7 / 59
エミリアの憂鬱
しおりを挟む
エミリアはリア王国を存分に満喫しているが目下の悩みは明日に控える晩餐会だ。晩餐会にはヨハネスがわざわざやって来るのだ。べつにヨハネスだって来たくて来るわけではない。王太子だからこそ仕方なくである。本来ならば好きでもない婚約者が居ない間にあの男爵令嬢とイチャコラしたい放題なのにむしろ申し訳ないくらいだ。
エミリアの悩みは無情にもやって来る。明けない夜はないのだから当たり前だ。それでもエミリアは憂鬱なのだ。きっとこちらでの快適な生活に慣れて忍耐力が欠けてきたのであろう。仕方なくマドリン王国公爵令嬢の姿にドレスアップを始めるのであった。
今宵は晩餐会ということで侍女のアリスが美しき淑女と名付けてコーディネートしてくれている。
鏡に映るエミリアはピンクゴールドのマーメイドドレス。ヘアスタイルはハーフアップとなっていた。エミリアの顔立ちは目鼻立ちがはっきりしているのでそれだけで黙っていればキツく感じるのだ。
ナチュラルメイクを施したエミリアは文句の付けようのない淑女となっていた。
マドリン王国では敢えてキツくなるバッチリメイクをしているエミリア。そのエミリアをエスコートに迎えに来たヨハネスは驚いたように声を上げた。
『見違えたよ…エミリア。我が国でもそのようにすればあんな噂など流れないよ。』
…つくづく嫌な事を思い出させる男ね。
エミリアは小さく微笑むとヨハネスとともにリア王国王宮へ向かった。
王宮に入ると既に各国が会場入りしていた。ヨハネスにエスコートされエミリアも会場に足を踏み入れた。マドリン王国の豪華絢爛な王宮とは異なり歴史溢れる雰囲気であった。キンキラキンのマドリン王宮よりもむしろ好感が持てた。
マドリンもリア王国とまでは行かぬが大陸では力を持っている為か、座席は最前席へ案内をされた。
前に広がるリア王国王族が並ぶ席は重厚感があり彫刻が施されている。キンキラキンではなくくすんだ金が歴史を感じさせ本物を物語っている。
品位を感じる調度品に目を奪われていると、王宮雅楽団の音楽が変わった。王族の入場だ。エミリアは真っ直ぐと背筋を伸ばし、公爵令嬢の仮面を装着した。
ゆっくりと開かれた扉から国王陛下と王妃の姿が見えると一斉に拍手が起こる。その後ろから王太子、王子…
…。
エミリアは驚きのあまり拍手をする手が止まった。隣のヨハネスがエミリアの腕を腕で突くとエミリアは我に返りまた公爵令嬢の仮面を装着した。
エミリアの頭は混乱している。何故なら先日話した貴族令息の1人が王太子として国王陛下の隣で微笑んでいるのだ。その後方にはまた残りの2人が控えている。エミリアは直視出来ないでいるが何とも残酷なまでにマドリン王宮の席の真正面に国王陛下の席の為嫌でも視界に入るのである。エミリアは戸惑いながらも腹を括り真っ直ぐと前を見据えた。
すると当たり前だか視界の王太子はエミリアを見て驚きの様子である。エミリアは直には見ないものの視界に入ってきていた。そしてまた後ろの2人もお互い顔を見合わせているのが分かる。生きた心地のしない晩餐会の始まりであった。
ゆっくりと食事を楽しむ中、またも試練がエミリアを襲う事になる。ヨハネスも国王陛下に挨拶に行かなければならない。ということはもちろんエミリアもだ。
…。困ったわ。
困惑するエミリアとは裏腹にヨハネスは笑顔を振りまき国王陛下と王太子の元に向かった。
『ご無沙汰しております』
国王陛下にヨハネスが挨拶をすると国王陛下も歓迎の言葉を発し笑っている。
今度は王太子に手を差し出すとヨハネスは
『お初にお目に掛かります。マドリン王国王太子のヨハネスです。こちらは我が国筆頭公爵家令嬢のエミリアです。此度は宜しくお願いします』
丁寧に紹介までされたエミリアは開き直り見事なカーテシーを披露したのである。
『こちらこそ宜しく。マドリン公爵令嬢にとって良き時間となるよう我が国も尽力することをお約束しますよ。』
にこやかにに微笑む王太子とヨハネスは固く握手を交わしエミリアの試練は終わった。
…やれやれだわ。
どっぷり疲れたエミリアとは違い元気満タンのヨハネスはリア王国に泊まる事無くマドリン王国へと帰って行った。
…とんぼ返りってこのことね。
エミリアは目の前の憂鬱を終え明日からの学園に思いを馳せるはずがまたも憂鬱に襲われるのであった。
…王太子なんて聞いてないし
エミリアの悩みは無情にもやって来る。明けない夜はないのだから当たり前だ。それでもエミリアは憂鬱なのだ。きっとこちらでの快適な生活に慣れて忍耐力が欠けてきたのであろう。仕方なくマドリン王国公爵令嬢の姿にドレスアップを始めるのであった。
今宵は晩餐会ということで侍女のアリスが美しき淑女と名付けてコーディネートしてくれている。
鏡に映るエミリアはピンクゴールドのマーメイドドレス。ヘアスタイルはハーフアップとなっていた。エミリアの顔立ちは目鼻立ちがはっきりしているのでそれだけで黙っていればキツく感じるのだ。
ナチュラルメイクを施したエミリアは文句の付けようのない淑女となっていた。
マドリン王国では敢えてキツくなるバッチリメイクをしているエミリア。そのエミリアをエスコートに迎えに来たヨハネスは驚いたように声を上げた。
『見違えたよ…エミリア。我が国でもそのようにすればあんな噂など流れないよ。』
…つくづく嫌な事を思い出させる男ね。
エミリアは小さく微笑むとヨハネスとともにリア王国王宮へ向かった。
