王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako

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夏の控室と小さな恋模様

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こうして月日が流れ、いくつもの春を越え、夏がやってきた。

『ねえ、ここは幼稚舎じゃないんだよ?いつまで続けるつもりなの?だいたいね、我々は子守をするために厳しい教育を受けてきたわけじゃないんだ』

憤るフィリップスに、テオドールは淡々と返す。

『厳しい教育って…お前、そんなに真面目に受けてきてはいないだろうよ』

フィリップスは隣のテオドールを軽く睨む。

『うん、クラリスのワガママだって分かってるけどね。叶えてやりたいんだよ。王族ってのは、生まれた時から王族だろ?物心つく前から、貴族の中でも優秀な者たちが周りにズラリといて生活してきたんだ』

『そりゃ、我々には分からないほど大変だったろうさ』

テオドールがポツリと呟くと、フリードリヒは少し悲しげに瞳を伏せる。

『いや、大変ではない。っていうか、それしか知らないからね?他を知らないんだから、これが普通だと思い込むさ。でも、そんな優秀な大人たちが私の顔色を伺い、私の出来次第で己の評価まで決まるんだ。そりゃ躍起にもなるさ。だから私は生まれた時から家族の愛など知らなかった。クラリスもまた同じようなものだ。だからこそ、侍従じゃなく家族を常に感じさせたいんだと思うんだ』

…こんなの聞いたら、何も言えないし。

フィリップスはフリードリヒを見つめたまま息を呑む。

『だから私は、政略結婚ではあるけれど、クラリスと本物の夫婦になりたいと願っているんだ』

『つうか、本物の夫婦だろ。既に』

テオドールが少し驚いたように返すと、フリードリヒは悲しそうに瞳を閉じた。

『テオ、クラリスはテオドールを“テオ”と呼ぶだろう?では私のことは何と呼ぶ?』

テオドールは考えたこともない問いに頭を巡らせる。するとフィリップスが、静かに口を開く。

『殿下…』

『そう、殿下だ。敬称だよ?そんな“本物の夫婦”っている?』

沈黙が流れる。すると一人、アンドラが思い出したかのように目を見開く。

『アンドラ、どうした?』

焦るアンドラは目を泳がせる。

『え?いや、別に…』

テオドールはアンドラの首根っこを軽く掴む。

『別にという顔ではないが?』

フリードリヒの前まで連れてくると、観念したアンドラは渋々口を開いた。

『いつでしたか、妃殿下も同じような話をしていらっしゃいましたので…』

『同じような?』

眉間にシワを寄せるフリードリヒをよそに、テオドールが鋭く詰める。

『勿体ぶるな!単刀直入に言え!』

…勿体ぶってないけど。

アンドラは子犬のような目をフリードリヒに向け、口を開く。

『ですから、私に婚約者は私を何と呼ぶか?とか…』

『とか?』

急かすテオドールを横目に、アンドラは続ける。

『マーガレットが婚約者である私を“アンディ”と呼ぶのに、私は殿下と呼ぶとか…ですから、お名前で呼びたいなら呼んだらよいのでは?と申しました』

『そしたら妃殿下は?』

テオドールは前のめりになる。

『真っ赤になって、そんなことは言えないと…』

『アンドラ。お前は意地悪なのか?どうしてフリードが喜ぶネタを教えてやらねえんだ!なぁ、フリード』

テオドールがフリードリヒを見るも、フリードリヒは手で口を覆い、真っ赤になって固まっていた。

…お前もかよ。

テオドールは呆れた視線をフリードリヒに向ける。

『だって妃殿下が言っちゃ駄目って…』

アンドラの言葉にフィリップスはニコリと笑う。

『アンドラだからお前はまだまだなんだ。女性の“言っちゃ駄目”は、上手く殿下に伝えて♡ってことだろ?普通』

目を見開くアンドラは、後ろで執務を行うファビウスに目を向ける。

『そ、そうなの?』

ファビウスは面倒くさそうに頷く。フィリップスは続ける。

『ファビウスだってこう見えて、リディア嬢の前では愛の言葉の一つや二つ囁くぞ?』

…ま、まじで?

声にならない驚きを見せるアンドラに、ファビウスは無表情のまま答える。

『何か問題でも?』

アンドラは背筋を伸ばす。

『ご、ございません』

アンドラは甘いセリフなど絶対に言わないであろうアルフレッドに視線を向ける。

『こちらを見るでない!』

急いで視線を戻すアンドラを見て、ヨハネスは呆れた声を出す。

『揃いも揃って、兄上夫婦のままごとに付き合ってる暇はないんだよ。明日は戴冠式だっていうのに、やることは山ほどある。口ではなく手を動かせ』

不機嫌なヨハネスに、テオドールが小声で囁く。

『アンドラ、お前のせいで殿下が拗ねたではないか?』

…俺?

固まるアンドラは恐る恐るヨハネスを見る。テオドールは続ける。

『殿下にはまだその様なお相手がいないのだぞ?少しは主を慮れ』

ヨハネスはすかさず返す。

『テオ、お前もな?』

二人の視線が一斉にアンドラに注がれると、アンドラは驚いたように俯いた。

…何で俺?
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