反主流派の公爵令嬢ですが何か？【完】

カイン・カサンドラの思惑

アナベルはカインの言葉につばを飲んだ。

…なに？脅されてるの？

エレナを案じて見ると、当の本人はハッとしたように笑顔になった。

…へ？


『分かればいいんだ。』

再び王太子スマイルを量産すると、席を立ち窓辺へ移動した。


…。


振り返るカインは満面の笑みで

『君は皇太子妃だと言ったね？ならば皇太子にボロ雑巾のように捨てられたエレナ嬢が可愛そうだと思わない？』

『ボ、ボロ雑巾だなんて！そもそも捨てるも何もエレナ様と殿下はそのような関係ではございませんでしたわ！』

『まぁそう思いたい君の気持ちも分からなくはない。』


…。


カインはにこやかに、そして尚も続けた。


『トゥモルデン皇太子の考え方は甘い、甘すぎるよ。』


『対局でしたものね？』


『君はまだ彼がどんな男か分かっていないんだ。だいたいね、旧帝国が混乱の中、一気に乗っ取るなんて…そのくせきれい事を並べる。本当始末に追えない。』


『カイン様？貴方はどうなさりたいの？何の為にこんな所で時間を潰してるのかしら？だいたい一国の王太子になろうお方が他にやるべき事があるのでは？』


『今、その最中だ。私のやるべき事は１つ。王太子妃を連れて帰る事だ。』


アナベルは真っ直ぐ射抜くカインの眼差しに怯みながらも何とか笑顔を作った。


『カイン様？貴方はエレナ様とよく似ていらっしゃいますのね。』


『侮辱かな？』


2人の会話についていけないエレナは目の前の、自ら公言していた美味しいお茶のお菓子を頬張っている。

『エレナ嬢、さぁマナーの授業が始まるよ？早く用意して先生を迎えなきゃだね。』

カインのまるで子どもをあやすかのような言葉にエレナはピョンの立ち上がり部屋を後にした。

…まだウサギさんのようだわ（泣）


その背中を見送るとアナベルは声を落として


『貴方、エレナ嬢を騙しているのね？』


カインはニヤリと笑うと


『どっかの皇太子と同じだろ？嘘はついちゃいない。だいたいね、貴族令嬢の端くれにも置けないような彼女を王太子妃どころか側妃にも置けない事くらい君だって分かっているだろう？』


…そりゃあ、誰よりも苦労しましたからね？


押し黙るアナベルにカインはお茶を勧めた。

『まぁ落ち着いてからゆっくり話そう。』


アナベルは心の落ち着きを取り戻すべきカップを手に取った。ローズヒップの色鮮やかなお茶を口に含むとアナベルはクスクスと笑い出した。不思議そうに見守るカインにアナベルは

『カサンドラ王国は何やら相当に厳しい状態なのですね？』


この日初めてカインが真顔を見せた。


『だってそうでしょう？こんなくだらない事をしているのは相当に暇か、相当に困っているか？カイン様の性格からして間違いなく後者だわ。』


引きつりながら笑顔を作るカインは


『別に困ってはいないよ。カサンドラは今や次の帝国と言われているのを知らないかな？』


『それが？』

驚いたように固まるカインにアナベルは

『なるほどね。』



カインはアナベルを睨見つけると

『君は嫌な性格なんだな。その自分は全て分かりましたって得意気な顔…。』

カインはこめかみを押さえアナベルを見つめた。


『そうでしょう？嫌な奴なのです。分かったら、さっさとお戻りになられては？』



『まぁ、そんな強気で居られるのも今のうちだよ？』


…？


『そういえば君、白い結婚なんだろ？』


！


目を見開くアナベルを嬉しそうに眺めるカイン。


『その反応は真実を物語ってるね（笑）帝国には我が国のスパイも沢山いるからね？でも大丈夫。私の妃になればそんな寂しい思いはさせないよ？』

アナベルはソファから立ち上がるカインを怯みながら見上げた。


『大丈夫、これでも私は紳士だから（笑）』


…。ヤバい。眠気が半端ないわ。


睡眠薬の効き出した頃合いを見てカインはアナベルを軽々と担ぐと部屋を後にした。