反主流派の公爵令嬢ですが何か？【完】

一筋の光

来た時よりも肩を落とすアナベルにミハエルは小さくため息をつき立ち上がると自らが茶を淹れアナベルに差し出した。

『素敵ですわ。だからあの時…』


『あの時？』


『私が媚薬に侵されていた時ですわ。貴方は私や父上が第3王子の妃の椅子を狙っていると勘違いしていた時、珍しく声を荒げられた。それは貴方とマリアンナ様の仲を我々が裂こうとしていると感じたのですね。』


『…。』


『真実の愛ですわね。』


…。


『真実の愛か…。じゃあ君は兄上の君への想いは真実の愛ではないと言うのか？』


アナベルは至極当然とでも言うように


『それはそうでしょう。リルム王国王女の娘で公爵令嬢。国内外に与える影響を考えたのでしょう？現に帝国としてのトゥモルデンが誕生するにリルム王女の娘というのが切り札になったとか？もちろん私もお役に立てた事は嬉しいですけど、それ以上もそれ以下でもありません。その令嬢がたまたま幼い時にランドルフ殿下のプロポーズゲームの影響でお花を贈ったのが私だった。初恋が駒としても役に立つなんて殿下は持ってる人なんでしょうね。』

まるで他人事のように話すアナベルにミハエルは怒りを顕に


『では私がマリアンナに贈った花もゲームだと？』


『いいえ、貴方の愛は本物ですわ。』


『ならば何故兄上が本物でないと言い切れるのだ？そもそもね君がのんきに引きこもり令嬢していられたのは誰のおかげだと思ってるの？もちろん公爵の根回しもあったけれどそんなもの王命１つで何とでもなるんだ。それに君の媚薬事件の時にノコノコ現れた伯爵令息。彼もある意味被害者だ。その彼今何やってると思う？』


…まさか？処罰されてるの？


確かに思い出したくも無い男だが、彼もミハエルの言う通り被害者の1人。


『彼はね今、兄上の側に控えているんだ。』


『はぁ？』


『何故だと思う？』


アナベルは頭を逡巡させるも答えは見つからない。


『兄上の側に仕えれば、君の事を口外することが出来ないからだよ。そして近くで君の働きを見て入れば自分が振り回された噂など信じる価値も無い事を身を以て分かるだろう？兄上はそういう人なんだ。自分で気付かせる事の大切さを知ってるんだろうね。わかるかな？君が何をどう勘違いしているかは知らないけれど…これも見えない所に愛だよね？』


『見えない所に愛…。』


アナベルは熱がさぁ～と冷めていき心が軽くなるのが分かった。


…。


『そろそろ眠れそうです。』


ミハエルは苦笑いを浮かべながら


『良い夢を…』


『はい、また来ます。…お兄たま♡』


ミハエルは椅子からずり落ちそうになりながらもアナベルの後ろ姿を見送った。


…いやいや弟だけどな？ってか俺は悩み相談所じゃないし！


『勘弁してくれよ。』


ミハエルもまた私室に戻るべく扉を開けると両側の衛兵が頭を垂れた。


静まり返る廊下に歩みを進めるとミハエルは振り返り衛兵に口を開いた。


『今夜、ここに誰か訪ねてきたか？』

衛兵は間髪入れず


『いいえ、どなたもいらしておりません。』


ミハエルは満足気に口角を上げると


『そうか。…なかなか優秀で助かるよ。』


それだけ言うと踵を返して私室へと歩みを進めた。


『勿体ないお言葉。』


後ろで聞こえる声を背中で聞きながらミハエルは１つ頷いた。