王宮に入ると既に各国が会場入りしていた。ヨハネスにエスコートされエミリアも会場に足を踏み入れた。マドリン王国の豪華絢爛な王宮とは異なり歴史溢れる雰囲気であった。キンキラキンのマドリン王宮よりもむしろ好感が持てた。
マドリンもリア王国とまでは行かぬが大陸では力を持っている為か、座席は最前席へ案内をされた。
前に広がるリア王国王族が並ぶ席は重厚感があり彫刻が施されている。キンキラキンではなくくすんだ金が歴史を感じさせ本物を物語っている。
品位を感じる調度品に目を奪われていると、王宮雅楽団の音楽が変わった。王族の入場だ。エミリアは真っ直ぐと背筋を伸ばし、公爵令嬢の仮面を装着した。
ゆっくりと開かれた扉から国王陛下と王妃の姿が見えると一斉に拍手が起こる。その後ろから王太子、王子…
…。
エミリアは驚きのあまり拍手をする手が止まった。隣のヨハネスがエミリアの腕を腕で突くとエミリアは我に返りまた公爵令嬢の仮面を装着した。
エミリアの頭は混乱している。何故なら先日話した貴族令息の1人が王太子として国王陛下の隣で微笑んでいるのだ。その後方にはまた残りの2人が控えている。エミリアは直視出来ないでいるが何とも残酷なまでにマドリン王宮の席の真正面に国王陛下の席の為嫌でも視界に入るのである。エミリアは戸惑いながらも腹を括り真っ直ぐと前を見据えた。
すると当たり前だか視界の王太子はエミリアを見て驚きの様子である。エミリアは直には見ないものの視界に入ってきていた。そしてまた後ろの2人もお互い顔を見合わせているのが分かる。生きた心地のしない晩餐会の始まりであった。
ゆっくりと食事を楽しむ中、またも試練がエミリアを襲う事になる。ヨハネスも国王陛下に挨拶に行かなければならない。ということはもちろんエミリアもだ。
…。困ったわ。
困惑するエミリアとは裏腹にヨハネスは笑顔を振りまき国王陛下と王太子の元に向かった。
『ご無沙汰しております』
国王陛下にヨハネスが挨拶をすると国王陛下も歓迎の言葉を発し笑っている。
今度は王太子に手を差し出すとヨハネスは
『お初にお目に掛かります。マドリン王国王太子のヨハネスです。こちらは我が国筆頭公爵家令嬢のエミリアです。此度は宜しくお願いします』
丁寧に紹介までされたエミリアは開き直り見事なカーテシーを披露したのである。
『こちらこそ宜しく。マドリン公爵令嬢にとって良き時間となるよう我が国も尽力することをお約束しますよ。』
にこやかにに微笑む王太子とヨハネスは固く握手を交わしエミリアの試練は終わった。
…やれやれだわ。
どっぷり疲れたエミリアとは違い元気満タンのヨハネスはリア王国に泊まる事無くマドリン王国へと帰って行った。
…とんぼ返りってこのことね。
エミリアは目の前の憂鬱を終え明日からの学園に思いを馳せるはずがまたも憂鬱に襲われるのであった。
…王太子なんて聞いてないし
4
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~
深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました
鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎて、可愛げがない」
その理不尽な理由で、王都の名門令嬢エリーカは婚約を破棄された。
努力も実績も、すべてを否定された――はずだった。
だが彼女は、嘆かなかった。
なぜなら婚約破棄は、自由の始まりだったから。
行き場を失ったエリーカを迎え入れたのは、
“冷徹”と噂される隣国の公爵アンクレイブ。
条件はただ一つ――白い結婚。
感情を交えない、合理的な契約。
それが最善のはずだった。
しかし、エリーカの有能さは次第に国を変え、
彼女自身もまた「役割」ではなく「選択」で生きるようになる。
気づけば、冷徹だった公爵は彼女を誰よりも尊重し、
誰よりも守り、誰よりも――選び続けていた。
一方、彼女を捨てた元婚約者と王都は、
エリーカを失ったことで、静かに崩れていく。
婚約破棄ざまぁ×白い結婚×溺愛。
完璧すぎる令嬢が、“選ばれる側”から“選ぶ側”へ。
これは、復讐ではなく、
選ばれ続ける未来を手に入れた物語。
---
婚約破棄されたので隣国に逃げたら、溺愛公爵に囲い込まれました
鍛高譚
恋愛
婚約破棄の濡れ衣を着せられ、すべてを失った侯爵令嬢フェリシア。
絶望の果てに辿りついた隣国で、彼女の人生は思わぬ方向へ動き始める。
「君はもう一人じゃない。私の護る場所へおいで」
手を差し伸べたのは、冷徹と噂される隣国公爵――だがその本性は、驚くほど甘くて優しかった。
新天地での穏やかな日々、仲間との出会い、胸を焦がす恋。
そして、フェリシアを失った母国は、次第に自らの愚かさに気づいていく……。
過去に傷ついた令嬢が、
隣国で“執着系の溺愛”を浴びながら、本当の幸せと居場所を見つけていく物語。
――「婚約破棄」は終わりではなく、始まりだった。
形式だけの妻でしたが、公爵様に溺愛されながら領地再建しますわ
鍛高譚
恋愛
追放された令嬢クラリティは、冷徹公爵ガルフストリームと形式だけの結婚を結ぶ。
荒れた公爵領の再興に奔走するうち、二人は互いに欠かせない存在へと変わっていく。
陰謀と試練を乗り越え、契約夫婦は“真実の夫婦”へ――。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる