夏の金色のスター・フロント

mitsuo

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3章

ミュージアムと葬式船

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 まだ暑い九月のはじめでも、朝の空気はひんやりしている。
 だけど僕たちのまわりは、それさえはねかえしてしまうほどの熱気につつまれていた。
「ライっ、がんばって!」
 昨日と同じ公園で、エアサイクルに乗ったライに声を飛ばす。ライもそれにこたえるようにしっかりハンドルをにぎるけれど、バランスをくずして転んでしまう。
 僕はあわててかけより、ライの顔をのぞきこむ。ライはすぐに土のついた顔をあげて、たのもしい笑顔をみせた。
「むずかしいんだね。エアサイクルって」
「うん。小型の重力低減装置が組みこまれているから、少ない力で前に進めるんだけど、基本的な形は一〇〇年以上前の自転車とほとんど変わらないんだ。きちんと乗れるようになるには、いっぱい練習しないといけないんだよ」
「そうなんだ。じゃあ、がんばるよ」
 ライはそばにたおれている自転車のハンドルをつかみ、力をこめて持ちあげる。たぶんこんなに汗をかいたことはないだろうけど、気にしていないようだった。
 これだけの根性があったら、乗れるようになるまでそんなに時間はかからないだろう。
「おーい、大丈夫かあ?」 
 藤彦兄ちゃんの声がして、僕たちは同時にふり返った。
 兄ちゃんは白い半袖のワイシャツに、スーツの黒いズボンをはいている。役場に出勤するとちゅうで、ようすを見にきてくれたらしい。
「きっとだいじょうぶだよ。まだうまくいってないけど、乗りたいって気持ちが強いから」
「ふうん。ミュージアムに行くだけなのに、ずいぶんと熱心なんだな」
 となりに立った藤彦兄ちゃんの言葉に、僕はどきりとした。
「そ、そうだね…はやくミュージアムに行って、いっぱい勉強したいんじゃないのかな?」
「へえ。そりゃあ立派だ」
 藤彦兄ちゃんが、僕の肩にぽんと手を乗せる。
「たのむぞ紀一。昨日も言ったけど、あんまり無理はするなよ」
 トーンの低い、ちょっと怖い声だった。それから藤彦兄ちゃんは背中を向けて、公園を出て行く。だけど僕はまだ、すごくドキドキしていた。葬式船探しのことが、ばれたんじゃないかと思ったからだ。
 昨日の夜。ライとうちとけた僕はすぐに、藤彦兄ちゃんにスケジュールを伝えた。
 でもその内容は、僕たちが実行するものとは少しちがっていた。近海町のはずれにあるミュージアムに行って、近海町についてたっぷり勉強するというものだった。
 本当の計画を話したほうがいいんじゃないかって、何度も迷った。だけど町の将来がかかった留学生と葬式船をさがすなんて予定はすぐに反対されそうだったし、そうなるとライの目的ははたせないことになってしまう。
 藤彦兄ちゃんはまじめすぎるスケジュールを少しあやしんでいたけど、「いいだろう。自分たちで決めたことなら」と言ってゆるしてくれた。
 しかもトラムが通っていないミュージアムに行くため、ライ用のエアサイクルまで準備してくれた。だけど移動するためには、ライに乗れるようになってもらわないといけない。
 早朝にはじまったエアサイクル特訓は、朝ごはんをはさんで三時間をこえていた。
「ライッ、怖がっちゃだめだ!足に力を入れて、しっかり前に進まないと!」
 僕のアドバイスを聞いて、ライがしっかりとペダルをふみこむ。するとふるえていたエアサイクルがぴんとたてにのびて、すうっと前に進んだ。
 ライが笑い、もう一度ペダルをふみこむ。さっきよりも速く、力強く前進する。すっかりコツをつかんだらしく、楽しそうに公園をぐるぐるとまわりはじめた。
 これでもう、だいじょうぶみたいだ。確信した僕は、自分のエアサイクルをとってくるために自分の家にもどった。
 お屋敷に帰ってお弁当や飲み物を持つと、いよいよ行動開始だ。
 石畳の道を、二台のエアサイクルが風のように進む。自転車型の乗り物はデコボコした道は苦手なはずだけど、重力低減装置のおかげで浮いてるような軽やかさだった。
 北街道をにそって、まずは西へ。広い道と交差する交差点に出るたびに、はしっこの看板にかかれた町名は菱屋町、葵町、追分町…と変わっていき、やがて市街地のはじっこである坂本通へ出る。
 とくにはばの広いこの道を北方向に曲がり、大きな井吹山にむかってエアサイクルを走らせると、市街地の日本家屋を何倍も大きくしたようなりっぱな建物が見えてきた。
「あれがミュージアムだよ!」
