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王女の決断と侍従の真価
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『え?そ、そんな事が…』
アルビオンの言葉に動揺をみせたのは、エリザベスではなくミランダだった。
アルビオンはハビエルからエリザベスに視線を移すと、静かに、しかし鋭く告げる。
『良いな?』
エリザベスにも同意を求める。押し黙る王女を前に、アルビオンの眼差しは鋭く、逃げ場を与えない。
『エリザベス様!え、エリザベス様は具合がよくありません。貧血が…です。ここは一旦…』
ミランダは慌ててテオドールの手を振りほどこうとするが、もちろんびくともしない。睨みつける彼女に、テオドールは微動だにせず、ただ冷静に立っている。
『だから離しなさい!エリザベス様のお加減が悪いと申しましたでしょう?』
…あんた、今、囚われの身なんだけど?
エリザベスは穏やかに、しかし確固たる口調で答えた。
『ミランダ、私は大丈夫です』
その言葉に、ミランダは思わず息を呑む。クラリスに反撃されたとき以上の衝撃だ。
『エリザベス様!ここは一旦…!エリザベス様?私の目を見て!』
焦るミランダに、ヨハネスはため息をつく。
『ねえ、君…ミランダって言ったっけ?私は君に謝らないといけないな』
それどころではないミランダは、怪訝そうにヨハネスを見た。
『正確には、私と義姉上もだね』
ヨハネスはクラリスを見やり、クラリスもまた理解したように苦笑する。
『だってそうだろう?私は君の王女への忠誠に感服したと言った。でも義姉上は君の忠誠は王女ではなくパナン王国だと言った。どちらも見当違いだったよ。だって君は全て自分の為に動いているんだから』
驚いたミランダは目を見開き、ヨハネスを睨みつけた。
『なに、パナン王国王女の侍従だった君が、我がランズ王国第1王子妃の侍従となり、やがて帝国皇子妃の侍従になるはずだった。それは焦るよ。
そもそも我が国に嫁いだ時も、君は未来の統率者の妃の侍従になると思い込んでいたんじゃない?第1王子だもんね。でも我が国は第2王子が既に立太子していた。焦るのも当然だろう。
でも、それは君の勉強不足だよ?周知の事だし、君には学びが不足している節が見受けられる』
淡々と語るヨハネスに、ミランダは真っ赤になり、かろうじて理性を保っている。
すると会場内の空気がざわめきだした。ランズ王国の貴族たちも、かつて媚びへつらった頃の記憶が甦り、ミランダへの非難を口にせずにはいられなかった。
『静まれ!』
次に声を荒げたのはアルビオンではなく、ランズ王国王太子フリードリヒだった。その声に、会場中の貴族は息を飲む。
フリードリヒは笑顔を作り、エリザベスに向き直る。
『王女、先ほど私の妻が一人の人として話をしました。今度は、一人の王族として話をさせて頂いてもよいですか?』
エリザベスは頷き、大きな瞳を閉じる。
『私から言わせて頂くなら、この者の忠誠の先には国も貴女も、そしてこの者自身も含まれます。そんなことはどうでもよいのです。なのに今、この会場ではこの者が悪者のように見える。しかしそれは違う』
会場はフリードリヒの言葉を静かに待った。
『全ての責任は貴女にあります、エリザベス王女』
ハビエルは声を上げそうになったが、アルビオンに押さえ込まれる。
『この者は、パナン王国では知りませんが、他国では一介の侍従に過ぎない。この者には責任を追う能力も立場もない。だからこそ、本来ただの侍従が、他国の王族に拘束されているのを見て、貴女が黙っているのはおかしい。この者は、この会場で悪者になることすらできないのです』
守ってもらえたと思った矢先、すぐに落とされたミランダは力なくエリザベスを見上げる。
『殿下…』
固く閉ざしていた口を開いたエリザベスに、会場中が視線を注いだ。なぜなら、ここには「殿下」と呼ばれる男が五人もいる。五人の視線がエリザベスに向けられる中、彼女の視線はランズ王国第1王子アルフレッドに留まった。
アルフレッドは驚き、目を見開きつつも視線を返す。
エリザベスはゆっくりと歩み寄り、静かに告げる。
『その節は、誠に申し訳ありませんでした』
