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24. 魔獣の森合宿①
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2年の夏休みを迎え、《イケパー》の中でも人気の高いイベント『魔獣の森合宿』が始まる。
『魔獣の森合宿』はゴールドローズ学園の2年生に参加が義務付けられている行事で、魔獣と対峙する方法やサバイバル演習など有事に対応できる力を養うための合宿である。
本来は真面目で規律正しい行事なのだが、乙女ゲームの手にかかればあっという間にラブハプニングが満載のワクワクイベントに変わる。
合宿の2週間でこれでもかとイベントが詰め込まれ、攻略対象者たちの好感ポイントを一気に貯める絶好の機会なのだ。
例に漏れず合宿期間中にユリアンナはいくつか嫌がらせをミリカに仕掛けていて、すでに準備は整っている。
学園の生徒たちを乗せた魔導馬車は『魔獣の森』に到着し、すぐに合宿オリエンテーションが開かれる。
オリエンテーションでは、合宿の課題をこなすためのグループ分けが行われる。
ゲームではもちろんユリアンナはアレックスに一緒にグループを組むように迫るのだが、アレックスは友人であるサイラス、ジャック、オズワルドとグループを組むからとそれを断る。
そして仕方なくユリアンナは取り巻き令嬢とグループを組むのだが、現実のユリアンナにはゲームのような取り巻きはいない。
どうしたものかと考えていると、誰からも声をかけられずにオロオロとしている男子生徒が目に入る。
(あれは確か……ヘンリクス・アイゼン子爵令息ね)
ヘンリクス・アイゼンは近年急激に事業を拡大して成功を収め、多額の上納金と共に子爵位を賜ったアイゼン家の嫡男である。
叙爵の前は平民だった所謂〝成金貴族〟であるために、由緒正しい上位貴族たちからは『下賤な血』などと蔑まれ、下位貴族からは裕福さを妬まれて学園内でも浮いた存在だ。
見た目は平民に多い茶髪茶眼の平凡な容姿、背は高くも低くもなく、正直言って目立つところが何もない《イケパー》では名前すら登場しなかったモブキャラである。
ユリアンナは本当に何となく、ただ目に留まったからヘンリクスに声をかけた。
「ごきげんよう、アイゼン子爵令息。もしグループを組む相手がいないなら、わたくしと組んでくださらない?」
いきなりユリアンナに声をかけられ、ヘンリクスは大きく肩を揺らしてこれでもかと目を見開いた。
「し、し、シルベスカ公爵令嬢様!?はっ……なぜ僕の名前をっ……?」
いきなりこの学園でアレックスに次いで高貴なユリアンナに話しかけられ、ヘンリクスは動揺を隠せない。
「クラスメイトですもの、存じておりますわ。いくら不出来でもそれくらい覚える頭はありますのよ」
ユリアンナは特に気分を害するでもなく淡々と答える。
それを聞いて、ヘンリクスの茶眼がさらに見開いた。
「も、も、申し訳ございませんっ!!そのようなつもりで申したわけでは……」
「謝罪など必要ないわ。それで?わたくしとグループを組んでくださるの?」
ニッコリと微笑むユリアンナは妙な威圧感はあるがそれはそれは美しい。
それを見たヘンリクスは今度は頬を赤く染めた。
「ぼ、僕なんかが一緒でよろしいのですか……」
「ええ。わたくしが貴方に声をかけたのよ?否なんて言うわけがないでしょう」
それ以上迷うのは失礼だと思ったのであろう、ヘンリクスは覚悟を決めたように口元を引き締めた。
「………それでは、是非。ご一緒させてください」
「良かった!無理を言ってごめんなさいね。わたくしのことはユリアンナと呼んでちょうだい?貴方のことはヘンリクス様とお呼びしても?」
「は、はい………ユリアンナ様」
ホッとしたようにユリアンナが表情を緩めると、ヘンリクスもホッとしたように肩の力を抜く。
ヘンリクスは〝稀代の悪女〟ユリアンナとは同じクラスではあるが、今まで一度も会話をしたことがなかった。
(傲慢な性悪令嬢だと専らの噂だったけど……意外と気さくな方なのかも)
そんなことを考えていると、背後から急に声がかかってヘンリクスは再び肩を跳ね上げる。
「ユリ。一緒に組もう」
恐る恐る振り向くと、そこには見たことのない黒髪黒眼の生徒が立っていて、ヘンリクスは思わず「ヒッ」と慄く声を呑み込んだ。
「あら、オズ。私、こちらのヘンリクス様と一緒にグループを組むことになったのだけど、オズも加わる?」
(黒髪黒眼、オズ………まさか、最年少魔剣士オズワルド・ウォーム卿!?)
