記憶を無くした公爵夫人【完】

mako

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絡み合う心

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アーノルドとレオンハルトは共に第1王子と第2王子の側近であるがほとんど接点がなかった。

その二人が共に力を合せ、扉を蹴り倒している。
どれだけ時間が経った頃だろうか、やっと重い扉は破られた。


そこを悠々と通り中に入るアラン。目の前の残骸を拾い横に投げるとソファに腰を下ろした。


『アラン、何している?』

第1王子は怪訝そうに問うと


『兄上、それはこちらのセリフですが?』


‥。


『兄上のやっている事は誘拐ですよ?』


第1王子は腰を下ろしていたベッドから立ち上がり


『私は第1王子だ!』


『それが?』


アランは被せる様に話す。

『この事が父上に知れたらどう思われるでしょうね?』


第1王子は怪訝そうに

『脅すのか?』


アランは鼻で笑うように

『まさか。』

そして尚も続ける。


『アルベルタは公爵夫人ですよ?』


第1王子は

『しかしレオンハルトはアルベルタを放置し白い結婚を貫いておろう?そして離婚するつもりだ。その後は私が娶ったとて何の問題もないであろう?』


『その後であれば、そうですね。ですがまだその時ではありませんよ?』


『だがアルベルタは苦しんでおるのだ!』

声を上げる第1王子に


『今のアルベルタの姿を見て、幸福感は感じませんが?』


一斉に部屋の隅に座るアルベルタを見る。


『アルベルタ、すまない。』


声を絞り出すのアーノルド。

『私は、殿下の性癖に呆れながらも殿下に寄り添う様に殿下の性癖を理解するためにお前を利用したのだ。

そうしているうちに、自分でも分からないが殿下の気持ちが分かるようになっていき、自分も知らない自分が居た。誤って許される事では無いが‥申し訳ない。』


頭を下げるアーノルドに


『お、お前!何を言っている?気は確かか?アランにのりかえたか?』

声を上げる第1王子にアーノルドは首を振り


『私は殿下が私の首を切るまで、生涯殿下にお仕えしたいと思っております。』


アーノルドは第1王子に最上級の礼を取る。

第1王子はアランに視線を流し


『アラン、お前は王太子の椅子が欲しいのか?』


アランは真っすぐに第1王子を見据え


『そのような事を考えた事は1度もありませんよ。』


第1王子はフッと鼻で笑う。

『ならば何故ここに来た?鬼の首でも取るように。』


アランもフッと鼻で笑う。

『アルベルタですよ。私は何の興味もありませんが、私の側近の妻ですからね。』


第1王子は目を伏せ

『お前はいつだってそうだ。私の大切な物を欲しがる。お前がここに居るのもアーノルドであろう?それに今度はアルベルタまで。私の大切な物を取り込んでいくのだ。』


アランは目を伏せ


『アーノルドの忠誠をお聞きになったでしょう?それにアルベルタは私のタイプではありません。』


アランはぐっと目を開き第1王子に問う。


『さあ、兄上。このまま力を使いアルベルタをご自分のものとし王宮を去るか、アルベルタを諦め立派な王太子となるか。どうなさいますか?』


第1王子は声を上げて笑った。

『アハハハ!ほら見ろ。それが本音だ。だがなそうはさせん。私は第1王子。王太子となるべくこの立場に居る。』


『そうですね。ですが今、父上に私が王太子になる準備があると話せばどうなります?王宮では兄上の性癖に危惧している者も居る。フェイクとも知らずにね』


目を見開く一同。


『兄上はいつだってそうだ。私が欲しがる物を最後にはお譲りになる。だからこそ、有りもしない性癖に狂っておられる真似をし王太子の椅子を私のものとしようとしている。


ですがそんもの要りませんよ!一度だってそんな事考えた事もなければそんな動きをしたこともない。私は生涯兄上をお支えする身であります。』


第1王子はじっとアランを見つめる。
長い沈黙の後、第1王子は口を開く。


『私はお前とレオンハルトの仲を羨んでいた。心を通じあわせ側近であり親友だ。お前たち2人が力を合わせれば私など太刀打ちできないであろう。

だから私は所詮生まれながらの王太子となる操り人形だ。そんな中、アルベルタがお人形と揶揄されているのを知り、拠り所としていたのかもしれない。』


『殿下、私は殿下にお仕えしている事、誇りに思っております。』


アーノルドが声を絞り出すとアランが付け加える。


『アーノルドは言っておりました。兄上と同じように私とレオンハルトの仲が羨ましいと。

私達を見る眼差しから兄上は勘違いをされたのでしょうね。ですがアーノルドは私に眼差しを送っていたのでは無く、私とレオンハルトの仲に送っていたのです。兄上ともこういう関係性を築きたいと願って。』

第1王子はアーノルドを見るとアーノルドも第1王子に頷く。

アランは続ける。


『アーノルド、先程兄上は言っていたな?私から大切な物を奪おうとすると‥。その大切な物とは、お前だ。アーノルド。

全く、揃いも揃って拗らせまくって‥

まあ、兄上の性癖はフェイク。それを共感したくて試した結果、お前だけが狂っておったのだがな。』

アランは優しく笑うとアーノルドは苦虫を噛み潰したような顔をして俯いた。


第1王子は大きく息を吐き


『アラン、お前はいつだってそうだ、私から奪うと見せかけ最後には私に譲るのだ。』

『では、我々兄弟は共に譲り気質なのですね?』


そう言うと、何年ぶりだろうか2人は屈託なく笑った。


『なんだ、こちらのご兄弟もしっかり拗らせておったのではないか!』


レオンハルトも同じく声を上げて笑った。


『妻を娶った後も向きあう事なく、公爵も十分拗らせておりますがね‥』


アーノルドはレオンハルトを軽く睨み付ける。


『お前が言うな!』


レオンハルトは心外という風に笑う。

2人の王子と2人の側近の笑い声に、その声よりも高い笑い声が加わり、ハモる笑い声が聞こえると4人は部屋の隅でちょこんと座るアルベルタを見た。


アルベルタが笑っていた。アルベルタは立ち上がりアランに声を掛けた。

『殿下、一言よろしいですか?』


アランは驚きながらも

『何だ?』

アルベルタを覗き込むと


『先程からアルベルタには興味が無いやらタイプでは無いやら仰っておられましたが、申し訳ありませんが私とて同じでございます!』


斜め上からの言葉に一同が笑いがおこる。

『アルベルタが平常運転だ!』

レオンハルトが嬉しそうに声を上げると第1王子は
アルベルタを見る。

アルベルタは微笑みを返すと第1王子はレオンハルトに

『今はまだ時期ではないからな。手を引くが時期が来たら遠慮なく力を使うからな。』


そう言うとアランに視線を移し

『これで良いな?』


アランは笑いながら

『もちろんです。公爵夫人でなくなればご自由に。付け加えますと私はタイプではありませんがね。』


この日1番の笑いがこの場を包み込んだ。
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