会場の視線が二人に注がれる中、ミランダが慌てて声を荒げる。
『いけません、王女!』
だがエリザベスはいつもの冷たい笑みではなく、クラリスも初めて見る柔らかい微笑みを向ける。
『もういいのよ、ミランダ。貴女も気づいているでしょう?我が国の現状を。パナンは過去に囚われすぎていた。現実を見ず、過去の栄光にすがるばかり――いえ、現実を見たくないから逃げていたのよ。そして私もその一人。違和感を覚えながらも、貴女の言う通りの王女を演じてきた。でも、もうおしまい。こんなの意味ないわ』
『終わりではありません!それこそ逃げです!パナン王女の名にかけ、最後まで王女であり続けるべきです。だから簡単に頭を下げてはいけません!まずはパナンに戻り…』
『その必要はありません。私はパナンには戻りません』
ミランダはアルビオンに視線を向け、エリザベスを説得しようとするも、王女は静かに微笑む。
『分かっているわ。ミランダ、今までご苦労様でした』
ミランダは目を見開き、呆然とエリザベスを見つめる。
『何を言っているのですか?王女、貴女は私がいなければ今の貴女ではありませんよ?大陸に名を馳せる王女には私が必要なのです。分かりますか?』
『何故だ?』
ポツリと呟いたのは、アルフレッド。視線を感じて彼が言葉を続ける。
『何故、大陸に名を馳せることがそれほど大事なのだ?そもそも、私はエリザベスが大陸に名を馳せる王女だなどと初めて聞いたぞ?』
ミランダは再び驚きの表情を見せる。
『失礼な!』
アルフレッドは呆れた表情でヨハネスに言う。
『名を馳せていることを知らないと無礼なのか?』
ヨハネスは冷ややかに応じる。
『アル兄、あの者は少し頭のネジが外れている。まともに聞くな。そもそも、一介の侍従が他国の王族に失礼などと言う方がどうかしている』
四面楚歌のミランダは、半ばパニック状態となる。
『申し訳ありません。全てはフリードリヒ殿下のおっしゃる通り、私の責任です。この者は今、ランズ王国王太子妃への不敬罪により拘束中。この場に相応しくありません。どうぞ下げてください。その上で、我が国への処遇はお任せします』
こうして、ミランダの操り人形は脱皮し、晴れてパナン王女となった。その姿は、まさに「王女の中の王女」とクラリスの目に映った。
アルビオンの言葉に動揺をみせたのは、エリザベスではなくミランダだった。
アルビオンはハビエルからエリザベスに視線を移すと、静かに、しかし鋭く告げる。
『良いな?』
エリザベスにも同意を求める。押し黙る王女を前に、アルビオンの眼差しは鋭く、逃げ場を与えない。
『エリザベス様!え、エリザベス様は具合がよくありません。貧血が…です。ここは一旦…』
ミランダは慌ててテオドールの手を振りほどこうとするが、もちろんびくともしない。睨みつける彼女に、テオドールは微動だにせず、ただ冷静に立っている。
『だから離しなさい!エリザベス様のお加減が悪いと申しましたでしょう?』
…あんた、今、囚われの身なんだけど?
エリザベスは穏やかに、しかし確固たる口調で答えた。
『ミランダ、私は大丈夫です』
その言葉に、ミランダは思わず息を呑む。クラリスに反撃されたとき以上の衝撃だ。
『エリザベス様!ここは一旦…!エリザベス様?私の目を見て!』
焦るミランダに、ヨハネスはため息をつく。
『ねえ、君…ミランダって言ったっけ?私は君に謝らないといけないな』
それどころではないミランダは、怪訝そうにヨハネスを見た。
『正確には、私と義姉上もだね』
ヨハネスはクラリスを見やり、クラリスもまた理解したように苦笑する。
『だってそうだろう?私は君の王女への忠誠に感服したと言った。でも義姉上は君の忠誠は王女ではなくパナン王国だと言った。どちらも見当違いだったよ。だって君は全て自分の為に動いているんだから』
驚いたミランダは目を見開き、ヨハネスを睨みつけた。
『なに、パナン王国王女の侍従だった君が、我がランズ王国第1王子妃の侍従となり、やがて帝国皇子妃の侍従になるはずだった。それは焦るよ。
そもそも我が国に嫁いだ時も、君は未来の統率者の妃の侍従になると思い込んでいたんじゃない?第1王子だもんね。でも我が国は第2王子が既に立太子していた。焦るのも当然だろう。
