記憶を無くした公爵夫人【完】

mako

文字の大きさ
29 / 31

絡み合う心

しおりを挟む
アーノルドとレオンハルトは共に第1王子と第2王子の側近であるがほとんど接点がなかった。

その二人が共に力を合せ、扉を蹴り倒している。
どれだけ時間が経った頃だろうか、やっと重い扉は破られた。


そこを悠々と通り中に入るアラン。目の前の残骸を拾い横に投げるとソファに腰を下ろした。


『アラン、何している?』

第1王子は怪訝そうに問うと


『兄上、それはこちらのセリフですが?』


‥。


『兄上のやっている事は誘拐ですよ?』


第1王子は腰を下ろしていたベッドから立ち上がり


『私は第1王子だ!』


『それが?』


アランは被せる様に話す。

『この事が父上に知れたらどう思われるでしょうね?』


第1王子は怪訝そうに

『脅すのか?』


アランは鼻で笑うように

『まさか。』

そして尚も続ける。


『アルベルタは公爵夫人ですよ?』


第1王子は

『しかしレオンハルトはアルベルタを放置し白い結婚を貫いておろう?そして離婚するつもりだ。その後は私が娶ったとて何の問題もないであろう?』


『その後であれば、そうですね。ですがまだその時ではありませんよ?』


『だがアルベルタは苦しんでおるのだ!』

声を上げる第1王子に


『今のアルベルタの姿を見て、幸福感は感じませんが?』


一斉に部屋の隅に座るアルベルタを見る。


『アルベルタ、すまない。』


声を絞り出すのアーノルド。

『私は、殿下の性癖に呆れながらも殿下に寄り添う様に殿下の性癖を理解するためにお前を利用したのだ。

そうしているうちに、自分でも分からないが殿下の気持ちが分かるようになっていき、自分も知らない自分が居た。誤って許される事では無いが‥申し訳ない。』


頭を下げるアーノルドに


『お、お前!何を言っている?気は確かか?アランにのりかえたか?』

声を上げる第1王子にアーノルドは首を振り


『私は殿下が私の首を切るまで、生涯殿下にお仕えしたいと思っております。』


アーノルドは第1王子に最上級の礼を取る。

第1王子はアランに視線を流し


『アラン、お前は王太子の椅子が欲しいのか?』


アランは真っすぐに第1王子を見据え


『そのような事を考えた事は1度もありませんよ。』


第1王子はフッと鼻で笑う。

『ならば何故ここに来た?鬼の首でも取るように。』


アランもフッと鼻で笑う。

『アルベルタですよ。私は何の興味もありませんが、私の側近の妻ですからね。』


第1王子は目を伏せ

『お前はいつだってそうだ。私の大切な物を欲しがる。お前がここに居るのもアーノルドであろう?それに今度はアルベルタまで。私の大切な物を取り込んでいくのだ。』


アランは目を伏せ


『アーノルドの忠誠をお聞きになったでしょう?それにアルベルタは私のタイプではありません。』


アランはぐっと目を開き第1王子に問う。


『さあ、兄上。このまま力を使いアルベルタをご自分のものとし王宮を去るか、アルベルタを諦め立派な王太子となるか。どうなさいますか?』


第1王子は声を上げて笑った。

『アハハハ!ほら見ろ。それが本音だ。だがなそうはさせん。私は第1王子。王太子となるべくこの立場に居る。』


『そうですね。ですが今、父上に私が王太子になる準備があると話せばどうなります?王宮では兄上の性癖に危惧している者も居る。フェイクとも知らずにね』


目を見開く一同。


『兄上はいつだってそうだ。私が欲しがる物を最後にはお譲りになる。だからこそ、有りもしない性癖に狂っておられる真似をし王太子の椅子を私のものとしようとしている。


ですがそんもの要りませんよ!一度だってそんな事考えた事もなければそんな動きをしたこともない。私は生涯兄上をお支えする身であります。』


第1王子はじっとアランを見つめる。
長い沈黙の後、第1王子は口を開く。


『私はお前とレオンハルトの仲を羨んでいた。心を通じあわせ側近であり親友だ。お前たち2人が力を合わせれば私など太刀打ちできないであろう。

だから私は所詮生まれながらの王太子となる操り人形だ。そんな中、アルベルタがお人形と揶揄されているのを知り、拠り所としていたのかもしれない。』


『殿下、私は殿下にお仕えしている事、誇りに思っております。』


アーノルドが声を絞り出すとアランが付け加える。


『アーノルドは言っておりました。兄上と同じように私とレオンハルトの仲が羨ましいと。

私達を見る眼差しから兄上は勘違いをされたのでしょうね。ですがアーノルドは私に眼差しを送っていたのでは無く、私とレオンハルトの仲に送っていたのです。兄上ともこういう関係性を築きたいと願って。』