 後ろを向いてライに伝える。エアサイクルを必死にこいでいるライは、まわりのたてものよりも巨大なその姿におどろいたようだった。
 近海町のミュージアムには町の歴史や文化を勉強できるスペースと、町に関係がある資料を集めた図書室がある。つまり「近海町の総合学習施設」といった感じの建物だった。
 僕たちが最初にここへ来た理由は、悪いけど藤彦兄ちゃんに伝えたスケジュールを実行するためじゃない。
 ミュージアムの図書室にはデジタル資料室というスペースもあって、そこでは新聞や雑誌にのった近海に関係ある記事が読めるようになっている。葬式船が本当にあるのなら、ここで情報を手に入れることができるはずだ。
 資料室のモニターに「ソウシキセン」と打ちこむ。「検索中」の文字が一瞬だけ浮かんだあと、記事のリストがずらっと表示された。
「すごい、こんなにあるんだ」
 僕の言葉に、となりでモニターを見ているライもうなずいた。
 しかも記事がのっている雑誌や新聞の種類には、ローカルのものから全国のものまである。時期は今から二〇年前後が多く、この時にはけっこう大きなニュースになっていたようだ。
 いくつかの記事を画面によびだして読むうちに、その内容がだいたいわかってきた。
 今から二〇年くらい前は琵琶湖でフジヤマの建設が進んでいたころで、このステーションを通じてカグヤとどんな関係をむすんだらいいのかを考えていたらしい。
 カグヤにとって、フジヤマは三番目の地上の玄関口になるそうだ。(日本ではじめてのステーションだから「フジヤマ」という名前になったと、ある新聞記事には書いてある)
 カグヤは日本の企業が中心になってつくられた衛星都市で、住民の半分以上が日本から移り住んだ人たちだった。だから長い間、日本のステーションができるのを待ちわびていたようだ。
 長い時間をかけて、やっと日本のステーションが琵琶湖につくられることが決まった時、カグヤの人はここが「自分たちの心のふるさと」になることをのぞんだそうだ。
 その一つが、カグヤで亡くなった人たちが眠る場所を、この近くにつくってほしいというものだった。つまりフジヤマのエレベーターを、葬式船の航路にしたいっていうことだ。
 亡くなった人たちがおりてくるのだから、誰でも賛成できる話じゃないっていうのもしかたがない。記事には県の人とカグヤの人との間で何度も話し合いが行われていたことや、いろんな地域で反対運動が起こったことが書かれている。葬式船の問題は、カグヤと地上のどちらにとっても難しいテーマだったようだ。
 そこに登場したのが近海町だった。ほかの地域が墓地の建設をいやがる中、近海では町の人たちが中心になって、井吹山にカグヤの人たちの共同墓地をつくることを提案した。
 それだけじゃない。これをきっかけにカグヤの人たちとの交流をむすぶ「スター・フロント計画」を考え、カグヤの人たちとつながる街づくりをめざすことを発表した。
 僕たちと関係あるスター・フロント計画が、こんな時からはじまってたなんてびっくりだ。でもこれで、なんとなくしか知らなかった近海とカグヤのつながりがわかったのはうれしかった。
 それから五年後。完成したフジヤマには、葬式船もおりてくるようになった。あまり話題にはなっていないけど、年に四回ひっそりと琵琶湖におりて、井吹山につくられた墓地でとむらわれているそうだ。
「井吹山なら、ここから一本道だよ。距離はあるけど、だいじょうぶ?」
「だいじょうぶ。がんばる」
 ライの返事は力強い。これで、僕たちが行くべきところははっきりした。
 だけどその前に、ミュージアムの展示も見ていくことにした。あとで藤彦兄ちゃんに質問されて、ライが何もこたえられなかったら困るし。すずしいところで休んでおきたいし。それに…やっぱり少しくらいは町のことを知っておいてほしいと思ったからだ。
 僕たちはエントランスまで戻ると、資料室とは反対にある展示室に進む。
 展示室の中は、大きく三つのエリアにわかれている。
 最初のエリアのテーマは「自然」で、近海の地形や住んでいる生き物が紹介されている。
 その次は「歴史」。ここでは町内で発掘された縄文時代の土器や五〇〇年間の町並みの変化をうつす立体映像などの、近海の歴史について勉強できる展示が続いている。
 二つのエリアをまわり、次の部屋に進む。ライはそこで、今までとちがう反応を見せた。
 三番目のエリアのテーマは「近海祭」。町がひらいてすぐにはじまり、現在まで続いている近海祭に関係がある展示をならべている。
