王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako

文字の大きさ
59 / 85

ドールハウスとライオンの視線

しおりを挟む
朝から、ミハエルを見送るためにクラリスとフリードリヒは王宮へと急いだ。

それを待っていたかのように、ミハエルは部屋から出てきた。

「何?わざわざ見送り?」

嬉しそうである。

ミハエルは後ろに控えるフィリップスとテオドールに軽く手を挙げる。

「義兄上、お帰りになる前にご覧に入れたいものがあるのですが」

フリードリヒの言葉に、ミハエルは興味津々で応じた。

「何?」

王宮裏のハウスまで案内され、ミハエルは扉の前で立ち止まる。

「何?」

興味深そうに扉を見つめるミハエルに、クラリスは淡々と説明した。

「私が先代から賜わったハウスですよ?ご存知ありませんでした?」

「…は?」

ミハエルは首をひねる。

「クラリス、待て待て。あの幼い頃に話していたドールハウス?」

「はい」

…いやいや、どこがドールなんだよ。

ミハエルは咳払いをひとつして、額に手を当てた。

「クラリス、これはドールハウスとは言わないだろ?」

「さぁ。でもリザはここをドールハウスと呼んでいたのです。いわゆる名称ですね。本当のお人形のおうちではありません。国王が他国の王女に贈ったものなのですから」

淡々とした説明に、ミハエルは小さくため息をついた。

「クラリス、お前は肝心なことをよく割愛する傾向があるね」

これにはテオドールも深く頷く。

「さぁ、中へ」

フリードリヒは小さな鍵を取り出し扉を開け、慎重にミハエルを案内した。

ハウスの中に足を踏み入れたミハエルは、ぐるりと見渡しながら恐る恐る前へ進む。

「コレは…驚いた。よくできている」

視線をフリードリヒに向けると、フリードリヒは静かに頷いた。

ミハエルは壁面に手を当て、トントンと音を鳴らす。

「こ、これは…」

再びフリードリヒを見るが、頷きが返ってくるだけだ。

このハウスは複雑なカラクリが施され、壁一面は純金。カモフラージュのように貼られたファンタジックな壁紙がその豪華さをさらに引き立てる。

ミハエルは複雑そうな表情を浮かべ、フリードリヒは久々の王太子スマイルを見せて破顔した。

…恐ろしい、ランズ王国。

ミハエルは妹が嫁いだ国ではあるが、ランズ王国の先を見抜く眼力を、今更ながら痛感するのであった。

前を歩くクラリスとフリードリヒを追うミハエルに、テオドールは笑みを浮かべて声をかけた。

「殿下、そのようなお顔は似合いませんよ?」

ニヤリと微笑むテオドールに、ミハエルはいたずらっ子のように問いかける。

「そういえば、テオドールだっけ?お前、クラリスに恋してるだろ?」

…は?藪から棒すぎる。

「私は妃殿下の側近ですが?」

ミハエルは笑みを崩さず、さらに言った。

「だって檻の中のライオンが子猫を食っちまわないなんて、その子猫を愛おしく思ってるから以外に考えられないもん」

…子どもか?

「殿下、恐れながら…妃殿下は学園時代、本の虫と呼ばれるほどに本しか友達がいなかった方ですが?」

…そんな相手に恋するか!

「勤勉なのは王女として模範的だ」

「殿下、恐れながら…妃殿下は鉄パンツを履いていると揶揄されておりましたが?」

…それでも恋するか!

「素晴らしい。王女たるもの、貞操は固くなければな」

テオドールは怪訝そうに見つめるが、ミハエルは楽しそうだ。

「殿下、恐れながら。妃殿下はスラム街で護衛を自ら振り切る方ですが?」

少し困った表情を浮かべながら、ミハエルは答えた。

「ま、まぁ昔から少しお転婆でもあったからね?」

…少しじゃねぇけどな?

「殿下…」

ミハエルは降参したかのような顔で問いかける。

「まだあるの?」

「恐れながら、妃殿下は自らスラムに入り浸ります」

…もはや苦情である。

「分かった分かった!こんなじゃじゃ馬だけど、これからもよろしく頼む」

テオドールがさらに続ける。

「殿下、恐れながら」

辟易とするミハエルに、テオドールは続けた。

「人として何より大切なものをお持ちです」

…は?

想定外の言葉に固まるミハエル。

「貴女の妹君がこの国に嫁いできてくださり、間違いなくランズ王国は活気に溢れる国となりました。王族も今や一つになりつつあります」

…なに?落としてからの持ち上げ?

「私は妃殿下には偉大な力があると思っています」

…いやいや、今更フォロー?

「私は一生、妃殿下の側近でありたいと願っています」

テオドールは眩しい笑顔をミハエルに向け、ミハエルは戸惑いながらも

「そ、そうか。ありがとう」

首を傾げながら、前を行く二人を追った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

『やりたくないからやらないだけ 〜自分のために働かない選択をした元貴族令嬢の静かな失踪〜』

鷹 綾
恋愛
「やりたくないから、やらないだけですわ」 婚約破棄をきっかけに、 貴族としての役割も、評価も、期待も、すべてが“面倒”になった令嬢ファーファ・ノクティス。 彼女が選んだのは、復讐でも、成り上がりでもなく―― 働かないという選択。 爵位と領地、屋敷を手放し、 領民の未来だけは守る形で名領主と契約を結んだのち、 彼女はひっそりと姿を消す。 山の奥で始まるのは、 誰にも評価されず、誰にも感謝せず、 それでも不自由のない、静かな日々。 陰謀も、追手も、劇的な再会もない。 あるのは、契約に基づいて淡々と届く物資と、 「何者にもならなくていい」という確かな安心だけ。 働かない。 争わない。 名を残さない。 それでも―― 自分の人生を、自分のために選び切る。 これは、 頑張らないことを肯定する物語。 静かに失踪した元貴族令嬢が、 誰にも縛られず生きるまでを描いた、 “何もしない”ことを貫いた、静かな完結譚。

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

悪役令嬢は六度目の人生を平穏に送りたい

柴田はつみ
恋愛
ループ6回  いずれも死んでしまう でも今回こそ‥

【完結】婚約を解消されたら、自由と笑い声と隣国王子がついてきました

ふじの
恋愛
「君を傷つけたくはない。だから、これは“円満な婚約解消”とする。」  公爵家に居場所のないリシェルはどうにか婚約者の王太子レオナルトとの関係を築こうと心を砕いてきた。しかし義母や義妹によって、その婚約者の立場さえを奪われたリシェル。居場所をなくしたはずの彼女に手を差し伸べたのは、隣国の第二王子アレクだった。  留学先のアレクの国で自分らしさを取り戻したリシェルは、アレクへの想いを自覚し、二人の距離が縮まってきた。しかしその矢先、ユリウスやレティシアというライバルの登場や政治的思惑に振り回されてすれ違ってしまう。結ばれる未来のために、リシェルとアレクは奔走する。  ※ヒロインが危機的状況に陥りますが、ハッピーエンドです。 【完結】

隠された第四皇女

山田ランチ
恋愛
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

処理中です...