でも、それは君の勉強不足だよ?周知の事だし、君には学びが不足している節が見受けられる』
淡々と語るヨハネスに、ミランダは真っ赤になり、かろうじて理性を保っている。
すると会場内の空気がざわめきだした。ランズ王国の貴族たちも、かつて媚びへつらった頃の記憶が甦り、ミランダへの非難を口にせずにはいられなかった。
『静まれ!』
次に声を荒げたのはアルビオンではなく、ランズ王国王太子フリードリヒだった。その声に、会場中の貴族は息を飲む。
フリードリヒは笑顔を作り、エリザベスに向き直る。
『王女、先ほど私の妻が一人の人として話をしました。今度は、一人の王族として話をさせて頂いてもよいですか?』
エリザベスは頷き、大きな瞳を閉じる。
『私から言わせて頂くなら、この者の忠誠の先には国も貴女も、そしてこの者自身も含まれます。そんなことはどうでもよいのです。なのに今、この会場ではこの者が悪者のように見える。しかしそれは違う』
会場はフリードリヒの言葉を静かに待った。
『全ての責任は貴女にあります、エリザベス王女』
ハビエルは声を上げそうになったが、アルビオンに押さえ込まれる。
『この者は、パナン王国では知りませんが、他国では一介の侍従に過ぎない。この者には責任を追う能力も立場もない。だからこそ、本来ただの侍従が、他国の王族に拘束されているのを見て、貴女が黙っているのはおかしい。この者は、この会場で悪者になることすらできないのです』
守ってもらえたと思った矢先、すぐに落とされたミランダは力なくエリザベスを見上げる。
『殿下…』
固く閉ざしていた口を開いたエリザベスに、会場中が視線を注いだ。なぜなら、ここには「殿下」と呼ばれる男が五人もいる。五人の視線がエリザベスに向けられる中、彼女の視線はランズ王国第1王子アルフレッドに留まった。
アルフレッドは驚き、目を見開きつつも視線を返す。
エリザベスはゆっくりと歩み寄り、静かに告げる。
『その節は、誠に申し訳ありませんでした』
会場の視線が二人に注がれる中、ミランダが慌てて声を荒げる。
『いけません、王女!』
だがエリザベスはいつもの冷たい笑みではなく、クラリスも初めて見る柔らかい微笑みを向ける。
『もういいのよ、ミランダ。貴女も気づいているでしょう?我が国の現状を。パナンは過去に囚われすぎていた。現実を見ず、過去の栄光にすがるばかり――いえ、現実を見たくないから逃げていたのよ。そして私もその一人。違和感を覚えながらも、貴女の言う通りの王女を演じてきた。でも、もうおしまい。こんなの意味ないわ』
『終わりではありません!それこそ逃げです!パナン王女の名にかけ、最後まで王女であり続けるべきです。だから簡単に頭を下げてはいけません!まずはパナンに戻り…』
『その必要はありません。私はパナンには戻りません』
ミランダはアルビオンに視線を向け、エリザベスを説得しようとするも、王女は静かに微笑む。
『分かっているわ。ミランダ、今までご苦労様でした』
ミランダは目を見開き、呆然とエリザベスを見つめる。
『何を言っているのですか?王女、貴女は私がいなければ今の貴女ではありませんよ?大陸に名を馳せる王女には私が必要なのです。分かりますか?』
『何故だ?』
ポツリと呟いたのは、アルフレッド。視線を感じて彼が言葉を続ける。
『何故、大陸に名を馳せることがそれほど大事なのだ?そもそも、私はエリザベスが大陸に名を馳せる王女だなどと初めて聞いたぞ?』
ミランダは再び驚きの表情を見せる。
『失礼な!』
アルフレッドは呆れた表情でヨハネスに言う。
『名を馳せていることを知らないと無礼なのか?』
ヨハネスは冷ややかに応じる。
『アル兄、あの者は少し頭のネジが外れている。まともに聞くな。そもそも、一介の侍従が他国の王族に失礼などと言う方がどうかしている』
四面楚歌のミランダは、半ばパニック状態となる。
『申し訳ありません。全てはフリードリヒ殿下のおっしゃる通り、私の責任です。この者は今、ランズ王国王太子妃への不敬罪により拘束中。この場に相応しくありません。どうぞ下げてください。その上で、我が国への処遇はお任せします』
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