記憶を無くした公爵夫人【完】

mako

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残された課題

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和やかな雰囲気で屋敷を後にした面々。

レオンハルトとアルベルタを乗せた馬車がゆっくりと王都に帰っていく。


‥。先程までの雰囲気とは裏腹に馬車の中の空気は重い。気まずそうな2人を他所に王都に入った馬車の外は賑わいをみせている。

『何か食べていくか?』

レオンハルトの問い掛けにアルベルタは

『私は公爵邸に戻ってもよろしいのですか?』

レオンハルトは窓の外に視線を向けガラスに映るアルベルタを見た。

アルベルタもまた窓から外を眺めていた。
2人で窓の外を眺めながらの話し合い。


『いいも悪いも無いであろう?お前の家ではないか?』

『‥。』



長い道のり、二人が交わした会話はこれだけであった。





馬車が公爵邸に付くと使用人達が庭まで出てきている。ナターシャはアルベルタを見ると涙を浮かべながら駆け寄った。


『奥様!お待ちしておりました!ご無事で何よりです!』


セバスチャンはレオンハルトに耳打ちをして、レオンハルトは黙って頷く。その様子を見たアルベルタはそっと視線を外した。



アルベルタが私室に戻ると部屋の様子がガラリと変わっていた。

『急ぎ用意させたものだから気に入らない所があれば言ってくれ。』

レオンハルトはアルベルタを見ず話す。アルベルタは部屋に困惑し言葉が見つからない‥。


アルベルタが塞ぎ込んでいた時、連日レオンハルトがアルベルタの部屋に来やすい様にか、2つの部屋を結ぶ扉が壊されてはいたが、今は壁まで取り壊され1つの大きな部屋となっている。その奥に続くレオンハルトの執務室とアルベルタの執務室が用意されていた。

目をパチクリさせているアルベルタに視線を送りレオンハルトは息を長く吐き出した。


『その、今まで悪かったと思っている。私自身よくわからないが、その、結婚とやらには向いていないタイプであったのだと思う。』

アルベルタの心の中にはクズだったレオンハルトに対する怒りなど微塵もない。自分もお人形の様な人間であったのだ。


『私も同じく向いていないのかもしれません。』


アルベルタは小さく言葉を吐き出した。

『お気遣いには感謝いたしますが、私としては以前のままで結構です‥。旦那様も気にせず今まで通りで大丈夫ですよ?』


レオンハルトは固まる。
自分の思い通りに令嬢を扱ってきた事しかないレオンハルトにとって、自分の筋書きから離れた回答に言葉が出てこない。


『‥その、白い結婚の後、離婚をし第1王子をって事なのか?』


アルベルタにとって、それこそ斜め上からの問い掛けにギョッとしながら

『え?いいえ、旦那様がお許し頂けるのであればここのみんなと一緒に暮らしていきたいと思ってます。‥今まで通り。』


レオンハルトは何故だか少し安堵すると

『今まで通りは少しおかしくはないか?』

アルベルタは微笑みながら

『私たちはそれが日常でしたわ。』

平行線の会話に若干苛立ちを覚えたレオンハルト。

『だからこれからは普通の夫婦に』

『旦那様、何も無理をなさらなくても。』





『無理などしていない!私がそうしたいから。』

声を荒げるレオンハルトにアルベルタは目を見開く。


『悪い、驚かせるつもりは無かった。』

レオンハルトはアルベルタに背を向けた。





『私は真の公爵夫人になる資格はございません。

私は汚れています。
もし旦那様がその普通のご夫婦を望まれるのであれば私を切り捨てて頂いて結構です。』


アルベルタは俯きながら声を絞り出した。



レオンハルトは真っすぐにアルベルタを見据える。
無言で射抜く目力は半端ない。

碧眼の瞳が鋭く、彫りの深い顔が表情をなくしている分、余計に際立ちを放っている。


『君は汚れていると言うが、君が汚れていたら私はもっと汚れている。それに君の純潔は証明されているではないか?』

顔を合わせる事が出来ないアルベルタは真っ赤になり俯いたままである。


レオンハルトはテーブルの冷めきったお茶をアルベルタの腕にそっと掛けた。驚き見上げるアルベルタ。

レオンハルトはアルベルタを浴室に連れて行き腕を石鹸で洗う。意味のわからないアルベルタはされるがままレオンハルトを眺めている。



『さあ、キレイになった。こういう事だろ?汚れた所を私は水でキレイにした。アーノルドは舌でキレイにした。それだけだ。犬にでもキレイにしてもらったと思っておけばよい。』

アルベルタは強引なレオンハルトを小さく睨み付けると

『そんな事!』


『出来ないのか?』


レオンハルトはアルベルタの頭上にあるシャワーの蛇口をひねると勢い良くお湯が飛び出し2人はずぶ濡れとなり、またもアルベルタは目を見開きレオンハルトを見上げる。


レオンハルトは黙ったまま、石鹸でアルベルタを頭の先から足の先まで泡だらけにして洗う。アルベルタは驚き声も出ない。ただ目の前のずぶ濡れになったレオンハルトの色気に胸が熱くなっていた。


レオンハルトは優しく洗い流しながらアルベルタの水を含み重くなっているドレスを丁寧に剥がしていく。レオンハルトが醸し出す空気間の中アルベルタは抵抗すら出来ず寧ろレオンハルトから目が離せなかった。


レオンハルトは細かい泡でアルベルタの素肌を撫でる様に洗っていく。何も付けていないアルベルタの敏感な所も優しく洗っていくとアルベルタはレオンハルトにしがみつく。

レオンハルトは小さく微笑み、器用にも片手で自分の重くなったシャツを脱ぎ捨てアルベルタに素肌を重ねた。


アルベルタは感じた事のない心地よさと安心感を覚えた。レオンハルトの背中に手を回し眼を閉じる。

レオンハルトは石鹸で滑りが良くなってた指先でアルベルタを快感へと導く。小さく漏れる息を漏らさぬ様に手で口を覆うアルベルタ。

レオンハルトはアルベルタの耳元で囁くように


『隠すな、思いは全て私に吐き出せばよい。』


アルベルタは堪えきれずレオンハルトにしがみつくとレオンハルトは優しく包み込んだ。

レオンハルトの指先はアルベルタの敏感な所を責め立てるとアルベルタは背中を大きく反らす。レオンハルトの目の前にはアルベルタの美しく胸が広がる。その胸をレオンハルトは優しく舐めあげる。


アーノルドに舐め尽くされていた時はあれ程までに苦痛で恐ろしい時間であったが、今のアルベルタには幸せでしかない。それが何を意味するかは既にアルベルタは知っている。


これが愛しているという事なのだ。


優しくアルベルタを洗い上げていたレオンハルトであったが、こちらも余裕は無くしてしまっている。

『アルベルタ、真の公爵夫人となってくれるか?生涯君だけだ。っ約束する。』

絞り出す言葉にアルベルタは顔を歪めながらも必死で答える。

『はいっ』


こうして2人は名実ともに夫婦となり1つになった。









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