絶世の悪女と呼ばれる公爵令嬢【完】

mako

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エミリアの憂鬱

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エミリアはリア王国を存分に満喫しているが目下の悩みは明日に控える晩餐会だ。晩餐会にはヨハネスがわざわざやって来るのだ。べつにヨハネスだって来たくて来るわけではない。王太子だからこそ仕方なくである。本来ならば好きでもない婚約者が居ない間にあの男爵令嬢とイチャコラしたい放題なのにむしろ申し訳ないくらいだ。


エミリアの悩みは無情にもやって来る。明けない夜はないのだから当たり前だ。それでもエミリアは憂鬱なのだ。きっとこちらでの快適な生活に慣れて忍耐力が欠けてきたのであろう。仕方なくマドリン王国公爵令嬢の姿にドレスアップを始めるのであった。



今宵は晩餐会ということで侍女のアリスが美しき淑女と名付けてコーディネートしてくれている。
鏡に映るエミリアはピンクゴールドのマーメイドドレス。ヘアスタイルはハーフアップとなっていた。エミリアの顔立ちは目鼻立ちがはっきりしているのでそれだけで黙っていればキツく感じるのだ。
ナチュラルメイクを施したエミリアは文句の付けようのない淑女となっていた。


マドリン王国では敢えてキツくなるバッチリメイクをしているエミリア。そのエミリアをエスコートに迎えに来たヨハネスは驚いたように声を上げた。



『見違えたよ…エミリア。我が国でもそのようにすればあんな噂など流れないよ。』


…つくづく嫌な事を思い出させる男ね。


エミリアは小さく微笑むとヨハネスとともにリア王国王宮へ向かった。




王宮に入ると既に各国が会場入りしていた。ヨハネスにエスコートされエミリアも会場に足を踏み入れた。マドリン王国の豪華絢爛な王宮とは異なり歴史溢れる雰囲気であった。キンキラキンのマドリン王宮よりもむしろ好感が持てた。


マドリンもリア王国とまでは行かぬが大陸では力を持っている為か、座席は最前席へ案内をされた。


前に広がるリア王国王族が並ぶ席は重厚感があり彫刻が施されている。キンキラキンではなくくすんだ金が歴史を感じさせ本物を物語っている。

品位を感じる調度品に目を奪われていると、王宮雅楽団の音楽が変わった。王族の入場だ。エミリアは真っ直ぐと背筋を伸ばし、公爵令嬢の仮面を装着した。



ゆっくりと開かれた扉から国王陛下と王妃の姿が見えると一斉に拍手が起こる。その後ろから王太子、王子…



…。

エミリアは驚きのあまり拍手をする手が止まった。隣のヨハネスがエミリアの腕を腕で突くとエミリアは我に返りまた公爵令嬢の仮面を装着した。


エミリアの頭は混乱している。何故なら先日話した貴族令息の1人が王太子として国王陛下の隣で微笑んでいるのだ。その後方にはまた残りの2人が控えている。エミリアは直視出来ないでいるが何とも残酷なまでにマドリン王宮の席の真正面に国王陛下の席の為嫌でも視界に入るのである。エミリアは戸惑いながらも腹を括り真っ直ぐと前を見据えた。


すると当たり前だか視界の王太子はエミリアを見て驚きの様子である。エミリアは直には見ないものの視界に入ってきていた。そしてまた後ろの2人もお互い顔を見合わせているのが分かる。生きた心地のしない晩餐会の始まりであった。



ゆっくりと食事を楽しむ中、またも試練がエミリアを襲う事になる。ヨハネスも国王陛下に挨拶に行かなければならない。ということはもちろんエミリアもだ。


…。困ったわ。


困惑するエミリアとは裏腹にヨハネスは笑顔を振りまき国王陛下と王太子の元に向かった。


『ご無沙汰しております』

国王陛下にヨハネスが挨拶をすると国王陛下も歓迎の言葉を発し笑っている。
今度は王太子に手を差し出すとヨハネスは

『お初にお目に掛かります。マドリン王国王太子のヨハネスです。こちらは我が国筆頭公爵家令嬢のエミリアです。此度は宜しくお願いします』


丁寧に紹介までされたエミリアは開き直り見事なカーテシーを披露したのである。


『こちらこそ宜しく。マドリン公爵令嬢にとって良き時間となるよう我が国も尽力することをお約束しますよ。』


にこやかにに微笑む王太子とヨハネスは固く握手を交わしエミリアの試練は終わった。


…やれやれだわ。



どっぷり疲れたエミリアとは違い元気満タンのヨハネスはリア王国に泊まる事無くマドリン王国へと帰って行った。


…とんぼ返りってこのことね。


エミリアは目の前の憂鬱を終え明日からの学園に思いを馳せるはずがまたも憂鬱に襲われるのであった。


…王太子なんて聞いてないし



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