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23. 光の祝祭

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 『光の祝祭』───イビアータ王国で10年に一度開催される、女神の降臨を祝う祭りである。
 このイビアータ王国は『女神が作った国』であると信じられており、女神信仰が広く普及している。
 経典では女神は10年に一度この地に降臨すると言われ、それを祝うための祭りが『光の祝祭』である。

 ミリカは薄いピンクのワンピースに身を包み、ジャックに腕を絡ませて華やかに彩られた活気溢れる通りを楽しそうに歩いている。
 祭りのために並んだ露天を物珍しげにキョロキョロ見て、「あ、あれ美味しそう!」とか「あのお花が綺麗!」とか目を輝かせているミリカの様子を、ジャックが愛おしそうに見つめている。

 この『光の祝祭』では、ジャックルートの一大イベント『呪いの魔具』イベントが起こる予定である。
 このイベントは、祭りの最中狭い裏路地に迷い込んでしまったミリカが怪しい占い師の老婆に呼び止められることから始まる。

 老婆はミリカの運勢を勝手に占い、「もうすぐお前は死ぬ」と宣告する。
 半信半疑ながらも老婆の異様な雰囲気に恐れ慄くミリカに、老婆は紫の石がついたチャームを渡す。

「これは幸運のお守りさ。お前の不幸をただ一度だけ防いでくれるよ」

 老婆の強引な押しに負けてそれを受け取り、その場を後にするミリカ。
 その後すぐにはぐれていたジャックと合流するも、ジャックに今あったことを説明しようと老婆を振り返ると、すでに老婆は姿を消していた。

 再びジャックとともに祭りを楽しむミリカの元に、突如王都には現れないはずの魔物が姿を現す。
 魔物の出現に、楽しい祭りの雰囲気が一瞬にして阿鼻叫喚に変わる。
 大勢の人がいる中で、なぜか一直線にミリカに向かってくる魔物。

 ミリカを守るためにジャックは剣を抜き───あっという間に魔物を斬り倒す。
 さすが未来の騎士団長との呼び声高い乙女ゲームの攻略対象者だ。
 もちろん、ミリカには怪我ひとつない。

「ミリカ!大丈夫か!?」

「ジャック様!!」

 騒然とする広場の真ん中でひしと抱き合う2人。
 やがて落ち着きを取り戻した街の人はあっという間に魔物を仕留めた若き騎士に惜しみない賞賛を送りはじめる。
 拍手や声援、冷やかす声がかかって初めて周りに人がいることを思い出した2人は、顔を見合わせ真っ赤になって俯くのであった。





「恙なくイベントは終わったみたいだよ」

 一連の出来事を〝観察者の眼〟で覗き見ていたオズワルドが、ユリアンナに声をかける。

 このイベントを仕掛けたのは言うまでもなくユリアンナだ。
 裏路地でミリカに声をかけた老婆はユリアンナが雇った流浪の魔術師が変装した姿であり、ミリカに渡した紫の石のチャームはお守りなどではなく魔物を呼び寄せる魔石であった。
 魔物を呼んだ時点で魔石が消失するような魔法がかけてあり、すでに証拠も隠滅済みである。

「そう。上手くいってよかった。さすがに失敗したら怪我人が出る恐れがあったから、冷や汗をかいたわ」

 ユリアンナがほっとしたように微笑む。

「万が一の場合は俺が魔物を消す予定だったから大丈夫。元々そんなに強い魔物は呼んでいないし」

「オズがついててくれるから心強いわ」

 2人は『光の祝祭』で賑わう王都の一角、魔物が出現した広場からは少し離れた場所にあるカフェでミリカたちの様子を窺っていた。
 もちろん高度な〝認識阻害〟魔法をかけているため、そこに座っているのがユリアンナとオズワルドであるとバレる心配はない。

「この後はもう何も起こらないんだよな?」

「『光の祝祭』で起こるイベントはこれで最後のはずよ」

 ユリアンナは好物の栗を使ったケーキをフォークで小さく切り分け口に運び、オズワルドはその様子を黙って見ている。
 ケーキを食べ終えると、ユリアンナはその紅色の瞳を真っ直ぐオズワルドに向ける。

「それで……オズはこの後何か予定はあるの?」

「俺?別にないけど。古屋敷に帰るだけだよ」

 オズワルドがそう答えると、ユリアンナの紅色の瞳がパァッと輝く。

「じゃあさ、少しお祭りを見て帰らない?私、こういうお祭りに来るの初めてなの」

(祭りか………)

 オズワルドは窓の外を笑顔で行き交う人たちの楽しげな様子を眺める。
 『光の祝祭』に参加するのはもちろんオズワルドも初めてであるが、それ以前に「祭りに行きたい」などと考えたこともなかった。
 誰かと一緒に休日を過ごす未来など、自分には来ないと思っていたから。

「………いいよ」

「ほんと?やったぁ!私ね、ここに来る途中に見かけた見せ物小屋の人形劇を見てみたいなーって思ったんだけど、一緒に付き合ってくれない?」

 無邪気に差し出されたユリアンナの手を取ると、オズワルドの胸にフワフワとした高揚感が生まれる。
 2人はその日、手を繋いだまま日が暮れるまで祭りを楽しんだ。

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