ヘンリクスがまじまじとオズワルドの顔を見ていると、オズワルドの視線がヘンリクスに向く。
「ヘンリクス・アイゼン?ユリはいつの間に彼と友達になったんだ?」
「たった今よ」
軽い口調で話す2人は、まるで旧知の仲のように見える。
ヘンリクスが2人の顔を交互に見ながら戸惑っていると、ユリアンナの紅色の瞳がヘンリクスに向く。
「オズ……オズワルド・ウォーム伯爵令息のことはご存知かしら?ヘンリクス様がよろしければ、彼をグループに加えたいのだけど」
「あっ………もちろん、です!よろしくお願いします!」
ヘンリクスが勢いよく頭を下げると、オズワルドも小さく「ああ」と返す。
ただでさえ不安を抱えて合宿に来たのにいきなりとんでもないことになってしまったと、ヘンリクスが遠い目をしたことは言うまでもない。
『魔獣の森合宿』はゴールドローズ学園の2年生に参加が義務付けられている行事で、魔獣と対峙する方法やサバイバル演習など有事に対応できる力を養うための合宿である。
本来は真面目で規律正しい行事なのだが、乙女ゲームの手にかかればあっという間にラブハプニングが満載のワクワクイベントに変わる。
合宿の2週間でこれでもかとイベントが詰め込まれ、攻略対象者たちの好感ポイントを一気に貯める絶好の機会なのだ。
例に漏れず合宿期間中にユリアンナはいくつか嫌がらせをミリカに仕掛けていて、すでに準備は整っている。
学園の生徒たちを乗せた魔導馬車は『魔獣の森』に到着し、すぐに合宿オリエンテーションが開かれる。
オリエンテーションでは、合宿の課題をこなすためのグループ分けが行われる。
ゲームではもちろんユリアンナはアレックスに一緒にグループを組むように迫るのだが、アレックスは友人であるサイラス、ジャック、オズワルドとグループを組むからとそれを断る。
そして仕方なくユリアンナは取り巻き令嬢とグループを組むのだが、現実のユリアンナにはゲームのような取り巻きはいない。
どうしたものかと考えていると、誰からも声をかけられずにオロオロとしている男子生徒が目に入る。
(あれは確か……ヘンリクス・アイゼン子爵令息ね)
ヘンリクス・アイゼンは近年急激に事業を拡大して成功を収め、多額の上納金と共に子爵位を賜ったアイゼン家の嫡男である。
叙爵の前は平民だった所謂〝成金貴族〟であるために、由緒正しい上位貴族たちからは『下賤な血』などと蔑まれ、下位貴族からは裕福さを妬まれて学園内でも浮いた存在だ。
見た目は平民に多い茶髪茶眼の平凡な容姿、背は高くも低くもなく、正直言って目立つところが何もない《イケパー》では名前すら登場しなかったモブキャラである。
ユリアンナは本当に何となく、ただ目に留まったからヘンリクスに声をかけた。
「ごきげんよう、アイゼン子爵令息。もしグループを組む相手がいないなら、わたくしと組んでくださらない?」
いきなりユリアンナに声をかけられ、ヘンリクスは大きく肩を揺らしてこれでもかと目を見開いた。
「し、し、シルベスカ公爵令嬢様!?はっ……なぜ僕の名前をっ……?」
いきなりこの学園でアレックスに次いで高貴なユリアンナに話しかけられ、ヘンリクスは動揺を隠せない。
「クラスメイトですもの、存じておりますわ。いくら不出来でもそれくらい覚える頭はありますのよ」
ユリアンナは特に気分を害するでもなく淡々と答える。
それを聞いて、ヘンリクスの茶眼がさらに見開いた。
「も、も、申し訳ございませんっ!!そのようなつもりで申したわけでは……」
「謝罪など必要ないわ。それで?わたくしとグループを組んでくださるの?」
ニッコリと微笑むユリアンナは妙な威圧感はあるがそれはそれは美しい。
それを見たヘンリクスは今度は頬を赤く染めた。
「ぼ、僕なんかが一緒でよろしいのですか……」
「ええ。わたくしが貴方に声をかけたのよ?否なんて言うわけがないでしょう」
それ以上迷うのは失礼だと思ったのであろう、ヘンリクスは覚悟を決めたように口元を引き締めた。
「………それでは、是非。ご一緒させてください」
「良かった!無理を言ってごめんなさいね。わたくしのことはユリアンナと呼んでちょうだい?貴方のことはヘンリクス様とお呼びしても?」
「は、はい………ユリアンナ様」
ホッとしたようにユリアンナが表情を緩めると、ヘンリクスもホッとしたように肩の力を抜く。
ヘンリクスは〝稀代の悪女〟ユリアンナとは同じクラスではあるが、今まで一度も会話をしたことがなかった。
(傲慢な性悪令嬢だと専らの噂だったけど……意外と気さくな方なのかも)
そんなことを考えていると、背後から急に声がかかってヘンリクスは再び肩を跳ね上げる。
「ユリ。一緒に組もう」
恐る恐る振り向くと、そこには見たことのない黒髪黒眼の生徒が立っていて、ヘンリクスは思わず「ヒッ」と慄く声を呑み込んだ。
「あら、オズ。私、こちらのヘンリクス様と一緒にグループを組むことになったのだけど、オズも加わる?」
(黒髪黒眼、オズ………まさか、最年少魔剣士オズワルド・ウォーム卿!?)
ヘンリクスがまじまじとオズワルドの顔を見ていると、オズワルドの視線がヘンリクスに向く。
「ヘンリクス・アイゼン?ユリはいつの間に彼と友達になったんだ?」
「たった今よ」
軽い口調で話す2人は、まるで旧知の仲のように見える。
ヘンリクスが2人の顔を交互に見ながら戸惑っていると、ユリアンナの紅色の瞳がヘンリクスに向く。
「オズ……オズワルド・ウォーム伯爵令息のことはご存知かしら?ヘンリクス様がよろしければ、彼をグループに加えたいのだけど」
「あっ………もちろん、です!よろしくお願いします!」
ヘンリクスが勢いよく頭を下げると、オズワルドも小さく「ああ」と返す。
ただでさえ不安を抱えて合宿に来たのにいきなりとんでもないことになってしまったと、ヘンリクスが遠い目をしたことは言うまでもない。
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