第1王子はアーノルドを見るとアーノルドも第1王子に頷く。

アランは続ける。


『アーノルド、先程兄上は言っていたな?私から大切な物を奪おうとすると‥。その大切な物とは、お前だ。アーノルド。

全く、揃いも揃って拗らせまくって‥

まあ、兄上の性癖はフェイク。それを共感したくて試した結果、お前だけが狂っておったのだがな。』

アランは優しく笑うとアーノルドは苦虫を噛み潰したような顔をして俯いた。


第1王子は大きく息を吐き


『アラン、お前はいつだってそうだ、私から奪うと見せかけ最後には私に譲るのだ。』

『では、我々兄弟は共に譲り気質なのですね?』


そう言うと、何年ぶりだろうか2人は屈託なく笑った。


『なんだ、こちらのご兄弟もしっかり拗らせておったのではないか!』


レオンハルトも同じく声を上げて笑った。


『妻を娶った後も向きあう事なく、公爵も十分拗らせておりますがね‥』


アーノルドはレオンハルトを軽く睨み付ける。


『お前が言うな!』


レオンハルトは心外という風に笑う。

2人の王子と2人の側近の笑い声に、その声よりも高い笑い声が加わり、ハモる笑い声が聞こえると4人は部屋の隅でちょこんと座るアルベルタを見た。


アルベルタが笑っていた。アルベルタは立ち上がりアランに声を掛けた。

『殿下、一言よろしいですか?』


アランは驚きながらも

『何だ?』

アルベルタを覗き込むと


『先程からアルベルタには興味が無いやらタイプでは無いやら仰っておられましたが、申し訳ありませんが私とて同じでございます!』


斜め上からの言葉に一同が笑いがおこる。

『アルベルタが平常運転だ!』

レオンハルトが嬉しそうに声を上げると第1王子は
アルベルタを見る。

アルベルタは微笑みを返すと第1王子はレオンハルトに

『今はまだ時期ではないからな。手を引くが時期が来たら遠慮なく力を使うからな。』


そう言うとアランに視線を移し

『これで良いな?』


アランは笑いながら

『もちろんです。公爵夫人でなくなればご自由に。付け加えますと私はタイプではありませんがね。』


この日1番の笑いがこの場を包み込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

「結婚しよう」

まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。 一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

戸を開いたその先に。~捨てられ縫い姫は、貧乏進士(実は皇帝)に溺愛される~

若松だんご
恋愛
――すまない! 少し休ませてもらえないか! 今日は、門の前で訪れる男性を待つ日。「婿取りの儀式」 門を開け、招き入れた男性を夫とする。 そんなしきたりに従って、家の裏門で訪れる予定もない相手を待っていたのだけれど。 ――すまない。連れの具合が良くないんだ。 やや強引に、ぐったりした連れの少年を抱えて入ってきた青年。 十のときに母が亡くなり、父が連れてきた義母と異母姉。 実の娘なのに、屋敷の隅に追いやられ、もっぱら縫い物ばかりさせられていた。 その上、幼い頃からの許嫁だった人からも婚約破棄され、彼は異母姉の夫となった。 「こんな男を夫にするのか!」 彼らに出会ったことで、父親から勘当されたリファ。 そんな彼女を助けてくれたのは、今日が婿取りの儀式だと知らず飛び込んできた青年。 ――身の振り方が決まるまで。 妻にする気はない。自由にして構わない。 セイランと名乗った青年は、頼る先のないリファに、とりあえずの暮らすところを提供してくれた。 地方から省試を受けるため上京してきたというセイラン。彼の従者で、弟みたいな少年、ハクエイ。 彼らと暮らしながら、少しずつ自立のために縫い物仕事を引き受けたり、彼らのために家事に勤しんだり。 家族に捨てられ、婚約者からも見捨てられ。 悲しみに、絶望しかけていたリファは、彼らと暮らすことで、少しずつその心を癒やしていくけれど。 ――自立。 いつかは、彼らと別れて一人で暮らしていかなくては。いつまでも厚情に甘えてばかりいられない。 そう思うのに。 ずっとここで暮らしていたい。ハクエイと、……セイランさんといっしょに。 ――彼女の境遇に同情しただけ。助けたのは、ちょっとした義侠心。 自分の運命に、誰かを巻き込みたくない。誰かを愛するなんてことはしない。 そう思うのに。 ずっとここで暮らしていたい。ただの進士として、……彼女といっしょに。 リファとセイラン。 互いに知らず惹かれ合う。相手を知れば知るほど、その想いは深まって――。 門を開けたことで、門をくぐったことで始まる、二人の恋の物語。

白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。 だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。 異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。 失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。 けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。 愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。 他サイト様でも公開しております。 イラスト  灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様

拾った指輪で公爵様の妻になりました

奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。 とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。 この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……? 「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」 公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

【完結】婚約破棄された令嬢の毒はいかがでしょうか

まさかの
恋愛
皇太子の未来の王妃だったカナリアは突如として、父親の罪によって婚約破棄をされてしまった。 己の命が助かる方法は、友好国の悪評のある第二王子と婚約すること。 カナリアはその提案をのんだが、最初の夜会で毒を盛られてしまった。 誰も味方がいない状況で心がすり減っていくが、婚約者のシリウスだけは他の者たちとは違った。 ある時、シリウスの悪評の原因に気付いたカナリアの手でシリウスは穏やかな性格を取り戻したのだった。 シリウスはカナリアへ愛を囁き、カナリアもまた少しずつ彼の愛を受け入れていく。 そんな時に、義姉のヒルダがカナリアへ多くの嫌がらせを行い、女の戦いが始まる。 嫁いできただけの女と甘く見ている者たちに分からせよう。 カナリア・ノートメアシュトラーセがどんな女かを──。 小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。

処理中です...