王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako

文字の大きさ
78 / 85

夜会前夜の作戦会議

しおりを挟む
『まだ内定の段階ですが、エリザベス王女と帝国第3皇子ハビエル様の婚約が後ろ盾のようでございます』

アンドラの報告を受けたヨハネスは、納得した様子でクラリスを見た。

『なるほどね。だからあんなに強気だったというわけか』

黙りこくるクラリスに代わり、テオドールが口を開く。

『相変わらず頭が空っぽか?大方、帝国は今にも勃発する争いを見越して我が国を取り込もうとしているというのに、その婚約者となる王女が足を引っ張るとはな』

現在、帝国と隣接する大王国2国が勢力を拡大するいわゆる三つ巴。ランズ王国を従属国にしたい帝国が、王子誕生の祝いにかこつけて来訪したのは明らかだ。

『これで明らかだよな。その三つ巴で帝国は劣勢だということを、自ら示しているようなものだ。大王国はこの期に及んでジタバタしていないのだから』

フリードリヒはニヤリと笑ったが、隣のクラリスは沈黙したまま。

そう、クラリスは怒っていた。珍しく、はっきりと怒りを顕にするクラリスに、テオドールも驚きを隠せない。

クラリスは敢えて挑発したのだ。後ろ盾をあぶり出すために。想定通りの帝国皇子の婚約者――同じ王女として生まれたエリザベス。国のためにあの寝ぼけたようなハビエルに嫁ぐのは仕方がない。しかしその先、地位だけを頼りにランズ王国に足を踏み入れ、アルフレッドに謝罪もせず振る舞う。

…舐めてもらっては困るわ

クラリスは頭を高速で回転させる。

『持たせたね~!』

ウィリアム可愛さに暇を見つけては、遥々ランズ王国までやってくるリントン王国王太子、ミハエル――クラリスの兄である。

こちらも慣れたもので、ミハエルが来ても特段驚くことはない。

ミハエルは重い空気を感じ取ると、テオドールを手招きし、声を落として尋ねる。

『何故に、私の妹はあんなにご立腹なのだ?』

テオドールは驚いた。

『何故分かるのですか?』

『分からない訳ないだろう?通常ならば、毎度ここへ来る度に許可証を出せと煩いではないか』

…一応許可証が要ることは分かってるか。

『お持ちなのですか?』

ミハエルは平然と答える。

『そんなもの持っている訳ないだろう?』

…そんな物ってね…あんた仮にも他国の王太子だぜ?

テオドールは仕方なく事の経緯を説明すると、ミハエルは頷き、ソファに腰を下ろして優雅に足を組んだ。

『それはもう仕方ないよ』

『仕方ないとは?』

テオドールが前のめりになると、ミハエルは笑った。

『爆発させる他ないだろ?でなきゃフリードリヒ殿が大変だ』

クラリスの横に並ぶフリードリヒは驚きの表情を浮かべる。

…なんで俺?

ミハエルは嬉しそうに言った。

『だって、溜め込みすぎたらいつか爆発するだろ?そりゃ確率的にフリードリヒ殿に直撃するのが高いんじゃないか?』

フリードリヒは瞬きを繰り返し、隣のクラリスを恐る恐る見る。するとクラリスはいきなり立ち上がり、姿勢を正した。

『殿下』

『はい』

フリードリヒに微笑みながら、クラリスは言う。

『最終日の夜会の衣装を変更したいのですが』

…?

『そ、そうか。別に構わないけど、今から新しく誂えるには時間が足りないよ?』

クラリスはニヤリと笑う。

『大丈夫ですわ。お兄様がいらっしゃるということは、袖を通していない衣装を沢山お持ちのはずですもの。見た所、殿下とお兄様ならサイズもほぼ同じでしょう。日頃の誂えたものより着心地では劣るかもしれませんが』

フリードリヒは考え込む。

『それは大丈夫だけど…』

ミハエルの様子をうかがうと、ミハエルは驚いた顔でクラリスを見る。

…おいおい、そんな勝手に

クラリスは笑顔で言った。

『毎度、自国のように出入りされているリントン王太子様ですから、家族も同然。家族の窮地、拒まれるはずありませんわ』

…窮地ってね

ミハエルはため息をつき、言う。

『分かったよ。どれでも好きなのを選べばいい』

フリードリヒはフィリップスに頷く。

『では、お言葉に甘えて、こちらで買い取りさせて頂きます。請求書だけお願いします』

ミハエルはクラリスに視線を向ける。

『ウィリアムの誕生の祝いもまだだったし、それについては構わないよ』

リントン王国王太子としての威厳を示すミハエルに、クラリスは応じる。

『お兄様、それとこれとは違いますわ。お祝いはしっかり頂きます。でも今回はお言葉に甘えさせて頂きます』

…いつからこんなにがめつくなったの?

ミハエルは顔をしかめ、テオドールを見る。テオドールは苦笑するしかなかった。

…知らねえよ。あんたの妹だもんね

クラリスは早速、衣装選定に取り掛かるべく、急いで執務室を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない

咲桜りおな
恋愛
 愛する夫(王太子)から愛される事もなく結婚間もなく悲運の死を迎える元公爵令嬢のモデリーン。 自分が何度も同じ人生をやり直している事に気付くも、やり直す度に上手くいかない人生にうんざりしてしまう。 どうせなら王太子と出会わない人生を送りたい……そう願って眠りに就くと、王太子との婚約前に時は巻き戻った。 それと同時にこの世界が乙女ゲームの中で、自分が悪役令嬢へ転生していた事も知る。 嫌われる運命なら王太子と婚約せず、ヒロインである自分の妹が結婚して幸せになればいい。 悪役令嬢として生きるなんてまっぴら。自分は自分の道を行く!  そう決めて五度目の人生をやり直し始めるモデリーンの物語。

『やりたくないからやらないだけ 〜自分のために働かない選択をした元貴族令嬢の静かな失踪〜』

鷹 綾
恋愛
「やりたくないから、やらないだけですわ」 婚約破棄をきっかけに、 貴族としての役割も、評価も、期待も、すべてが“面倒”になった令嬢ファーファ・ノクティス。 彼女が選んだのは、復讐でも、成り上がりでもなく―― 働かないという選択。 爵位と領地、屋敷を手放し、 領民の未来だけは守る形で名領主と契約を結んだのち、 彼女はひっそりと姿を消す。 山の奥で始まるのは、 誰にも評価されず、誰にも感謝せず、 それでも不自由のない、静かな日々。 陰謀も、追手も、劇的な再会もない。 あるのは、契約に基づいて淡々と届く物資と、 「何者にもならなくていい」という確かな安心だけ。 働かない。 争わない。 名を残さない。 それでも―― 自分の人生を、自分のために選び切る。 これは、 頑張らないことを肯定する物語。 静かに失踪した元貴族令嬢が、 誰にも縛られず生きるまでを描いた、 “何もしない”ことを貫いた、静かな完結譚。

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

悪役令嬢は六度目の人生を平穏に送りたい

柴田はつみ
恋愛
ループ6回  いずれも死んでしまう でも今回こそ‥

処理中です...