 ガラスケースの中にはお祭りで使う曳山の模型とか、曳山を管理していた商人がまとめた本とか、「近海名所図会(おうみめいしょずえ)」とよばれる三〇〇年以上前のガイドブックとか、とにかく昔のいろんな資料が入っている。
「ここにも、おまつりがあるんだ」
「え、カグヤにもお祭りがあるの?」
「うん。葬式船が地球にのぼる時、僕たちは歌や楽器の演奏で送りだすんだ。その儀式のことを『おまつり』って言うんだよ」
 近海祭とはかなり内容がちがうけど、カグヤにもお祭りがあるってだけで意外だった。
 奥にはガラスでしきられたもっと大きな展示があって、中には昔の曳山に華をそえていた見送り幕や水引幕といった、いろんな装飾品がかざられている。
 ライは豪華なししゅうの一つ一つを、きょうみ深そうに見ながら進んでいった。だけどその先の展示を見た瞬間に、ぴたりと足を止める。
 たしかにその展示は、このエリアで一番目立ってると言ってもまちがいじゃないだろう。
 ガラスの向こうにあるのは、一体の人形だった。
 色の白いおもながの顔。時代劇でよく見る日本髪の上に、大きな冠をかぶっている。鴇色(ときいろ)と白をかさねた着物は、近海伝統のちりめんだろうか。繊細につくりこまれた白い手は、その指よりもほっそりとした金属製の桜の枝を持っている。
「気になる?これはね、高宮町の曳山に乗ってたからくり人形なんだよ」
「ひきやま?からくりにんぎょう?」
 ライがつぶやき、首をかしげた。
「曳山っていうのはお祭りで使う木でできた車のこと。からくり人形は、自分で動いてるように見える機械じかけの人形なんだ。近海祭の曳山の中には、今も昔から動き続けてるからくり人形があるんだよ」
「そうなんだ。この人形は、お祭りには出ないの?」
「そう。このからくりは一〇〇年以上も前に、ちゃんとした動きができなくなったんだよ。本当はあの桜の枝を持って踊ってくれたみたいなんだけど。それから高宮町の山車は、からくり人形も演舞もない『空山(からやま)』になってしまったんだ」
「ふうん」
 ライは高宮のからくり人形をしげしげとながめてから、ズボンのポケットの口をひらく。その中から、トントがひょっこりと顔を出した。
 ライはトントをとり出して、自分の手のひらの上においた。するとトントの目から白い光が出て、からくり人形をてらしだす。
「何やってるの?」
「この人形の中身を分析してるんだ。すぐに終わるよ」
 人形全体に光をあてると、空間表示であるトントの顔が大きくなった。だけどその顔はすぐに、別の画像にきりかわる。
 画像には、からくり人形のシルエットがうつっていた。その内側には、小さい部品や細い線なんかがごちゃごちゃと表示されている。それらはみんな、からくりを動かしていた装置なんだろう。
「糸みたいな部品が、何本か切れているみたいだね」
「そう。人形に細かい動きをとらせるために、糸とか歯車とか、いろんな部品を使ってたんだよ。切れてる部品はとても貴重なクジラのヒゲだから、なおすことができないんだ」
 ライは僕の説明にうなずきながら、からくりの中を熱心に観察していた。たまに指を動かして画像の向きを変えたり、一か所を拡大させたりして。
「カグヤは工業製品をつくる衛星だもんね。こういう機械じかけとか、きょうみあるんだ」
「うん。カグヤの産業ブロックには、地上で再現できなくなった技術をよみがえらせる仕事もあるからね」
 その話は、浅井先生の授業でならった気がする。たしか重力や酸素のない宇宙だからこそつくれる金属とか、鍛造方法(金属を熱くしたりたたいたりして、その形を変える方法のことらしい)っていうのがあるらしい。その力を使うと、地上ではすたれてしまった昔の技術をよみがえらせることもできるそうだ。
 たっぷり見て満足したらしく、ライは「うん」と一人でなっとくして画像をとじる。ボールに戻ったトントをポケットにしまい、歩きだした。
 
 すずしいミュージアムで体力をとりもどし、おまけに勉強もばっちり(?)やった僕たちは、井吹山めざしてふたたびエアサイクルを走らせる。
 どれくらいペダルをこいだだろう?家が少なくなっていって、緑がふえてくる。僕も来たことがないエリアだ。セミの鳴き声が強くなり、ゆるやかな坂道がふえてくると、なんだか心細い気持ちになっていく。
 とつぜん、お寺の看板に並んで「井吹山ケーブルカー」と書かれた看板が目に入る。
 ミュージアムで調べた情報によると、井吹山の中腹にあるお墓へはケーブルカーじゃないと行くことができないらしい。僕はライに声をかけて、看板のとおりに道を曲がった。
 だけどその先は、きつい坂道になっていた。重力のふたんが少ないエアサイクルでも、これはきびしい。しかたないので僕たちはエアサイクルをおして、ケーブルカーの駅まで坂道をのぼることにした。
