令嬢ファーファ・ノクティス。
彼女が選んだのは、復讐でも、成り上がりでもなく――
働かないという選択。
爵位と領地、屋敷を手放し、
領民の未来だけは守る形で名領主と契約を結んだのち、
彼女はひっそりと姿を消す。
山の奥で始まるのは、
誰にも評価されず、誰にも感謝せず、
それでも不自由のない、静かな日々。
陰謀も、追手も、劇的な再会もない。
あるのは、契約に基づいて淡々と届く物資と、
「何者にもならなくていい」という確かな安心だけ。
働かない。
争わない。
名を残さない。
それでも――
自分の人生を、自分のために選び切る。
これは、
頑張らないことを肯定する物語。
静かに失踪した元貴族令嬢が、
誰にも縛られず生きるまでを描いた、
“何もしない”ことを貫いた、静かな完結譚。
【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる