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第二十章 美希の存在

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順調な毎日を送っていた俺は、美希と蓮也がいる生活が当たり前だと思っていた。

愛する妻に気遣いや感謝を忘れていた。

仕事が忙しくなり、毎日帰りが遅くなった。

やんちゃ盛りの蓮也が三歳を迎えた頃、美希は疲れがピークを迎えていた。

四十二歳で蓮也を追いかけ回すには無理があった。

美希は過労で入院することになった。

「蓮、ごめんなさい」

「いや、俺が全て任せっきりだったのがいけなかった、俺の責任だ」

「蓮也はどうしますか」

「保育園に預けよう、早くそうするべきだったな」

蓮也は保育園に行くことになった。


「パパ、ママは帰ってこないの?」

「ああ、疲れちゃって病院で休んでるんだ、だから、蓮也は保育園でパパが迎えに行くまで大人しく遊んでいるんだぞ」

「分かった」

保育園の初日、自分の支度と蓮也の支度で目が回る忙しさだった。

美希はこんなにも大変な思いを、文句も言わず一人でやっていたのか。

「おい、蓮也、早くしろ」

「やべえ、パパは着替えてくるから靴履いておけ」

そこにインターホンがなった。

東條だと分かっていたから、無視した。

蓮也は椅子を引っ張って、乗っかりインターホンに出てくれた。

「はい、誰?」

「あ、蓮也様ですか、東條です、社長、いやパパは支度出来たのかな」

「まだだよ、今鍵を開けるね」

蓮也はオートロックを解錠して東條を迎え入れた。

ガチャっとドアを開けて、蓮也は東條を手招きした。



「おはようございます、蓮也様」

「おはようございます、東條さん」

「ええっと、パパはどこまで支度出来てるのかな」

蓮也は俺の寝室に入ってきて「パパ、東條さんがきたよ」と声をかけてくれた。

「わかった、もう少しだ、蓮也は支度終わったのか」

「僕は完璧だよ、パパだけだよ」

朝の一コマの様子だ、もう無理、でもまだ初日だ。

いや、待てよ、俺はなんでこんなにも支度に時間がかかっているんだ。

蓮也のことだけじゃない、そうだ、美希が全て用意してくれていた。

俺はそれを着たり、身につけたりするだけでよかった。

今日は何がどこにあるのかわからない。

探すのに時間がかかっているんだ。

改めて、美希がいないと俺は何も出来ないんだと思い知らされた。

美希のありがたみを感謝した。

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