 うんと顔をあげると、石垣にはさまれた坂道の先にケーブルカーの駅が見えた。あそこまで行くって思うと気が重くなったけど、ライのとなりで文句を言うわけにはいかない。
 どうやらここは、昔からお寺が集まっている地域らしい。ライは何回も顔を左右に動かして、僕たちの住むエリアとは感じのちがう風景をめずらしそうに見ていた。
 どこか近い場所から、お線香のにおいがただよってくる。
 これはお盆の…いや、今の僕にとっては、夏のはじめの出来事を思い出させるにおいだった。僕は下を向いて、少しだけ歩くペースをあげる。今でもまとわりついてくる、悲しい気配を少しでもふりはらうために。
 ケーブルカーっていうのは今から一五〇年くらい前にはやった乗り物で、高い場所の観光地に行くためにつくられたらしい。そのほとんどはかなり昔にすたれてしまったけれど、さすがはわが道を行く近海町。井吹山の中腹に墓地をつくると決めた時、山の上に行く方法として磁力牽引式(じりょくけんいんしき)の最新式ケーブルカーをつくってしまった。
 小さなケーブルカー駅の横にはこれまた小さな駐輪スペースがあって、僕たちはそこにエアサイクルをとめた。   
 駅のまわりには、まったくと言っていいほど人の姿はない。ケーブルカーにはタダで乗ることができて(ここは山の上の墓地といっしょに町が管理している施設だから、お金はいらないらしい)、親切な受けつけの女の人がすぐケーブルカーを出すと言ってくれた。
 受付の奥に進み、急な坂になってるホームに出ると、そこにはもうケーブルカーがとまっていた。だけどドアの前にきたところで、僕ははっと気がついた。
「ねえ、ライ…墓地へ行く方法がこれだけってことはさ、葬式船で亡くなった人たちも、このケーブルカーで運ばれたってことかな?」
「もしかしたらそうかもね。さ、はやく乗ろう!」
 めざす墓地を目の前にしたライには、そんなことはどっちでもいいようだ。僕はライが思っていたより怖いもの知らずだったのにおどろき、別の方法があると願わずにいられなかった。
 僕たちが乗るとすぐにドアがしまり、自動運転のケーブルカーが動きはじめた。
 森の中の斜面を静かにのぼっていく。ライは先頭の窓にぴったりはりついて、いかにも目的地につくのが待ちきれなさそうな感じだ。
 ケーブルカーはすぐに上の駅に到着する。ひらいたドアから入ってきた空気はひんやりしてて、ここだけ先に秋がきているみたいだった。
 駅のまわりは木にかこまれている。僕たちは駅前から続く歩道にそって、坂をのぼりつづける。
 一〇分くらい歩くと、木々の向こうにトンネルの出口みたいな光が見えた。
 坂道が終わると同時に、太陽の光が僕たちをてらす。目の前には、今までとはまるでちがう風景が広がっていた。
 たいらにならされたその場所は短いしばでおおわれて、山の中腹だとは思えないほどしっかりと整備されている。
 その奥には、大きい大きい銀色の塔が一つ。階段のついた円形の広場のまん中にあるその塔は、カグヤの細長い卵型をもっと長くしたような、不思議な形をしていた。
 昔の新聞記事にのっていた写真と同じだ。あれはカグヤの共同慰霊塔。つまり、カグヤの人たちみんなのお墓だ。
「ついたね、ライ」
「うん」
 ふたたび歩きはじめた僕たちの足どりは、さっきよりも早くなっていた。
 山道よりも急な長い階段を、ライが軽快にかけあがっていく。かなり疲れてるはずなのに、そんな元気がどこに残ってるんだろう。不思議に思いながら、僕もそのあとに続いた。
 階段をのぼった先には小さな石碑があって、先に到着していたライがその前にたたずんでいる。碑には大きな水晶の玉がうめこまれていて、空の青をくっきりとうつしだしていた。
 ライはしばらく水晶をのぞきこんだあと、うんと顔をあげて塔の先を見つめた。
「みんな、ここにいたんだ」
 つぶやいたライの瞳には、小さな涙が浮かんでいた。
 すずしい風がふいて、銀色の髪をふわりとゆらす。よばれたようにふり返ったライは、はっと目をひらいた。一体何を見たんだろう?僕もつられて、ライと同じ方を向く。
 「うわあ…」自然と声がこぼれた。
 井吹山の木々の向こうに、エアサイクルをおして通ったお寺の屋根が小さく見える。 
 でも、本当にすごいのはその先だ。近海の中心部は手のひらでつかめるみたいだし、もっと遠くには琵琶湖の深い青が広がっている。僕の知っている世界のほとんどがおさまっているんじゃないかと思えるほど、目の前にある風景は広大だった。
「紀一、見て!地面が金色だよ!」
「え、地面が金色?」
 ライが指さした場所に目をこらす。
 そこは近海の中心部でも琵琶湖でもない、町と町の間にひろがる水田地帯だった。四角くくぎられた田んぼは、一つ一つの色あいがびみょうにちがっている。中にはたしかに、金色に光っているようにも見えるところもあった。
「ああ、あれは稲穂だよ」
「いなほ?」
「そう、お米になる植物のことなんだ。今は早く実のなる品種だけなんだけど、近海祭が終わって秋になると、田んぼはみんな金色になるんだよ」
 ほぅと息をついて、ライはうれしそうに目を細くする。
「じゃあ、あれは?」
 今度はちがう場所を指さす。水平線の上にもくもくと浮かぶ、大きな雲だった。 
「あれは入道雲だよ。夏の空の雲なんだ」
「夏の雲…そっか、これが夏なんだね」
「ああ、カグヤには季節がないもんね。だけどライ、今はちょっと秋がまざっているんだ。空がとても青かったり、セミの鳴き声がうるさいのは夏。だけど風がすずしかったり、稲穂が金色にそまるのは秋なんだよ」
「じゃあ、夏は青で、秋は金色…」 
 じっと景色を見つめているライの顔に、一すじの涙がこぼれた。
 だけどライは泣いているのもかまわず、すぐに僕と顔をつきあわせた。そしてなぜか、深く頭をさげてきた。
「え、どうしたの?」
「地球にこんなきれいな場所があるなんて、しらなかったんだ。カグヤのみんながここで眠れるのは、近海の人たちのおかげだって思ったから」
「そんな…だからっておれいを言わなくてもいいよ。僕がやったわけじゃないんだし」
「そうかもしれないけど、僕にとっては紀一が近海の代表だから」
 言われてみると、たしかにそうだ。まだちょっと迷ったけど、僕はライの言葉を受けいれることにした。そして「ありがとう」と、ライにおれいのおれいを言った。 
 それからライは石碑の前に立ち、両手をあわせて頭をさげる。これは日本のおまいりスタイルとして、ここで僕が伝授したものだ。
「おまいりがすんだら、顔をあげるといいよ」
「顔を?どうして?」
「空を見るんだよ。ご先祖様とか大切な人が、空から見守ってくれてる気がするから」
 それは日本式じゃなくて、僕のオリジナルのスタイルだ。それでも、これはライにも絶対にすすめておきたかった。そうすると、さみしい気持ちがすっと軽くなるから。
「えっと、これでいいの?」
 だけど、ライが不思議そうに顔をあげた時。僕は自分のミスに気がついた。
 そういえば、ライって…あの空の上からきたんだよな。

 おまいりも終わったし、僕たちは階段に腰をおろしてお弁当を食べることにした。
 お墓の前でごはんを食べてもいいのかなって少し心配したけど、きっと大丈夫だろう。ここにいるのはみんなライの家族なんだし、優しく見守ってくれるはずだ。
 そろってランチボックスのふたをあけると、ライのポケットからトントが出てきた。においをかぐように、お弁当に顔を近づける。 
「トントってさ、いつもライの食べ物に顔を近づけるよね?それも、何か意味があるの?」
「食べ物の成分を分析してくれてるんだ。地球の食べ物はカグヤとはちがうものも多いから、体質にあわないものがないかチェックしてるんだって」
 顔をあげたトントの顔が、別のモニター表示にきりかわった。
「あ、食べてもいいって。『ただし高カロリーには注意』って書いてあるけど」
 うれしそうに笑うライを見て、僕もにっこりと笑った。
 お弁当箱には野菜やフルーツも入っている。だけどそれよりもお肉とかフライドポテトとかが強い存在感をはなっていて、独身の藤彦兄ちゃんが僕たちの喜びそうなものをいっしょうけんめい考えてつくってくれたのが伝わってくる中身だった。
 それにしても、トントがここまで便利なペットロボだなんてしらなかった。
 からくり人形の中身を見たり、食べ物の成分を分析したり、いろんな形でライを助けている。もしかしたらライが一人で近海にいれるのも、トントがいるからなのかもしれない。
 ん…一人?僕は急に、大事なことを思い出した。
 そういえば、ライには「先生」って呼ばれている同行者がいるはずなんだ。僕はまだ、一度も会ったことはないけど。
 ずっと気になっていた先生のことを聞くには、今がチャンスかもしれない。そう思ってとなりを見たら、すぐにライと目があった。ライはもっと前から僕を見ていたらしい。
「どうしたの?」
 びっくりして、僕はたずねた。ライは口の中のものをのみこんで、やっと口をひらく。
「紀一。もしかして、何かあった?」
「えっ、先生のこと?」 
 「先生?」ライが不思議そうに目をぱちくりさせて首をかしげる。どうやら先生のことではないらしい。じゃあ、なんだ?
「悲しそうな顔してたでしょ。ケーブルカーまで歩いている時」
 ライの言葉に、僕はおはしではさんだミニハンバーグを落としそうになってしまった。
 あの時のライはずっと、お寺をきょろきょろ見てるだけだと思ってたのに。一人で暗い気分になっていた僕のことも、しっかり観察していたようだ。
 僕が思っているよりもずっと、ライはしっかりした子なのかもしれない。
「じつはね、夏のはじめにつらいことがあったんだ」
「つらいこと?」
 僕は首をたてにふる。無理してかくす話でもないし、ちゃんと打ち明けることにしよう。
「小さいころからお世話になってたおばあさんがいたんだ。小椋さんっていう別の町組の人だったんだけど、お話がすごくじょうずで、近海の歴史にもくわしくてね。ずっとお話を聞かせてもらってたんだ。でも、そのおばあさんが急に亡くなってしまったんだよ」
 口にすると、あの時の気持ちがよみがえってくる。
 いつもより長い梅雨が終わって、やっと夏のきざしがおとずれた七月二七日。これから待っている楽しいことで頭がいっぱいだった時に、その知らせが届いたんだ。
 それを聞いた瞬間、僕の前に広がっていた世界はがらりと色を変えた。あざやかだった湖の青も、山の緑も、町にてりつける光の白ささえ、どこか暗く、うっすらとした灰色の布をまとっているようだった。
 一か月と少しの夏休みの思い出は、はっきり言ってほとんどない。おぼえているのはサギリの練習と、ライをむかえるための準備くらいだ。
 もしもライがこなかったら、僕の時間は今も止まったままだったかもしれない。
「そのおばあちゃんは、紀一の家族だったんだね」
 なるほど。カグヤの人たちの考え方なら、おばあさんは間違いなく僕の家族だ。
 うなずいたら、さみしい気持ちが大きくなる。
「顔をあげなよ、紀一。おばあちゃんが見てるよ」
 そんな僕を、ライがはげましてくれる。だけどその内容は、さっき僕が教えたやつだ。
 僕はくすっと笑って、上を向いた。ひんやりした風をあびて、まだ色の濃い夏の空を見あげていると、少し気持ちが軽くなった。
「ライ、ありがとう」
 すっきりした僕は顔をさげて、ライにおれいを言った。
「ところでさ、ライが地球でやりたいことってこれだけなの?」
「えっ、どうして?」
 ライはぱっと目をひらいて、こっちがびっくりするくらいのリアクションをした。
「どうして、って…たいした理由はないよ。一つの目的はかなえたし、時間もまだあるし、ほかの目的がないか気になっただけ」
「ああ、 そうなんだ」
 そしたらライは少しはにかんで、時間をおいてから「じつは、ある」と言った。
「本当に?どんなこと?」
「えっとね、音楽をつくりたいんだ」
 返事をするライの表情は、なんだかはずかしそうだった。
「ライ、音楽がつくれるの?」
「好きなだけだよ。地球で見たものや聞いたものを使って、お祭りの音楽をつくれたらなって思ってたんだ」
 ライの話す声は小さくて、みんなの前で自己紹介をした時みたいだった。
「てれなくてもいいよ。自分で曲がつくれるって、すごいことじゃん」
「え…そうかな」
「うん。そうだよ」
 僕が笑いかけると、ライもほっとして目を細める。
「どう?地球でいい音楽は作れそう?」
「まだわからない。でも、だいじょうぶだと思う」
 僕もそう思う。だって今日の計画はすごく順調だし、ライともすごくなかよくなれたし。 
 昨日みたいなトラブルが起こるなんて思えない。ライは残りの時間をいっぱい使って、地球ですてきな音楽をつくるはずだ。
「だいじょうぶだよ。ぜったいに」
 だから僕は、自信たっぷりの声でこたえた。
 
 慰霊塔をはなれるころには、琵琶湖の先に浮いていた入道雲がかなり大きくなっていた。そしてケーブルカーをおりた時にはもう、空全体がどんよりした色にそまっていた。
「夕立がくる。早く帰ろう」 
「夕立?」
「そう。すごく強い雨がふるんだ」
「本当に?楽しみ!」
 夕立と聞いたライはなぜかうれしそうに、くらくなった空を見あげた 
 そっか、衛星の中じゃ雨がふることなんてないから、めずらしいんだ。
 僕も雪がつもった時はテンションが上がるし、理解できないこともない。だけど地球人である僕は雨にぬれたくないし、ふりだす前に帰るようにしよう。
 お寺の間の坂道をおりてから、僕たちはエアサイクルを走らせる。ミュージアムをすぎたあたりから大きな雨粒がポッ、ポッと落ちてきて、すぐにはげしい雨がふりだした。
 バケツの水をかぶったように、僕たちの体はあっという間にびしょぬれになってしまう。夕立を楽しみにしてたライも、想像以上の雨におどろいて立ちつくしていた。
「止まらないで!がんばって家まで帰ろう!」
 ライはあわててペダルをふみこんで、ふたたび走りはじめた。
 だけど雨のいきおいは、弱くなるどころかますます強くなってくる。
 なんとか町の中心部までこれたけど、これ以上進むのはきびしいと思った僕は、その時いた追分町で雨やどりをすることに決めた。このふり方はぜったい夕立だ。だから、少し待ったらやむにちがいない。僕たちは道路のわきにエアサイクルをとめて、近くの家のひさしで雨をふせがせてもらうことにした。
「これが日本の夕立だよ。すごいでしょう?」
「うん!とてもすごかった!」
 さっきは足を止めるほどびっくりしていたのに、返事をするライはすごく楽しそうだ。ライにとってはこの夕立も、遊園地とかのアトラクションみたいな感覚なのかもしれない。
 そんな感じでごきげんだったライの表情が、急に変わった。どこか不思議そうに、キョロキョロとまわりを見ている。
「どうしたの?」
「なにか、聞こえる…」
 それを聞いて、僕も耳をすませてみた。
 瓦屋根や石だたみにはじける雨の音。その中に、ほんのかすかな笛の音がまざっている。
「これ、サギリの音だ」
「さぎり?」
「この町のお祭りで演奏する笛だよ。ミュージアムにもあったでしょ…あれ?」
 僕の話を聞くやいなや、ライはふらりとひさしの下を抜け出した。はげしい雨にぬれるのも気にしないで、町の中を歩きだす。何度もよびとめたけど、まるで耳に入っていないようだ。小さくなる背中を見た僕はあきらめて、雨の中に足をふみだした。
 サギリの音が聞こえてくる場所を探して、ライは追分の町を進んでいく。
 最初は迷いがちだったライの足どりも、サギリの高い音色をたどるうちにまっすぐになっていく。その方向がわかってきた僕の中では、いやな予感が大きくなっていた。
 やがてライは、とある建物の前でぴたりと足を止めた。
 とても大きな蔵づくりの建物で、どっしりとした存在感をはなっている。山の形をした屋根のてっぺんでは、鬼の顔をかたどった瓦が大きな目で通りを見おろしていた。ライがここで立ち止まったところで、僕のいやな予感は一気に強くなった。
 サギリの音はもう、僕にもはっきりと聞こえるほど大きくなっている。夕立のピークがすぎて、雨の音が小さくなっているせいかもしれないけど。
「紀一、これは誰の家なの?」
「ここは『山蔵』っていう、曳山をしまっておく建物なんだ。雨も弱くなってきたし、帰ろうよ。サギリは僕だってふけるし、こんど聞かせてあげるから」  
 僕はライをここから遠ざけようと、ちょっと強めによびかける。だけど僕を見たライはにんまりと笑って、僕が一番聞きたくなかった返事を口にした。
「紀一、ここ見たい!」
 それを聞いた僕は、がっくりと肩をおとす。
 ここまでライにはっきりたのまれたら、むりしてことわることもできない。僕は小さな声で「わかったよ」とこたえて、建物の横にある小さな扉に向かう。
 扉のとってに手をかけて、少しだけひく。サギリの音が大きくなって、ひらいた扉のすき間から光がこぼれた。光に顔を近づけたライの口から「わあ…」と声がこぼれる。はやくも心をうばわれたようだ。
 僕ももっと扉をあけて、ライの後ろからのぞきこむ。つい「うわあ」なんて声を出してしまったけれど、これは嫌な予感が的中したせいだった。
 「金色だ」ライがぽつりとつぶやく。
 明かりはそんなに多くないはず。それなのに、山蔵の中はとてもまぶしかった。
 蔵の中の曳山の装飾品が、光を反射しているからだろう。豪華ケンラン、という言葉がまさにぴったりな近海の曳山にはどれも、派手な飾りがたっぷりと使われている。
 近海の曳山と普通のおみこしのちがいは、屋根のついた舞台があることだ。お祭りの時はこの舞台で子供たちがサギリを演奏したり、踊りを披露したり、からくり人形が動いたりと、豪華で幻想的な光景がくりひろげられている。
 今はそんな追分町の曳山の舞台が、とにかく問題だった。ライはすっかり目をうばわれているし、やけにきらきらとまぶしいし、僕もそこに注目しないわけにはいかなかった。
 まず、舞台の横にはサギリを演奏している女子が一人。その奥ではもうちょっと年上の女子が一人、きらびやかな着物や飾りを身につけてゆらり・ゆらりと舞っていた。 
 彼女が向きを変え、ふりそでがひらりと宙を舞うたびに、頭にさしたかんざしや着物の銀色のししゅうがチカチカとまたたいている。
 よっぽど感激しているのか、舞をながめるライの顔はまっかになっていた。
 舞台のそばを、ジャイロオプションのついた小型カメラが飛びまわっている。曳山の横には追分の町組長である本田さんと滋賀県職員のジャケットを着た人が、いきなり入ってきた僕たちを気にしながら舞台の上を見守っていた。
 今はどうやら、県の広報番組で使う映像の撮影中だったらしい。高宮町でも同じことをやってるから、僕はすぐにわかった。
 やがてサギリの音がやんで、踊っていた女子がゆっくりと気をつけのポーズになる。ニ人そろって本田さんたちに深く頭をさげたあと、踊ってた女子がすぐにこっちを向いた。
 僕はすぐに目をそらして、ライの腕を強くつかむ。
「ライ!もう行くよ!」
 状況がわかっていないライをむりやり引っぱって、山蔵を飛び出した。
 外の雨はすっかりやんでいて、夕焼け空が広がっている。全体的に朱がさした町の中を、力まかせにどんどん進んでいく。
「紀一、どうした?さっきの人は誰?知ってるの?」
 引っぱられながら、ライが質問してくる。不思議に思って当然だ。教えたほうがいいと思ったけれど、決心するまでしばらく時間がかかった。
「さっきの女の子は、小椋さんだ」
「え?小椋さんって…もしかして」
「あとでちゃんと話すよ。とりあえず、今は早く帰ろう」
 僕はすぐに話を終わらせた。ライもあきらめてくれたのか、僕の腕をはなして歩きだす。   
 ふととなりを見たら、夕陽にてらされたライの顔はますます赤くなっていた。

 僕たちはすぐにエアサイクルに乗り、お屋敷のある町の中心へ急ぐ。
 さっきまではすごく暑かったけど、日がかたむくにつれて気温がさがってきた。
 夕立でいっぱいぬれた体にふきつける風が、とてもつめたい。ペダルをこぐ足に力が入る。そのせいで、僕は異常事態が起きていることに気がついていなかった。 
 交差する通りをトラムが横ぎったので、僕はエアサイクルをとめた。そこではじめて、ライが気になって後ろをむいた。
 ライはすっかりエアサイクルになれていたし、今までちゃんと僕について走っていた。だから僕も安心していたし、想像すらしていなかったんだ。
 まさか、僕のうしろにライがいないなんて。
 ライの姿がないとわかった瞬間に、全身をつめたい感覚が通りぬけていった。
 僕はあわててエアサイクルの向きを変えて、走ってきた道を引きかえす。
 二つ先の交差点で、ライのエアサイクルを見つけた。さっき雨宿りをした時みたいに、建物の横にたてかけてある。
 近くの路地をのぞきこんだ時、僕は「あっ」と声をあげた。
 ライがいた。道路のはじっこで、体を丸めてうずくまっている。彼のそばでは、トントが心配そうにご主人によりそっていた。
「ライ、どうしたの?」
 僕はすぐにエアサイクルからおりて、ライにかけよった。
「なんか…すごく、寒い」
 返事をするライの体はガタガタふるえていて、顔はさっきよりも赤かった。おでこに手をあてると、すごく熱い。
 そんなライの姿を見て、僕は今日のいろんなできごとを思い出した。
 朝のもうれつなエアサイクルの練習。そのままミュージアムへ行き、さらに井吹山をのぼった。その間、ライはいっしょうけんめいエアサイクルをこいだり、長い階段をはしゃいでのぼったりしていた。しかも帰りには、あのひどい夕立をあびていた。
 地球の環境になれていないライが、いきなりそれだけの運動をすればどうなるのか…こんな当たり前のことを、どうして考えられなかったんだろう。
「ライ、ここから動ける?」 
 ライは自分のひざに顔をおしつけて、大きく首を横にふる。
「どうしよう。ライ、ごめんね」
 僕にはもう、ライにあやまることしかできなかった。ほかに何もできない自分が、なさけなくて仕方ない。でも、この状況をどうしたらいいだろう?
 思いもよらない声が聞こえてきたのは、その時だった。
「体温、三八・四度。呼吸数、正常値オーバー。発汗量、正常値オーバー」
 機械的な声が、足もとから聞こえてきた。
 僕は顔を下にむける。そこにいるのは、トントだけだった。
「コンディション異常ト断定。強制通信もーどヲ起動シマス」   
 トントは赤く光っている目を点滅させながら、機械的な声でしゃべっている。いつものトントとは、あきらかに何かがちがっていた。
 トントの顔だった空間表示が切りかわり、まっ黒な画面に青い線が波をうっているような映像になる。かと思うとトントの後ろ足がさらに伸びて、すっと立ちあがった。
 トントはあっという間に、犬型から人のような二足歩行のロボットに変形してしまった。
「ライ、怖がらなくてもだいじょうぶだよ」
 人型トントになると、しゃべりかたも心がこもっている感じになった。ライがその声に反応して、少しだけ顔をあげる。
「先生、ごめんなさい」
「えっ!先生って…トントだったの?」 
 人型トントがふりかえって、今度は僕の顔を見る。
「堀部紀一君、きみも心配しなくていい。すぐにサポートがやってくるからね」
 人型トントの言葉のとおりだった。この話が終わってすぐに、町では数少ない自動車の音が聞こえてきた。
 路地の前で自動車が止まる。運転席のドアがひらき、藤彦兄ちゃんが飛びだしてきた。
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